「ちょっとした問題ところじゃない問題が起きる上にもう城にいるんだぜ? ここまで来て帰れるわけがないだろ」

「本当にありがとうございます!」

「あれでしょ? ウダウダ言いながらもヒーローになり……いふぁいよ!」

「お前がしっかりしてねえからこーなってんだろーがー!」

 茶化してくるケーフィスの頬をリュードがつねる。
 この世界を作った創造神はケーフィスだ。

 最近問題が多いとしたら、神様の責任が大きい。
 リュードも平穏無事にのんびり旅ができるならそうしたい。

 川が枯れるかもしれないなんて責任背負って、危険に飛び込んでまでヒーローになりたくはない。

「こっちが毎回引き受けるからっていい気になんなよー!」

「うわぁー! ごめんってぇー!」

 軽くて楽しい世界だけど、ちょっとばかり管理がゆるく感じることもある。
 というかこんなに簡単に人を神の世界に呼んでいいのか。

「覚えとけ。いつも引き受けるからってなんも考えずにアホみたいにオッケーしてんじゃないからなー!」

「いたーい! ほっぺた取れちゃうよー!」

 意外と伸びるケーフィスの頬。
 こんなことしてるって知ったらケーフィス教の人はなんて思うだろう。

「うぅ……もうお嫁に行けない」

「言ってろ。こっちの苦労も思い知れ」

「こっちだって大変なんだよぅ」

「ひ、ひとまず私の子たちにこのことは伝えておきます。城のどこかにいると思いますので。きっとお力になってくれるはずです」

「リュードに任せとけば解決したって言えるも同然だね。はい、おまんじゅう」

 交渉成立のお祝いとして、ケーフィスがリュードに最早恒例となったおまんじゅうを渡す。
 ここに来る楽しみなんてもうこれしかない。

「それ! それも悪いんですよ!」

「はぁ?」

「そのおまんじゅうとやらが美味しいのが悪いんです。美味しいのでつい部屋にこもって食べてたらいつの間にかお城が……あっ」

「なんだって? もう一度いっていただけませんか?」

「あー……あ、モウジカンダー」

「な! おい、ちょっと待て!」

「で、でわ頼みましたよー!」

「話を聞かせ……」

 神の世界から帰る時の、世界が遠く離れていくような感覚に襲われて視界が白く染まっていく。
 急なタイムオーバー。

 明らかにひきつった顔をしていたウォークア。
 戻る前に聞かなきゃいけないことがあったというのに。

 この駄女神という言葉はリュードの口から発することができなかった。

 ーーーーー

「なんで朝からイライラしてんのさ?」

「ちょっと嫌な夢を見てな」

「ギュッてしたげよか?」

「いやいい……」

「ギュー」

「あっ、コユキ、ズルい」

「エヘヘ」

 最悪神様に何かのお願いをされることはいい。
 それは色んな人のためになることだし、神様がこの世界に介入できないことも理解している。

 ただ神の世界に呼ばれた後の寝覚めの悪さだけはいただけない。
 なぜこんなに起きる時の気分が悪くなるのだ。

 上体だけ起き上がらせて寝覚めの悪さについて考えていたリュードは険しい顔をしていた。
 朝もスッキリ起きるリュードが眉を寄せて考え事をしているので、ラストも不思議そうにリュードの顔を覗き込んだ。

 不機嫌といえば不機嫌。
 出来るならもう一度寝たいぐらいの気持ち。

 ルフォンは朝食作りに行っているのでチャンスと思ったラストだけど、コユキに先を越された。
 コユキはリュードに抱きついて頬と頬を合わせてすりすりする。

 プニっとして柔らかなほっぺたを擦り付けられてリュードも思わず顔がほころぶ。

「ありがとうな、コユキ」

「うん!」

「ラストもありがとう」

「うー……意外とコユキが強力なライバル……」

 心配してくれたのだし片手でコユキ、もう片方でラストの頭を撫でてやる。

「しかしウォークア……駄女神……」

 この状況は確かに周到に用意されて巧みに隙をついたものなのかもしれない。
 しかしその隙が大きく、対応が後手後手に回っていたのはウォークアの責任といえる。

 ちらりと最後に聞いた話が引っかかる。
 もしかしてだけどあの駄女神、汚部屋に引きこもっていたからこんなことになったのではないか、と。

「私もギュー!」

「あー! 何してんの!」

 コユキに負けていられないとラストも勇気を振り絞ってリュードに抱きつく。
 どうせテントの中なら誰かに見られることもない。

 そこに朝食を作り終えたルフォンが戻ってきた。
 なんだかウォークアのダメさがどうでも良く感じられてきたけど、またどこかで会うことがあったら絶対に容赦しない。

「コユキのマネ」

「ギュー」

「リューちゃぁん?」

「えっ、俺が悪いのか!?」

「なんだか朝から楽しそうにゃ」

 テントの中から聞こえてくる声にニャロは目を細めて笑顔を浮かべていたのだった。