「あまり大きな声を出すな。焦らなくとも大丈夫。疑っちゃいないよ。見ろ」
リュードは屈んで地面に手をつける。
「俺たちがマリーと会う前には雨が降っていた。そして奴隷を運んでいるということは馬車、それもかなりの重量になるはずだ。これは馬車の車輪の跡だ」
マリーたちは馬車にすし詰めにされて運ばれていた。
十数人もいたらしく、そうなると馬車はかなりの重さになる。
同時に、少し前に雨が降っていて地面はややぬかるんでいる。
素人の浅知恵ではあるが、重たい馬車がぬかるんだ地面を走れば深い轍の跡が残るのは当然のことだろう。
道沿いにずっと轍の跡が続いている
これはそう遠くない時間に馬車が通っていったことを示している。
「このまま先に行ってるみたいだな。追いかけよう」
リュードたちは轍の跡を追っていく。
仮に進み始めていてもこれほど深く轍の跡が残るぐらいなら走りにくくもあるだろうからそう遠くまで行けないはず。
まだ追いつける希望はあると思っていた。
「あの馬車です!」
「ようやく見えたな」
少しずつ空が明るくなってきた。
道に出て轍を辿り始めてから程なくして、道の端に停めてある二台の馬車が見えた。
マリーの記憶よりも少し先に止まっていたようである。
相手の様子を遠くから観察する。
仲間を待っているのか、それとも単に朝早くから動くつもりもないのかは離れているところからでは分からない。
道の両側は木がまばらに生えるだけの草原で、身を隠すところは少ない。
「見張りっぽいのはいないね」
幸いなことに馬車は見えるが人の姿はない。
つまり見張りなどは立てていないことになる。
「今なら見つからずに接近できそうだな」
ラストとマリーにコユキを任せて、リュードとルフォンの二人で気配を消して馬車に近づく。
まだ薄暗い遠目から見ると単なる馬車だったが、近づいてみると馬車の作りは粗雑で、馬車というよりも車輪の付いた箱のようであった。
中にいるであろう人たちの無事も確認したいけど、バレて声でも出されると面倒なことになるので後回しにして奴隷商人を確認することにした。
馬車の角から少し顔を出して前の方の様子を伺う。
馬車に寄りかかっている人が思っていたよりも近くて驚いたが、寝ていてリュードには気づいていない。
寄りかかって寝ている奴が見張りのようだけど、見張りとしての役割は果たしていなかった。
「不用心なこった……」
馬車横のスペースにある燃え尽きた焚き火を囲む男たちが三人、そして御者台に寝転がっている男が一人いる。
寝ている場所から推測してみる、とぬかるんだ地面に寝るより一人しか寝られない御者台に寝られる男の方が立場が上であろうと思う。
つまりはこの御者台の男がリーダーに違いない。
多少聞きたいこともあるが、全員を生かしておく必要はない。
「リーダーを残して……」
「うん、そうしよう」
リュードは声をひそめてルフォンと作戦会議する。
見張りと焚き火を囲む男を一人ずつをルフォンが、残りの焚き火を囲む男の二人をリュードがやる。
御者台の男は後回しにして、周りから片付けて最後に倒してしまうことにした。
みんなまだ深く眠っているし、見張りを倒せば苦労なく倒せるだろう。
一応ラストたちに手を振って身振りで襲撃することを伝える。
するとふわりと体が軽くなってコユキが強化支援してくれた。
ドヤ顔のコユキは両手を前に突き出して集中している。
まだ余裕でやれているわけではないが、結構距離が離れているのにしっかりと神聖力が届かせることが出来るようになっていることにはちょっと感動だ。
「いくぞ」
リュードの言葉にルフォンがうなずき返す。
剣を抜いたリュードが一気に走り出す。
ほとんど目を閉じて、ぼんやりとした意識の中で視界の端で黒いものが動くのが見えた。
