「コユキもまだまだ先生が必要だしな」

「ありがとうにゃー!」

 聖騎士たちは次の町に着くまで護衛してくれたが、ニャロがリュードたちがいるから護衛はいいということになった。
 困惑したような聖騎士だったけれども、教会に戻って確認したところリュードたちなら大丈夫だと上から言われて別の地に向かうことになった。

 聖騎士も暇じゃない。
 信頼して任せられる相手がいるなら別の仕事をしてもらうのである。
 
 そしてリュードたちはのんびりと歩いて旅を続ける。

「にