「わ、分かった! 何が望みだ……」
何が起きたのかは知らないが、状況を見るにリュードが手練れなことだけは男にも分かる。
焚き火を囲んでいる仲間がやられていることは見えているし、どうにも遅いと思っていた連中が帰ってこないことも理由を理解した。
問答無用で殺さないのならまだ生き延びるチャンスはある。
男は抵抗を諦めて、生き延びる方法を男は考え始めた。
仲間の仇討ちなんてするつもりもない。
「俺の望みはお前の全てだ」
連れている奴隷を渡してもらうことはもちろん、連れていない奴隷の情報も全て吐いてもらう。
ある意味で奴隷商人としての全てをリュードは望む。
「お前……一体……」
「お前に質問の権利はない。黙って答えろ」
低くてドスの効いた声。
リュードのこんな声をあまり聞くことがないので、後ろでルフォンはちょっとゾクゾクとした気持ちになっていた。
奴隷商人として活動する以上、ヤバい人も相手にすることがある。
どこまで本気か分からない人も多いが、リュードの目からは本気が見て取れる。
男は大人しくうなずく。
たとえ全てを失っても命さえあればそれでいい。
命さえあるなら自由な分奴隷よりもマシだなんてすら思う。
「馬車の鍵は?」
「俺の腰に付けてある」
「動くなよ」
リュードは男の腰に付けてある鍵を取ると後ろのルフォンに投げ渡す。
ルフォンは鍵を受け取るとすぐさま馬車の後ろに回る。
鍵を開けて馬車を開ける。
ほとんど箱のような馬車には小窓しかなく中は暗かった。
ドアが開いて光が差し込み、中にいた人たちが光に怯むと同時に怯えたような表情を浮かべた。
中には女の子ばかりが十数人。
どの子も身なりは薄汚れていて、痩せ細っている。
「どうだ?」
「大丈夫そう!」
弱っていそうだけど命には別状がなさそうだ。
もう一台の馬車の方は男たちが乗っていたもののようで、荷物が詰め込まれていて女の子は乗っていなかった。
「さて……あんたは俺ともうちょっとお話ししようか」
あとは話を聞き出す。
奴隷の子たちが怯えてしまうといけないので、リュードは男を引きずるようにして連れて行く。
「お姉ちゃん!」
「マリー!」
女の子の中に一人、目のあたりをひどく腫らした栗色の髪の子がいた。
マリーを逃すために暴れて男たちにぶん殴られたマリーの姉のジェーンであった。
マリーはジェーンを見つけて抱き合う。
みんな状況がわかっていないようであったが、ルフォンが助けに来たというとホッとした表情を浮かべて泣き出す子までいた。
「私のために……」
「これぐらいなんでもないわ」
痛々しく目が腫れているが、ジェーンは優しくマリーに微笑みかける。
逃げてくれればいいと思っていたが、まさか助けを連れて戻ってくるなんて思いもしなかった。
「良かった……無事で良かった」
「お姉ちゃんも……無事で良かったよぅ」
一人二人と泣き出す子が増えていく。
劣悪な環境に置かれて、人のことを商品としか見ていない奴隷商人から解放された安堵をようやく実感し始めた。
ジェーンの目はコユキが治してやり、そうしている間にお話を終えたリュードが一人で戻ってきた。
「さてと問題はこれからだな……」
どうしようかと悩んだ。
女の子たちには靴もないぐらいで、体力的にもかなり衰えてしまっている。
移動も楽じゃない。
「一度引き返すことにしようか」
女の子たちには再び馬車に乗ってもらってリュードたちは少し移動をする。
そこでルフォンが料理を作って振る舞ったり、リュードが馬車を少々破壊して窓を大きくして風通しを良くしたり改造した。
このままウルギアに女の子たちを連れてはいけない。
でも女の子たちだけで好きに行けと言うのも無責任すぎる。
だからリュードたちは女の子たちを馬車に乗せて来た道を戻ることにした。
こんな時でもコユキは大活躍でみんなの癒しとして君臨していた。
そして戻って大きめの都市まで行く。
「こんなことお任せしてすいません」
「いえ、これもまた神の思し召し……必要な救済です」
向かったのは教会だった。
こうした人々の救済もまた教会が担ってくれている。
ちょっとばかりダリルの名前を借りたりしてお願いし、メリーやジェーンも含めて奴隷にされていた女の子たちは教会の方で引き取ってもらった。
なんとなく話を聞いた限り、女の子たちは借金が原因で奴隷に落ちることになったようだ。
それが汚い罠だったかどうかは確かめようもないが、帰る場所もないことは確かである。
教会で新しい生活を見つけることになる。
連れてこられた子は容姿が整った子も多いし、教会が支援してくれればどうにかみんな立ち直れるだろう。
連れて行かれた目的のために男たちに手を出されることもなかったので、トラウマも比較的軽くて済んでいるはずだ。
教会には迷惑を押し付ける形になってしまったのに、奴隷を救って連れてきてくれたことを逆に感謝までされた。
その後リュードたちは冒険者ギルドに向かった。
「奴隷商人の情報、ありがとうございます。こちらにお任せください。しっかりと対処いたします」
男とお話をしたリュードは、いくつかある奴隷商人の拠点や取引先を聞き出していた。
ウルギア国内のものには手を出せないが、他の国においては表向き合法な奴隷取引以外は禁じられている。
リュードたちがそれらを潰して回ることはできないけれども、違法な奴隷取引の撲滅は冒険者ギルドがやっているので報告を入れておく。
借金を返すために人権を保障された合法奴隷はともかく違法な奴隷は許せない。
最後に教会に大きめの寄付をした。
他の拠点からマリーとジェーンの親が見つかればいいなとリュードたちは思ったのだった。
