「はっ!」
身を低く保ち、闇の中を素早く移動するルフォンは敵にとって何人かが同時に攻めてきたようにも感じられる。
ろくな指示役もおらず、ただ混乱極める男たちは立て直しを図ることもできない。
「らっくしょーだね!」
ここまで楽勝だとつまらぬものを切ってしまったなどと口に出してみたくなるぐらいだった。
「ケガは?」
「もっちろんなし!」
「全然大丈夫だよ!」
黒地のマントなので分かりにくいが、ルフォンは返り血すらほとんど浴びていない。
パサリとフードを取ると、窮屈そうにしていたミミがピョンと飛び出すように立った。
「そっちの子はどうだ?」
「大丈夫そう。裸足で走ったから足は傷だらけだったけど、コユキが治しちゃったし体は平気かな。ちょっと栄養が足りてない……かな?」
リュードたちのところに逃げ込んできた女の子の足は土と血で汚れているけど、体に大きな怪我はない。
疲労しているようには見えるものの、とりあえず心配はいらないようだった。
「話を聞きたいところだけど移動しよう」
派手に戦いで騒いで、今は死体と血がそこらにある。
男たちの仲間がいることも心配だし、魔物が寄ってくることも心配である。
リュードたちは手早く荷物を片付けて、道に沿って少し移動することにした。
女の子にはラストの予備の靴を渡して履いてもらって、無理矢理移動に付き合ってもらう。
女の子の状態を見ると移動しないのがいいのだけど、周りの状況を見ると移動した方が安全で楽なのである。
「ネムイ……」
「おいで」
もうとっくにコユキはオネムの時間だ。
戦いがひと段落して緊張も解けると、コユキは眠そうに目をこすっていた。
リュードはコユキを抱っこして移動をする。
コユキは広くて暖かいリュードの胸に抱かれてスヤスヤ眠ってしまった。
「ここいらでいいか」
男たちと戦った場所から少し離れたところに腰を下ろす。
古い焚き火の跡があって、開けた感じになっているので野営地としては良い場所だ。
追手がいたら容易く見つかってしまうだろうが、コユキも寝ているし女の子も疲労が大きいらしく移動に限界があったのでここらが妥協点である。
先にテントを一つ張ってコユキを寝かせる。
次に誰か襲いにきたら問答無用で倒して高火力で一気に燃やしてしまおう。
「それじゃあ話を聞かせてもらおうか?」
焚き火の用意をするのが面倒なので魔道具のランプを取り出して使うことにする。
魔力を込めれば使えて結構明るい代物でルフォンにも簡単に使えるぐらいのお高めな品である。
だけど焚き火を燃やしているよりも魔物を遠ざける効果が弱いのが難点だ。
「私はマリーと言います。どうか私の姉を助けてくれませんか!」
ボロボロと泣き出すマリー。
コユキが寝ているので声を落とすように言うと我慢するように声を殺して泣いていた。
「助けるも助けないも話を聞いてからだ」
おそらく事情を聞いたところで答えは変わらない。
でも何も聞かないで助けようとは言えない。
「うっ……私は……ううっ……」
「焦らず、少しずつでいい。ゆっくりと話すんだ」
「はい……すいません」
「これ飲んで」
「ありがとうございます……」
マリーの隣に腰掛けたルフォンがカップを手渡す。
嗅いでいると気分の落ち着くお茶にたっぷりと砂糖を入れてあげたものである。
持っているだけでも手が温まってきて、少し気分が落ち着いていく。
「ぐすっ……」
「よしよし」
少しすすってみると甘くて、熱いお茶が喉を通ると胸があったかくなる。
ルフォンはマリーの背中を優しく撫でてあげる。
もう何口かお茶を飲んでいると、少し眠たくなってしまうほどに体が温まってきた。
そしてマリーは事情を話し始めた。
「実は……」
ありがちな悲劇的な話。
マリーは姉のジェーンと共に奴隷商人に売られたのだ。
マリーは元々商人の娘でそんなに余裕もないが、ちゃんと食べて生きていけるだけの事業を父親はやっていた。
ある時により上を目指すために良いパートナーを見つけたと父親が嬉しそうにしていた。
上手くいけば生活がかなり楽になる。
基盤が整いあちこちに出向かなくても生活できるだけの収入を得られるようになるはずだった。
しかし父親の事業は失敗。
投資した事業は大損害を出してしまった。
そこから転落が始まったのである。
何が起きたのかはマリーにもよく分からなかった。
損害を補填するお金を作る時間もなく父親は全てを失い、それでもまだ足りないと一家丸ごと奴隷に落とされてしまったのである。
「ひどい話!」
「……ないとは言い切れない話だな」
ラストはマリーの話を聞いて憤るが、まだまだこの世界では否定できる話ではないとリュードはため息をついた。
奴隷として売られる過程で、マリーとジェーンは若くて高値で売れそうであると両親と別れ離れになって別の場所に運ばれることになった。
あまりにも早く、あまりにも突然の出来事だったとマリーは再び涙をこぼした。
「よく考えるとおかしかったんですよね。慎重で大きな賭けをせずにコツコツと生きてきた父がいきなりあんなことするなんて……それからの展開も早すぎます。まるで仕組まれているよう……仕組まれていたんです」
運ばれる時にマリーは奴隷商人の話を聞いてしまったのだ。
全ての裏にいたのは奴隷商人で、マリーの父親は最初から騙されていたのである。
失意の中、正気に戻ったジェーンがなんとかマリーだけでも逃そうとして暴れ、その隙にマリーは逃げ出した。
けれど靴すらないマリーは食事もろくに与えられておらず、ただ走ることしかできなかった。
そこでたまたま明かりを見つけて行ってみるとリュードたちがいたのだ。
