「がんばれぇ!」

 ただ見ているようなことしかできない状況が続く。
 ニャロとコユキ、ミルトが全力でウツボを強化支援してウツボはそれに応えるようにタコと戦う。

「頑張れー!」

「ウツボさーん、やっちゃえー!」

 コユキが声を上げ、みんなもウツボを応援し出す。
 ウツボはウツボって名前じゃないけど、リュードがウツボウツボと呼ぶのでみんなウツボと呼んでいる。

 こんなに期待されて、応援されて、支援されて、誰かのためになっていると感じて戦うことがあっただろうか。

「ウツボー! お前なら出来る!」

『ボクは……正しいことをする! ボクはドラゴンになるんだぁー!』

 ウツボが大きく口を開けてタコの頭にかじりつく。
 メリメリと音がしてタコがまるで助けを求めるようにウツボから足を離して空中をさまよわせる。

 過去にリュードにちぎられて、いまだに短い一本の足でウツボを叩きつけるがウツボは噛みついて離さない。
 やがてさまよわせる足の動きは鈍り、叩きつける勢いは無くなって力なく床に足が落ちる。

「や、やったのか……?」

 タコが抵抗しなくなって動かなくなる。
 
「ウツボ!」

 そしてタコから口を離してウツボもパタリと床に倒れ込む。

『ボク、やったかな?』

「ああ、やったよ!」

『ボク疲れちゃった……こんな風に戦ったの初めてだぁ』

「ドラゴンよりもお前の方が立派だよ。ゆっくり休んでくれ」

『うん。アニキ、後は任せたよ』

「ああ、ありがとう」

『あったかいな……』

 コユキがウツボの治療をする。
 絡み合ってあちこちにぶつかり、魔法を受けたウツボは全身傷だらけだ。

 コユキの治療は温かく、優しいとウツボは感じた。

「ネローシャ!」

 戦ってたので口に出さなかったことがある。
 ここにくるまで、あるいはここに来てからも最後のウンディーネであるネローシャの姿がない。

 どこかに隠れられそうな場所もない。

「ネローシャ……ウソ…………」

 ウツボと違ってあのタコには友好的な感じはない。
 タコがネローシャを無事にいさせてくれるはずがなさそうだ。

 絶望が胸に広がりナガーシャが泣きそうになっている。

「……ルフォン?」

 みんながどう声をかけたらいいのか分からず沈黙する。
 そんな中でルフォンはミミをピクピクと動かしながらタコの方に近づいていく。

 少しずつ角度を変えるそれは、どこから聞こえるのか分からない音の方向を探している時の動きだ。

「リューちゃん、中!」

「中……? …………わかった!」

 ルフォンはタコを指差した。
 何が言いたいのかリュードはすぐに察して剣を抜いてタコに近づく。

 大胆かつ慎重にタコを切り裂く。
 周りは何が何だかわからないと言った表情をしている。

「……助け…………」

 タコの体を切り開いていくと声が聞こえてきた。

「誰か手を貸してくれ!」

 分厚いタコの身を切り裂いて開くと中に青いものが見えた。
 リュードが手を伸ばして引っ張り出そうとしたけど、意外と出てこない。
 
 ここまで来るとリュードが何をしているのかみんなも理解して集まってくる。
 リュードがもう少し周りを切り開いてみんなで協力して引っ張る。

「ネローシャ!」

 みんなで引っ張るとずるりと中から女性が引き出される。
 青い髪の女性はナガーシャたちとよく似ている。

 最後のウンディーネのネローシャであった。
 
「ル、ルフォン?」

「ダメ。私を見てて」

 抜けた勢いで引っ張っていたみんなが転がる。
 いち早く異常に気がついたのはルフォンだった。

 グッとリュードの頭を掴んで自分の方に向けさせたルフォンが私を見ててなんて言うのは、いきなり気分が盛り上がったのではない。
 ネローシャのところに来るまでにはだいぶ時間がかかってしまった。
 
 タコの腹の中にいたネローシャはどれだけの時間が腹の中で経過したのか知らないけれど、食べられてすぐということはない。
 つまりネローシャは消化されかかっていたのだ。

 幸いなことにまだネローシャ本体は消化されていなかったがネローシャの服は無事でなかった。
 助け出されたネローシャは生まれたままの姿、すなわち裸だったのである。

 リュードに見せるわけにはいかない。
 とっさにルフォンはリュードの頭を自分の方に固定したのであった。

「……どうだ?」

「生きてるにゃ!」

 リュードは明後日の方向を向いてネローシャを見ないようにし、ニャロが容態を確認する。
 ネローシャもなんとか生きていた。

「……じゃあこれで全部取り戻したのかな?」

「ええ、その通りです! ウォークア様のお導きのおかげですね」

 あの駄女神よりもリュードやみんなに感謝してもらいたいところではある。
 ともあれタコは倒され、リュードたちは全てのウンディーネを救い出すことに成功したのであった。