見張りの男がトイレにでも起き上がった仲間かともう少し目を開けたその時には、リュードは焚き火を囲む男の一人に近づいて剣を振り上げていた。
「なっ……」
理解はまだ追いついていないが、異常事態なことだけは分かった。
とにかく仲間を起こさなきゃならない。
不十分に覚醒した脳がとりあえず声を出そうと息を吸い込んだ。
しかし、声は出なかった。
リュードを見ている間にルフォンが見張りの男の横に接近してナイフを振っていた。
まだ半分寝ているからか痛みは感じなかった。
ただ声は出ず、その理由もわからない。
妙な首の熱さを感じたまま見張りの男の意識は失われて倒れた。
苦痛も感じなかったのでそれは幸運だったのかもしれない。
リュードも邪魔が入らなかったのでそのまま剣を振り下ろす。
早技、手際も良くあっという間の出来事。
不安げに見ていたマリーはリュードたちの流れるような動きにただ見入ってしまっていた。
「んあ、なんだぁ?」
ルフォンがもう一人を静かに切り裂き、リュードも最後の男を倒した。
やられた時に僅かに呻き声を上げた。
その呻き声に気がついて御者台に寝ていた男が目を覚ました。
僅かな物音に反応したのは見事だけど、襲撃の音だとは思わず起きた後の動きは遅い。
そもそも起きるのが遅すぎた。
リュードは素早く飛びかかり、男の頭を掴んで御者台に叩きつける。
「グァッ!?」
寝ぼけ眼が一気に目覚める。
激痛に頭は覚醒するが、状況が飲み込めない。
「動くな。動いたら容赦なく首を刎ねるからな」
目の前に剣が突き立てられて男の体がびくりと震える。
頭を動かして周りを見ると血に濡れて地面に倒れて動かない仲間と冷たい目をするリュードの顔が見えた。
「な、何者だお前ら! 何が目的でこんなことを……」
「うるさい! 状況をよく見るんだな」
リュードが剣を傾けると首筋に当たってチクリとする痛みが走る。
リュードは屈んで地面に手をつける。
「俺たちがマリーと会う前には雨が降っていた。そして奴隷を運んでいるということは馬車、それもかなりの重量になるはずだ。これは馬車の車輪の跡だ」
マリーたちは馬車にすし詰めにされて運ばれていた。
十数人もいたらしく、そうなると馬車はかなりの重さになる。
同時に、少し前に雨が降っていて地面はややぬかるんでいる。
素人の浅知恵ではあるが、重たい馬車がぬかるんだ地面を走れば深い轍の跡が残るのは当然のことだろう。
道沿いにずっと轍の跡が続いている
これはそう遠くない時間に馬車が通っていったことを示している。
「このまま先に行ってるみたいだな。追いかけよう」
リュードたちは轍の跡を追っていく。
仮に進み始めていてもこれほど深く轍の跡が残るぐらいなら走りにくくもあるだろうからそう遠くまで行けないはず。
まだ追いつける希望はあると思っていた。
「あの馬車です!」
「ようやく見えたな」
少しずつ空が明るくなってきた。
道に出て轍を辿り始めてから程なくして、道の端に停めてある二台の馬車が見えた。
マリーの記憶よりも少し先に止まっていたようである。
相手の様子を遠くから観察する。
仲間を待っているのか、それとも単に朝早くから動くつもりもないのかは離れているところからでは分からない。
道の両側は木がまばらに生えるだけの草原で、身を隠すところは少ない。
「見張りっぽいのはいないね」
幸いなことに馬車は見えるが人の姿はない。
つまり見張りなどは立てていないことになる。
「今なら見つからずに接近できそうだな」
ラストとマリーにコユキを任せて、リュードとルフォンの二人で気配を消して馬車に近づく。
まだ薄暗い遠目から見ると単なる馬車だったが、近づいてみると馬車の作りは粗雑で、馬車というよりも車輪の付いた箱のようであった。
