「どうだ……?」

 イマイチ見た目だけでは、倒せたかどうかの状態は分かりにくい。
 体の中で爆発が起きて無事なわけないが、それで倒せたかは微妙なところである。

 ラストがもう一本矢をつがえて、いつでも打てるように準備する。

「倒れ……た?」
 
 グラリと大ウニが傾いていき、倒れて転がっていく。
 転がろうとして転がったのではない。
 
 倒れた勢いで弱々しく転がったのだ。

「終わったようだな」

「……ニルーシャ! どこにいるの!」

 リュードたちが大ウニと戦っている間に、周りのウニとコンブも一掃されていた。
 戦いが終わってナガーシャがこのコアルームの主のニルーシャを探し始める。

 ナガーシャやガラーシャの時はすぐにそこに見つけられたけれど、ニルーシャというウンディーネの姿はこれまで見つけられていない。
 戦いの最中も周りを見回して探していたのにいないのだ。

「どこにいるの!」

 隠れる場所もなさそうなコアルームの中、ナガーシャの声が虚しく響く。
 サッとナガーシャとガラーシャの顔から血の気がひく。

「そんな……まさかニルーシャ……」

 やられてしまったのかもしれない。
 相手は魔物であるし食べられたとか、外に捨てられたとか悲惨な最後を迎えた可能性があると二人は沈み込む。

「なあ、あれなんだ?」

 リュードたちもキョロキョロと部屋を見回してみるけど、見知らぬウンディーネはいない。
 けれどリュードは部屋の隅にあるものが気になった。

 部屋の隅にはなんだかカラフルな山があった。
 
「あれはニルーシャのぬいぐるみです。時々ふらっとどこか行ってはどこからかぬいぐるみを持ってくるのです。自分で作る……ことも」

 隅にあるのはぬいぐるみの山であった。
 説明の途中で絶望的な状況にナガーシャから涙が溢れる。

 大嵐の直後でみんな疲れているし、外出していることなんてない。
 姿が見えずなんの返事もないということは、ウニやコンブにやられてしまったのだと涙が流れる。

「ぬいぐるみ……」

 リュードは自分の背丈よりも高く積み上がったぬいぐるみの山に近づく。
 同じものをモチーフにしたものばかりではなく、多種多様な種類のぬいぐるみがある。

「なんか……動いた気がするんだよな」

 リュードはコアルームを見回していた時、この山が動いたような気がしたのだ。
 このぬいぐるみの山の中なら人ぐらい容易く隠れられそう。

「みんな下がるんだ」

 ジッとぬいぐるみの山を見ているとモゾリと動いた。
 剣を抜くリュード。

 ニルーシャな可能性もあるだろうけど、ウニやコンブが隠れていることもありうる話だ。
 リュードを中心にしてみんなでぬいぐるみの山を取り囲む。

 ウニならばいきなりぬいぐるみから飛び出してくることもある。

「行くぞ」

 リュードがぬいぐるみの山に近づいて大きなぬいぐるみに手をかける。
 大きなぬいぐるみを思い切り後ろに投げながらリュードは飛び退いて距離を取る。

「ふわっ……あれ? 終わった?」

 ぬいぐるみを取り除くと中に人がいた。

「ニルーシャ! あぁ……よかった!」

 正確には人ではない。
 なんとも眠そうな目をした青い女の子、それはウンディーネのニルーシャであった。

 体が半分ぬいぐるみに埋まっているニルーシャを、ナガーシャとガラーシャで引っ張り出して抱きしめる。
 ナガーシャとガラーシャは同じくらいの体型で年齢的にも成人の女性のような容姿をしているが、ニルーシャは二人よりも一回り小柄な体型をしている。

 顔も幼めで、成人の女性よりやや幼めに見える。

「怪我はない?」

「うん、ないよ」
 
 ニルーシャはしょぼしょぼと眠そうな目をしていて、危機が迫っていた様子などまるでない。

「無事でよかった……」

「とっさに隠れたの」

 話を聞いたところニルーシャは扉が破壊されそうになったので、咄嗟にぬいぐるみの山の中に逃げ込んだのであった。
 幸いそんなに知能の高くなかったウニとコンブは、ぬいぐるみの中に隠れたニルーシャを探すこともしなかった。

 ただコアルームを占領できればよかったようで、ニルーシャは助かったのだ。
 そのうちジッとしていなきゃいけない緊張もあって、疲労していたニルーシャも緊張が緩んでしまう。

 ぬいぐるみの中は暖かくて程よく暗い。
 どうせ動くことはできない。

 気づいたらニルーシャは寝てしまっていたのである。

「……全く」
 
 ナガーシャは呆れかえる。
 でもあのぬいぐるみの中に入ったらと少し想像してみると気持ちもわからないでもないとリュードは思う。

「これで残るは一箇所だな」

 もうコアルームの解放も目の前である。
 しかし焦って行動はしない。
 
 戦いでボロボロになったコアルームの修復や機能の回復をしなきゃならない。
 そうしている間にみんな休んで体力や魔力の回復に努める。

「よっしゃ……コンブだ」
 
 リュードは鍋を火にかけてコンブで出汁を取る。
 小麦をこねて軽く丸めた団子みたいなものを作って、出汁をとった汁の中に入れて、すいとんもどきを作る。

「これ美味しい!」

 魔物コンブの出汁は鍋で煮ただけだけど、旨味がすごい出てくれた。

「リューちゃんこれ何!?」

「出汁ってやつだよ」
 
 ルフォンがコンブで出汁を取るという概念に目覚めた。
 コンブがあるのだから、カツオブシ的なものも探せばあるかもしれない。

「美味いな……懐かしい雰囲気」

 コンブだけでもやや和食的な味を感じられる。
 カツオブシもあれば結構和食チックな雰囲気は再現できるかもしれないとリュードは思った。

 出来るなら醤油とか味噌とかそんなものが欲しい。
 この世界は割と前の世界と似た部分が多い。

 醤油的な調味料がある地域があると世界の食文化をまとめた本の中にチラリと書いていた気がする。
 だから希望は捨てずに探してみようとは思っていた。

「再……きどー!」

 大ウニが大暴れしたせいであちこち床が壊れていた。
 なので修理も少し時間がかかってしまったが、ようやく直し終わった。

 最後に水を生み出す石像を起動させる。
 このコアルームの石像は立ち上がった獅子のような形をしている。

 その姿はリュードに少しだけ前世のどこかで見た観光名所を思い起こさせるものだった。
 ニルーシャが石像に手をかざして魔力を込めていくと、石像の目が光って口から水が噴き出し始める。

 どうにかこうにかウニとコンブを倒して3か所目のコアルームを取り返した。
 ニルーシャも咄嗟の機転によって無事にやり過ごすことができた。

「出汁って美味いな……」

 ついでに大量のコンブも手に入れたリュードはホッとコンブ出汁を飲み干したのであった。