身を低く保ち、闇の中を素早く移動するルフォンは敵にとって何人かが同時に攻めてきたようにも感じられる。
ろくな指示役もおらず、ただ混乱極める男たちは立て直しを図ることもできない。
「らっくしょーだね!」
ここまで楽勝だとつまらぬものを切ってしまったなどと口に出してみたくなるぐらいだった。
「ケガは?」
「もっちろんなし!」
「全然大丈夫だよ!」
黒地のマントなので分かりにくいが、ルフォンは返り血すらほとんど浴びていない。
パサリとフードを取ると、窮屈そうにしていたミミがピョンと飛び出すように立った。
「そっちの子はどうだ?」
「大丈夫そう。裸足で走ったから足は傷だらけだったけど、コユキが治しちゃったし体は平気かな。ちょっと栄養が足りてない……かな?」
リュードたちのところに逃げ込んできた女の子の足は土と血で汚れているけど、体に大きな怪我はない。
疲労しているようには見えるものの、とりあえず心配はいらないようだった。
「話を聞きたいところだけど移動しよう」
派手に戦いで騒いで、今は死体と血がそこらにある。
男たちの仲間がいることも心配だし、魔物が寄ってくることも心配である。
リュードたちは手早く荷物を片付けて、道に沿って少し移動することにした。
女の子にはラストの予備の靴を渡して履いてもらって、無理矢理移動に付き合ってもらう。
女の子の状態を見ると移動しないのがいいのだけど、周りの状況を見ると移動した方が安全で楽なのである。
「ネムイ……」
「おいで」
もうとっくにコユキはオネムの時間だ。
戦いがひと段落して緊張も解けると、コユキは眠そうに目をこすっていた。
リュードはコユキを抱っこして移動をする。
コユキは広くて暖かいリュードの胸に抱かれてスヤスヤ眠ってしまった。
「ここいらでいいか」
男たちと戦った場所から少し離れたところに腰を下ろす。
古い焚き火の跡があって、開けた感じになっているので野営地としては良い場所だ。
追手がいたら容易く見つかってしまうだろうが、コユキも寝ているし女の子も疲労が大きいらしく移動に限界があったのでここらが妥協点である。
先にテントを一つ張ってコユキを寝かせる。
次に誰か襲いにきたら問答無用で倒して高火力で一気に燃やしてしまおう。
「それじゃあ話を聞かせてもらおうか?」
焚き火の用意をするのが面倒なので魔道具のランプを取り出して使うことにする。
魔力を込めれば使えて結構明るい代物でルフォンにも簡単に使えるぐらいのお高めな品である。
だけど焚き火を燃やしているよりも魔物を遠ざける効果が弱いのが難点だ。
「私はマリーと言います。どうか私の姉を助けてくれませんか!」
ボロボロと泣き出すマリー。
コユキが寝ているので声を落とすように言うと我慢するように声を殺して泣いていた。
「助けるも助けないも話を聞いてからだ」
おそらく事情を聞いたところで答えは変わらない。
でも何も聞かないで助けようとは言えない。
「うっ……私は……ううっ……」
「焦らず、少しずつでいい。ゆっくりと話すんだ」
「はい……すいません」
「これ飲んで」
「ありがとうございます……」
マリーの隣に腰掛けたルフォンがカップを手渡す。
嗅いでいると気分の落ち着くお茶にたっぷりと砂糖を入れてあげたものである。
持っているだけでも手が温まってきて、少し気分が落ち着いていく。
「ぐすっ……」
「よしよし」
少しすすってみると甘くて、熱いお茶が喉を通ると胸があったかくなる。
ルフォンはマリーの背中を優しく撫でてあげる。
もう何口かお茶を飲んでいると、少し眠たくなってしまうほどに体が温まってきた。
そしてマリーは事情を話し始めた。
「実は……」
ありがちな悲劇的な話。
マリーは姉のジェーンと共に奴隷商人に売られたのだ。
マリーは元々商人の娘でそんなに余裕もないが、ちゃんと食べて生きていけるだけの事業を父親はやっていた。
ある時により上を目指すために良いパートナーを見つけたと父親が嬉しそうにしていた。
上手くいけば生活がかなり楽になる。
基盤が整いあちこちに出向かなくても生活できるだけの収入を得られるようになるはずだった。
しかし父親の事業は失敗。
投資した事業は大損害を出してしまった。
そこから転落が始まったのである。
何が起きたのかはマリーにもよく分からなかった。
損害を補填するお金を作る時間もなく父親は全てを失い、それでもまだ足りないと一家丸ごと奴隷に落とされてしまったのである。
「ひどい話!」
「……ないとは言い切れない話だな」
ラストはマリーの話を聞いて憤るが、まだまだこの世界では否定できる話ではないとリュードはため息をついた。
奴隷として売られる過程で、マリーとジェーンは若くて高値で売れそうであると両親と別れ離れになって別の場所に運ばれることになった。
あまりにも早く、あまりにも突然の出来事だったとマリーは再び涙をこぼした。
「よく考えるとおかしかったんですよね。慎重で大きな賭けをせずにコツコツと生きてきた父がいきなりあんなことするなんて……それからの展開も早すぎます。まるで仕組まれているよう……仕組まれていたんです」
運ばれる時にマリーは奴隷商人の話を聞いてしまったのだ。
全ての裏にいたのは奴隷商人で、マリーの父親は最初から騙されていたのである。
失意の中、正気に戻ったジェーンがなんとかマリーだけでも逃そうとして暴れ、その隙にマリーは逃げ出した。
けれど靴すらないマリーは食事もろくに与えられておらず、ただ走ることしかできなかった。
そこでたまたま明かりを見つけて行ってみるとリュードたちがいたのだ。


