「そんなやり方ありかよ……完全にお仲間だな……」

 視野を広く保ってウニの動きには注意していた。
 真後ろからリュードの方に来ることができるウニはいなかった。

 なのにどうやって後ろから飛んできたのか。
 それにはコンブが協力していたからだ。

 これまで触手を伸ばすだけで攻撃もしてこなかった。
 何をするんだと思っていたが、コンブは攻撃するでもなく触手を伸ばしていただけだったのである。

 しかしやはりそれだけではなかった。

「ルフォン、後ろだ!」

「オッケー!」

 ルフォンの後ろに回り込むようにコンブは触手を伸ばしていた。
 ウニはそのコンブを利用したのだ。

 コンブを壁のようにして跳ね返ることで軌道を変えた。
 そうして後ろから襲撃したのである。

 やや伸縮するコンブは、まるでゴムのようにウニに勢いをつけ、加えてこれまでになかった角度をつけて新たな突撃を実現した。
 体勢を立て直そうとするが、コンブのせいで意識していない方向からウニが飛んでくるようになった。

「クソッ、厄介だな!」

 リュードがウニを弾き返すが弾き返した先にコンブが待っていた。

「んな、アホな!」

 コンブがしなり、ウニを再びリュードに打ち返す。
 どんな連携の取り方だと困惑しながらウニの側面を切り付けて壁に叩きつける。

 戦いのめんどくささがハンパない。

「ふざけんな!」

 コンブはただウニの補助をするのでもない。
 近づくと、コンブはコンブの触手を伸ばしてリュードを攻撃してきた。

 ムチのようにしなるコンブを叩きつけてくる。
 仮に本物のコンブでも、勢いをつけてそれで殴られるとかなり痛い。

 カニとホタテもそうだが妙な連携をとってくる。
 生態としては面白いが、戦ってみるとバカにできない。

 リュードは叩きつけられたコンブをかわすと、掴んで引っ張り剣で切る。
 コンブ自体はそんなに硬くもなく、ややぬるりとした感触をしていた。

 コンブの叩きつけや絡みつき、さらにコンブによる角度やタイミングの異なるウニの突撃。
 非常にめんどくさく、一人で戦っていたらやられていたかもしれない。

 ただし一人だったならである。

「チッ……!」

「リュード!」

 動かないと思っていたが、コンブは少しずつ移動していた。
 前に出ていたリュードはいつの間にかコンブの触手に周りを囲まれてしまっていたのである。

 コンブからコンブへ跳ねるウニ。
 時折ウニから意識を逸らすように叩きつけてくるコンブがまた憎らしい。

 魔人化したり魔法を使ったりと無理矢理脱出することもできたが、リュードには仲間がいる。

「リューちゃんを狙うのはずるいよ!」
 
 ルフォンがリュードを狙うコンブを狙って接近する。
 コンブが焦ったのかウニの軌道が乱れる。
 
 ルフォンを叩きつけようとコンブの触手を下げようとする。

「そうはさせるかよ!」
 
 リュードがコンブを掴んで引っ張る。
 コンブは意外と力は強いけれど、力比べならリュードも負けてはいない。

 ヌルついているので長時間の引っ張り合いになるとヌルンと手から抜けてしまうが、短い間なら引っ張っておける。

「やあっ!」
 
 ルフォンが本体近くの根元からコンブを切断する。

「いいぞ、ルフォン!」

「やっちゃえ!」

「やー!」

 コンブならウニと違ってナイフでもいける。
 逆の手に持ったナイフをコンブの本体の塊に振り下ろすルフォン。

 黒い塊なコンブの本体がスパッと切られる。
 伸ばされていたコンブの触手がビクンと震えると、ヘタリと床に落ちていく。

 見ると意外なところにまでコンブが伸びていたりして、侮れないなとリュードは思った。
 メインのアタッカーはウニなのでウニの相手をしていたが、これならコンブを先に倒した方が戦いの決着は早く、楽に安全に行けるかもしれない。

「コン……ルデガシダを狙うぞ!」

 戦いの優先をコンブに絞る。
 リュードはコンブとウニの気をひくためにウニを乱雑に打ち返す。

 こうすることでウニの攻撃を自分に向けさせながらコンブにウニのフォローに集中させるのである。
 ラストは弓矢でウニのわずかな隙を狙って側面を打ち抜き、ルフォンがリュードが気を引いている間にコンブを襲う。

 ウニとコンブにも連携はあるけれどリュードたちにも連携はあるのだ。

「あっち行け!」
 
 リュードはルフォンから遠ざかるようにウニを打ち返して、ルフォンの方にウニが行かないようにする。
 ルフォンは自分の身を守ろうとするコンブを切り裂きながら進んで、コンブの本体を容易く切り裂いてしまう。
 
 段々とコンブが減っていきウニの動きも悪くなってきた。
 ウニの軌道をコントロールしていたコンブがいなくなって単純な突撃になったウニなど怖くない。

「手間かけさせやがって!」

 ウニは完全にコンブのフォローを失って、ただリュードに突撃してくる。
 タイミングを合わせて下から剣を振り上げてウニを天井に叩きつける。

 重力がある以上天井に触れている時間は一瞬で、再突撃なんかできずに落下し始める。
 こうなるといくら針を動かしてもどこにも触れないので勢いもつけられない。

「くらえ!」
 
 リュードは振り上げた剣をそのまま真っ直ぐに振り下ろす。
 苛立ちと魔力が込められた剣はウニを空中で真っ二つに切り裂いた。

「リューちゃん!」

「ふう……よくやってくれたなルフォン」

 たたたと駆け寄ってくるルフォンはニコニコと笑顔を浮かべながら頭を差し出す。
 周りはそこら中やられたコンブとウニだらけになっている。

 ルフォンが素早くコンブを処理してくれたので、ウニの相手もどんどんと楽になっていった。

「んふふ〜」
 
 わしゃわしゃと少し荒めにルフォンの頭を撫でて労う。
 優しく撫でるのもいいけどこうして激しく撫でるのもまた良く、ルフォンも尻尾を振っている。

「治した!」

 そんなリュードとルフォンを見てコユキも駆け寄ってくる。
 コユキだってリュードのケガを治したり強化したりと貢献したとアピールする。

「コユキもよくやった! うりゃ!」

「キャー!」

 コユキの頭もわしゃわしゃ撫でてやる。
 嬉しそうに悲鳴をあげて5本の尻尾が激しく振られる。

 戦いの直後とは思えない光景に他の冒険者たちもほっこりとしていた。

「私も頑張ったけどなー」

「ラストもナイスショットだったぞ」

「えへへー」

「私も頑張ったにゃー」

「はいはい、ほれ」

「にゃー! なんとカリスマに撫でられたにゃあ!」

「そのカリスマってのやめ!」

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