「やるよ」

「こりゃ助けるしかないでしょ!」

 聞くまでもなく視線を向けただけで、ルフォンとラストが答える。
 ちょうどそんなことも話したばかりだし、事情を聞いてしまえばもうこうなることは分かっていた。

 特にリュードも奴隷というものを嫌っているので、助けられるなら助けたいと強く思っていた。
 ボロ布与えられるだけマシなのか、上半身裸がマシなのか、どっちがマシなのかは知らない。

 だけど靴も与えられず食事すらマトモにもらえないのは、どうにも合法奴隷とも思えない。
 人の命を食い物にするクズには痛い目を見てもらう。

「とりあえず今日は休もう」

「えっ!?」

「気持ちは分かるがダメだ」

 リュードの言葉にラストは驚いた顔をする。
 てっきりすぐさま直行するぐらいのつもりでいたのに休むなんて予想外だった。

「もう夜も遅い。コユキも寝ているし魔物の危険もある。マリーだって逃げてきて疲れてるだろうし少し休んで朝を待とう」

 焦って行動するのが一番良くない。
 マリーたちはどこか別の場所に運ばれる最中に逃げ出した。

 他にも奴隷はいるらしいし、マリーを追いかけていった男たちが戻ってこないのなら奴隷商人たちも身動きは取れないはず。
 一晩休んだところで遠くまで行くとは思えない。

 それなら余裕を持って休む。
 相手が寝ているか、寝ずに待っていたら眠気のピークになるだろう朝方に襲撃するのが良い。

 今からコユキを叩き起こすわけにもいかないし、マリーも全てを話して安心感からか眠たそうにしている。
 動き出すのは朝を待ってからにすることになった。

 ーーーーー

「起きて」

 疲れていてもっと休みたいだろうけど、ルフォンがマリーを揺すって起こす。
 マリーが目を開けてみるとまだ周りは薄暗いほどの時間である。

 眠りはじめてからそんなに時間が経ってもいなかった。

「食べて」

 リュードたちはすでに荷物の片付けを始めていた。

「う……うぅ……」

「どうしたの?」

 グッと堪えようとするけど堪えきれなくて涙が溢れ出すマリーに、ルフォンが心配そうにマリーの顔を覗き込む。

 ルフォンが渡したのは温めたスープとパンで、簡易的なものだが変なものではない。

「こんなにちゃんとした食事久しぶりで……」

 具のほとんどないスープでも貰えるだけありがたかった。
 リュードは自分の奴隷にされた時を思い出してみたが、マリーの状況はリュードよりもはるかに悪そうだった。

 ルフォンも怒りに眉をひそめる。
 食事すらマトモに与えないなんて許されるはずがない。

 マリーが食べ終えるのを待ってリュードたちは出発する。
 コユキもなんとなくやることの雰囲気を感じ取っているのか、真面目な顔をしている。

 どうにも進んでいた進路を考えると、奴隷商人はリュードたちと同じ方向に向かっているようであった。
 リュードたちが向かっていたのは、夜の訪れない森と呼ばれる場所があるウルギアという国である。

「ウルギアか……それなら納得もできるな」

 ただ実はウルギアという国はあまり向かいたくない国ではあった。
 なぜならウルギアは奴隷という制度が廃れゆく中にありながら、奴隷の売買を禁じていない国なのである。

 大規模な奴隷マーケットが国内に数ヶ所あって、違法な奴隷であっても所有することが禁じられていない。
 奴隷を容認することで、奴隷商人からの収入を得ることを選んだ小汚い国なのである。

 秘密裏にやられる奴隷マーケットよりは管理されているとは言えるけれど、今の時代の流れにはそぐわない。
 かなり批判も多いのだが、合法的に奴隷を売り買いできるとあって他国のお偉い方でもお世話になっている人も少なからずいる。

 そのためにウルギアは他の国からの干渉も受けないで奴隷を扱っている数少ない国なのである。
 自国民は奴隷にすることを禁じていたり自国内で人をさらって奴隷にすることを禁じていることはあるが、それだって安全を保障してくれるものでもない。

 だけど奴隷によって利益を得て奴隷によって生活しているウルギアの人は、もう感覚的に奴隷がいけないものだと思っていない。
 ウルギア国内で奴隷にされることは少ないが、その周辺では奴隷商人などがいるので危険が大きい。

 だからあまり近寄りたくない国がウルギアなのだ。
 今回は理由があって向かっているけど、まさか本当にこんな風に奴隷を連れて向かっていると聞くと気分は良くない。

「少し急ぐぞ。マリー大丈夫か?」

「は、はい!」

 マリーの姉を助け出すのも少し急がねばならない。
 ウルギアに向かうまでの道は同じだけど、ウルギアに入ってしまうとそこからどこに向かうのかは分からない。

 今のうちに追いついて動き出す前に仕留めたい。
 なので速さ重視でマリーには悪いが速度を上げて移動する。

「大丈夫そうか?」

「これならいくらでも走れそうです」

 流石に休息も十分ではないし、一般人であるマリーが走ってリュードたちについていくのは大変だ。
 だからリュードたちは速度を落とし、マリーをコユキが強化支援して出来る限りの速さで進む。

 コユキはリュードがおんぶして走っている。
 キリッとした顔してたコユキだけど、おんぶされるのが嬉しくて時々顔がへにゃっと笑う。

 奴隷商人たちはリュードたちが通っていた道とは違う道を行っている。
 マリーの記憶を頼りに奴隷商人たちの場所を予想して道に向かっていく。

「た、たぶんこの辺りだと思うんですけど……」

 夜遅く、脇目も振らず走って逃げていた。
 正直な話、マリーの記憶だけで奴隷商人を探すのは難しい。

 ひとまず奴隷商人が通っていると思われる道に出てきたので、そこから探していく。
 奴隷商人の姿がなくてマリーの焦りが大きくなっていく。