中にいるであろう人たちの無事も確認したいけど、バレて声でも出されると面倒なことになるので後回しにして奴隷商人を確認することにした。
馬車の角から少し顔を出して前の方の様子を伺う。
馬車に寄りかかっている人が思っていたよりも近くて驚いたが、寝ていてリュードには気づいていない。
寄りかかって寝ている奴が見張りのようだけど、見張りとしての役割は果たしていなかった。
「不用心なこった……」
馬車横のスペースにある燃え尽きた焚き火を囲む男たちが三人、そして御者台に寝転がっている男が一人いる。
寝ている場所から推測してみる、とぬかるんだ地面に寝るより一人しか寝られない御者台に寝られる男の方が立場が上であろうと思う。
つまりはこの御者台の男がリーダーに違いない。
多少聞きたいこともあるが、全員を生かしておく必要はない。
「リーダーを残して……」
「うん、そうしよう」
リュードは声をひそめてルフォンと作戦会議する。
見張りと焚き火を囲む男を一人ずつをルフォンが、残りの焚き火を囲む男の二人をリュードがやる。
御者台の男は後回しにして、周りから片付けて最後に倒してしまうことにした。
みんなまだ深く眠っているし、見張りを倒せば苦労なく倒せるだろう。
一応ラストたちに手を振って身振りで襲撃することを伝える。
するとふわりと体が軽くなってコユキが強化支援してくれた。
ドヤ顔のコユキは両手を前に突き出して集中している。
まだ余裕でやれているわけではないが、結構距離が離れているのにしっかりと神聖力が届かせることが出来るようになっていることにはちょっと感動だ。
「いくぞ」
リュードの言葉にルフォンがうなずき返す。
剣を抜いたリュードが一気に走り出す。
ほとんど目を閉じて、ぼんやりとした意識の中で視界の端で黒いものが動くのが見えた。
見張りの男がトイレにでも起き上がった仲間かともう少し目を開けたその時には、リュードは焚き火を囲む男の一人に近づいて剣を振り上げていた。
「なっ……」
理解はまだ追いついていないが、異常事態なことだけは分かった。
とにかく仲間を起こさなきゃならない。
不十分に覚醒した脳がとりあえず声を出そうと息を吸い込んだ。
しかし、声は出なかった。
リュードを見ている間にルフォンが見張りの男の横に接近してナイフを振っていた。
まだ半分寝ているからか痛みは感じなかった。
ただ声は出ず、その理由もわからない。
妙な首の熱さを感じたまま見張りの男の意識は失われて倒れた。
苦痛も感じなかったのでそれは幸運だったのかもしれない。
リュードも邪魔が入らなかったのでそのまま剣を振り下ろす。
早技、手際も良くあっという間の出来事。
不安げに見ていたマリーはリュードたちの流れるような動きにただ見入ってしまっていた。
「んあ、なんだぁ?」
ルフォンがもう一人を静かに切り裂き、リュードも最後の男を倒した。
やられた時に僅かに呻き声を上げた。
その呻き声に気がついて御者台に寝ていた男が目を覚ました。
僅かな物音に反応したのは見事だけど、襲撃の音だとは思わず起きた後の動きは遅い。
そもそも起きるのが遅すぎた。
リュードは素早く飛びかかり、男の頭を掴んで御者台に叩きつける。
「グァッ!?」
寝ぼけ眼が一気に目覚める。
激痛に頭は覚醒するが、状況が飲み込めない。
「動くな。動いたら容赦なく首を刎ねるからな」
目の前に剣が突き立てられて男の体がびくりと震える。
頭を動かして周りを見ると血に濡れて地面に倒れて動かない仲間と冷たい目をするリュードの顔が見えた。
「な、何者だお前ら! 何が目的でこんなことを……」
「うるさい! 状況をよく見るんだな」
リュードが剣を傾けると首筋に当たってチクリとする痛みが走る。