何が起きたのかは知らないが、状況を見るにリュードが手練れなことだけは男にも分かる。
焚き火を囲んでいる仲間がやられていることは見えているし、どうにも遅いと思っていた連中が帰ってこないことも理由を理解した。
問答無用で殺さないのならまだ生き延びるチャンスはある。
男は抵抗を諦めて、生き延びる方法を男は考え始めた。
仲間の仇討ちなんてするつもりもない。
「俺の望みはお前の全てだ」
連れている奴隷を渡してもらうことはもちろん、連れていない奴隷の情報も全て吐いてもらう。
ある意味で奴隷商人としての全てをリュードは望む。
「お前……一体……」
「お前に質問の権利はない。黙って答えろ」
低くてドスの効いた声。
リュードのこんな声をあまり聞くことがないので、後ろでルフォンはちょっとゾクゾクとした気持ちになっていた。
奴隷商人として活動する以上、ヤバい人も相手にすることがある。
どこまで本気か分からない人も多いが、リュードの目からは本気が見て取れる。
男は大人しくうなずく。
たとえ全てを失っても命さえあればそれでいい。
命さえあるなら自由な分奴隷よりもマシだなんてすら思う。
「馬車の鍵は?」
「俺の腰に付けてある」
「動くなよ」
リュードは男の腰に付けてある鍵を取ると後ろのルフォンに投げ渡す。
ルフォンは鍵を受け取るとすぐさま馬車の後ろに回る。
鍵を開けて馬車を開ける。
ほとんど箱のような馬車には小窓しかなく中は暗かった。
ドアが開いて光が差し込み、中にいた人たちが光に怯むと同時に怯えたような表情を浮かべた。
中には女の子ばかりが十数人。
どの子も身なりは薄汚れていて、痩せ細っている。
「どうだ?」
「大丈夫そう!」
弱っていそうだけど命には別状がなさそうだ。
もう一台の馬車の方は男たちが乗っていたもののようで、荷物が詰め込まれていて女の子は乗っていなかった。
「さて……あんたは俺ともうちょっとお話ししようか」
あとは話を聞き出す。
奴隷の子たちが怯えてしまうといけないので、リュードは男を引きずるようにして連れて行く。
「お姉ちゃん!」
「マリー!」
女の子の中に一人、目のあたりをひどく腫らした栗色の髪の子がいた。
マリーを逃すために暴れて男たちにぶん殴られたマリーの姉のジェーンであった。
マリーはジェーンを見つけて抱き合う。
みんな状況がわかっていないようであったが、ルフォンが助けに来たというとホッとした表情を浮かべて泣き出す子までいた。
「私のために……」
「これぐらいなんでもないわ」
痛々しく目が腫れているが、ジェーンは優しくマリーに微笑みかける。
逃げてくれればいいと思っていたが、まさか助けを連れて戻ってくるなんて思いもしなかった。
「良かった……無事で良かった」
「お姉ちゃんも……無事で良かったよぅ」
一人二人と泣き出す子が増えていく。
劣悪な環境に置かれて、人のことを商品としか見ていない奴隷商人から解放された安堵をようやく実感し始めた。
ジェーンの目はコユキが治してやり、そうしている間にお話を終えたリュードが一人で戻ってきた。
「さてと問題はこれからだな……」
どうしようかと悩んだ。
女の子たちには靴もないぐらいで、体力的にもかなり衰えてしまっている。
移動も楽じゃない。
「一度引き返すことにしようか」
女の子たちには再び馬車に乗ってもらってリュードたちは少し移動をする。
そこでルフォンが料理を作って振る舞ったり、リュードが馬車を少々破壊して窓を大きくして風通しを良くしたり改造した。
このままウルギアに女の子たちを連れてはいけない。
でも女の子たちだけで好きに行けと言うのも無責任すぎる。
だからリュードたちは女の子たちを馬車に乗せて来た道を戻ることにした。
こんな時でもコユキは大活躍でみんなの癒しとして君臨していた。
そして戻って大きめの都市まで行く。
「こんなことお任せしてすいません」
「いえ、これもまた神の思し召し……必要な救済です」
向かったのは教会だった。
こうした人々の救済もまた教会が担ってくれている。
ちょっとばかりダリルの名前を借りたりしてお願いし、メリーやジェーンも含めて奴隷にされていた女の子たちは教会の方で引き取ってもらった。
なんとなく話を聞いた限り、女の子たちは借金が原因で奴隷に落ちることになったようだ。
それが汚い罠だったかどうかは確かめようもないが、帰る場所もないことは確かである。
教会で新しい生活を見つけることになる。
連れてこられた子は容姿が整った子も多いし、教会が支援してくれればどうにかみんな立ち直れるだろう。
連れて行かれた目的のために男たちに手を出されることもなかったので、トラウマも比較的軽くて済んでいるはずだ。
教会には迷惑を押し付ける形になってしまったのに、奴隷を救って連れてきてくれたことを逆に感謝までされた。
その後リュードたちは冒険者ギルドに向かった。
「奴隷商人の情報、ありがとうございます。こちらにお任せください。しっかりと対処いたします」
男とお話をしたリュードは、いくつかある奴隷商人の拠点や取引先を聞き出していた。
ウルギア国内のものには手を出せないが、他の国においては表向き合法な奴隷取引以外は禁じられている。
リュードたちがそれらを潰して回ることはできないけれども、違法な奴隷取引の撲滅は冒険者ギルドがやっているので報告を入れておく。
借金を返すために人権を保障された合法奴隷はともかく違法な奴隷は許せない。
最後に教会に大きめの寄付をした。
他の拠点からマリーとジェーンの親が見つかればいいなとリュードたちは思ったのだった。


