「最悪! 最悪サイアクさいあく!」

 実際見てないし、見てないとリュードは言うのだけど、口ではどうとでも言える。
 見ていないと言うけれど絶対に見られた、とネローシャは顔を真っ赤にして取り乱していた。

 服は魔力で作り出したものなのですぐに再生できたけど、気を失っていたのでしばらく素っ裸だった。
 この際タコに消化されてしまえばよかったとすら思っているぐらいの勢いだ。

「見てないって言ってるし……」

「ウソだぁ! 性に獰猛な若い人のオスがどんなのか知ってるでしょ! 見てないと言いながらも頭の中ではもう私の裸でいっぱいになっているに違いないわ!」

 知らんがなとナガーシャは思う。
 ただ思うが口には出さない。

 ここで余計な一言を口に出そうものなら、また話は最初に戻ってややこしくなるだけだから。
 そしてリュードも関わるとめんどくさそうなので、ネローシャからは距離をとって何も言わないことにした。

 今は他のウンディーネたちが来るの待っていて、することもないので手を動かしている。
 何をしているのかというと、古くなって使わなくなった古いフライパンを加工しているのだ。

「カンカンカーン」

『カンカンカーン』

 コユキとウツボに見守られながら、リュードは力技でフライパンに丸い凹みをつけていく。
 魔法でフライパンを熱して少し柔らかくなったところをハンマーで殴る。

 使ってるハンマーもドワーフたちから受け取ったもので、多分こんな風に使うものじゃないのだけどもらった以上好きに使う。
 ある程度凹んだらそこに丸く加工された宝石を入れて、軽く形を整えて綺麗に丸い凹みにする。

 この宝石もドワーフからもらったやつだけどこんな使い方するなんてドワーフも考えていなかろう。

「こんなところかな?」

「かんせー?」

「ああ、完成だ」
 
 そうした作業を繰り返してフライパンにいくつも丸い凹みをつけたお手製たこ焼き器の完成。
 なぜこんなことをしているのか。
 
 たこ焼き器を作ったのだから理由は一つだ。

「そっちはどうだ?」

「切ってあるよ」

 タコを食う。
 たこ焼きにしてやると口に出したのだから、たこ焼きにして食ってやる。

「たこ焼き器の完成! あとはたこ焼き作りだ!」

 たこ焼き器としては多少不恰好だが、ある程度たこ焼きっぽく作れればそれでいい。

「えっ、それ……」

「あっ……」

 テンションが上がってしまったリュード。
 マジックボックスの袋を見せてしまうことは魔物の食材をしまうのに見られてしまったし、盗もうとするバカもそんなにいないのでゆるくなっていた。

 しかし袋からガッツリデカいコンロを取り出すと話は違う。
 そんなものが入るマジックボックスの袋、しかもそんなものを持ち歩いているなんてとみんなが驚いている。

 つい何も考えずに取り出してしまった。

「い、いいか、みんなのこと信頼しているから見せたんだからな!」

 誤魔化しようもないので開き直るリュード。
 ラストの視線が冷たい気がするが、ここで変に隠そうとしてはいけないので堂々とする。

 ウンディーネたちがメインルームに到着して、機能の回復をしている間にリュードはたこ焼きを作り始めた。
 竹串なんかはないけど暗器として使う鉄串がある。

 これもドワーフ製なんだけど、人を殺すのではなくてたこ焼きを転がすのに使われる。
 他にすることがないのでみんなの注目を浴びながらたこ焼きを作る。

「ほいほいほい!」

「わぁ……」

「やりたい!」

 クルクルと器用にたこ焼きをひっくり返していく。
 丸く焼けていくたこ焼きに、みんなコンロの衝撃を忘れて見入っている。

 意外と上手く出来るもんで、いつの間にかニルーシャも野次馬していた。

「あなたは仕事です!」
 
 ガラーシャが首根っこ捕まえて、ニルーシャは連れ戻されていった。

「やりたい!」

 コユキもリュードの手際を見てやりたいと言い出した。
 なのでリュードが後ろについてやらせてみたり、ルフォンやラストもやりたそうにしていたのでみんなでちょっとずつやってみたりもした。

 しかしいざ作ってみると問題があった。
 たこ焼きに付随するソースやマヨネーズなんかがないのである。

 マヨは何とか作れそうな気がしないでもないけど、ソースは難しい。
 カツオブシとか青のりとかもない。

「どうするか……」

「ほのままでもほいひーよ」

 そのまま食べてもいい。
 味見で食べたラストは火傷しそうになりながらたこ焼きって美味いのだなと感心している。

 しかしリュードは知恵を働かせて解決策を導き出した。
 コンブを煮て出汁をとる。

「これにつけて食べよう」

 出汁につけて食べる明石焼き風にして食べることにした。

「うんま!」

「美味しいよ、リューちゃん!」

「もうちょっと冷まさないと食べらんにゃいにゃ」

 残念ながらタコと小麦ぐらいしか材料もないので、たこ焼きそのものもギリギリだった。
 しかし食べてみると案外うまい。

 上級の魔物であるクラーケンはその身の旨味もすごい。
 単純な作りのたこ焼き、明石焼きもどきだけど、コンブ出汁の旨味とたこ焼きの旨味はそれだけでも美味しくいただけるレベルのものであった。

 これはちゃんと食材を集めて作れば相当絶品だっただろうなとリュードは思った。
 慣れてくればみんなも作れるたこ焼き。

 ワイワイとみんなで作りながら食事をしているとウンディーネたちも大体作業を終えてたこ焼きを欲していた。

「リューちゃんから出てくる料理のアイデアはすごいよね」

 ルフォンでは思いもよらない料理を、リュードはふと提案してくることがある。
 料理への新たなるチャレンジ、創造性を刺激してくれるので非常にありがたい。

「どっかの本で見たんだよ」

 リュードは誤魔化すように笑った。
 実際料理のアイデアなど全部前世の知識から来たものである。

 時々食材なんかを見た時に料理を思い出して食べたくなるのだ。
 それをルフォンにどうにかならないかとお願いする。

 ルフォンからすると思いもよらない料理をいきなり提案する謎の天才的発想みたいな感じでリュードを見ていた。

「それでもすごいよ!」

「んなことないさ。実際に手元にあるもので作ってみせるルフォンの方がすごいよ」

 リュードは前世の知識から提案をしているだけで、その説明だって上手くはできていない。
 無茶難題なことも多いのにルフォンは身近にあるものから似たものを作り出してしまうことがある。

 これこそ真の天才と言える。
 さらには旅の中でも毎日限られた状況で美味しい料理を出してくれる。

 毎日の料理を楽しみにしてくれるルフォンには頭が上がらない。

「まあ……俺は主にアイデアだけの担当だから」

 リュードも不器用ではないけれど、料理へのセンスはあまり高くない。
 頭にどんなものか分かっている自分がやったほうが早そうなのに、ルフォンが再現する方が美味いのだ。

 料理が出来なくないけど料理のセンス、バランス能力はルフォンが圧倒的に優れている。
 しかしたこ焼きはこんなものではない。

 他の料理もそうだけど、持っているポテンシャルを引き出してリュードの理想とする味にはやはり足りないものが多い。
 いつか色々な食材や調味料を集めて色々と作ってみたいものだとリュードは思った。