「行きますよー! みなさん下がってください!」

「もっと下がってー!」

 タコとウツボの激しい戦いでボコボコになった部屋の修復も終わった。
 やはり乗っ取ろうとしたのか魔力で無理矢理操作しようとしたらしく、機能が傷ついていて修復にやや時間がかかった。

 けれどウンディーネたちの尽力により機能は回復した。

「これでようやく復活か」
 
 円柱形の部屋の中心にある女神像を囲むウンディーネたち。
 リュードたちはたこ焼きを食べながら、城の完全復活を遠巻きに見学している。

 女神像の正面に立ったネローシャが両手を前に突き出すと他のウンディーネたちもそれに続く。
 魔力が込められていき、城が大きく揺れ始める。

「おおっ!」

 女神像の持つ水瓶からチョロチョロと水が出始めて瞬く間に勢いを増していく。
 そして女神像の足元からも水が噴き出してウンディーネたちの姿が見えなくなる。

 同時に城の外でも変化は起きていた。
 城の外壁が濡れる程度にしか流れていなかった水が勢いよく出始めて、各コアルームの石像から噴き出す水も水量が増す。

 城全体から水が噴き出す形になって水に覆われて外から見えなくなるほどになっていた。

「おっとと……」
 
 リュードたちがいるところも足元に水が溜まるが階段を伝って下に流れ落ちていく。
 流れる水は下の部屋にある窪みに溜まっていき、やがて川に流れていく。
 
 これが壮大な川の始まりなのである。
 水を生み出す何とも神秘的な大きな城があった。

「冷たくて気持ちーね」

 事前に言われていたので靴は脱いである。
 足首まで上がってきた水は澄んでいて透明度が高く、ひんやりとしていて気持ちがいい。

「ありがとうございます、人の子よ。そして心優しき魔物よ」

 何もないところから水が生み出される魔訶不思議な光景に目を奪われていると女神像から声が聞こえてきた。

「私は水の神であるウォークアです。悪しき神に奪われかけたこの城を取り戻してくれて感謝します」

「何ということでしょう!」

 ミルトが服も濡れることも構わずに膝をついて祈り出す。
 自分が信仰する神様の声が聞こえるのだから信心深いものとしては感極まらずにはいられない。

 ミルトまでいかなくても他の冒険者も感動した様子だし、手を組んで祈っている人もいる。

「私の力及ばずこのような事態になってしまいましたが、貴方たちのおかげで無事にこの難局を乗り越えられ、多くの人が救われました」

「もったいないお言葉です!」

 涙でも流しそうなミルトのみならず、みんな多かれ少なかれウォークアの言葉に感動している。
 リュードやルフォン、ラストは特に水の神を信仰していないので単純な労いの言葉ぐらいにしかとらえていないけれど、労われるのに悪い気はしない。

「特にそこの魔物よ、貴方の働きはとても大きいものでした」

『は、はい!』

「一度は悪しき神に騙されてしまいましたが貴方は正しい行いを考え、自分の行動を正しました。正しき道を行き、戦ってくれたこと感謝しています。しかし私には貴方をドラゴンにする力はありません」

 たとえ神でも何かをドラゴンにするほどの力はない。

『分かっています。でもいいんです! ドラゴンはしてもらうものじゃなくて自分でなるものです! ボクは自分でドラゴンを目指していきます!』

 けれどウツボにショックはなかった。
 誰かや何かにドラゴンにしてもらっても、それはドラゴンの見た目でしかない。

 心からドラゴンになって心までドラゴンになって初めてドラゴンである。
 いや、たとえドラゴンになれなくてもドラゴンに対する憧れと、ドラゴンになろうとする心は忘れちゃいけないのだと悟った。

 誰かがカッコイイと言ってくれたドラゴンを目指すウツボであることにもう迷いはないのである。

「良い心がけです。どうでしょうか、この城の守護獣になるつもりはありませんか?」

『しゅごじゅー?』

「そうです。神獣は他にいるのでなれませんが私に直接仕えることになる、神に認められし魔物となるのです。少しですが神性も得られますので貴方の力となるでしょう」

『すごく魅力的な話だけど……』

「だけど、何ですか?」

『しゅごじゅーになったらずっとここにいなきゃいけないですか?』

「そういうことではありませんが……何かあるのですか?」

『その……ボクは聞いたことがあるんだ。ドラゴンは人の姿にもなれるって。だからボクがもっと強くなって、もっと賢くなって……人の姿にもなれるようになったら…………アニキと旅をしてみたいんだ! 地上の世界を見てみたい! でも1人じゃ心配だからアニキと一緒がいい!』

「ウツボ……」

 キラキラとした目をしているウツボには新たなる願いも生まれていた。
 ドラゴンになることは難しいだろう。

 だからといってドラゴンの憧れは消えない。
 けれども今はまた別のやりたいことも出来ていたのだ。

 ドラゴンに憧れるきっかけとしては外の世界に憧れていたというところがある。
 この広い世界は水の中だけにとどまらない。

 どこまでも広がる空から見下ろされる光景には、広い地上も映っているはずだ。
 リュードが旅をしているとウツボは聞いた。

 自由に、何物にも縛られず、のんびりと旅をする。
 それもドラゴンみたいだとウツボは思った。

 リュードと一緒にどこかにいってみたい。
 もっとリュードのことを知ってもっと世界のことを知って、もっともっと色んなものを助けたいと思った。

 いつかウツボがリュードの側にいても大丈夫になれるならその時は側にいたい。
 守護獣になることがその枷になるなら引き受けるつもりはなかった。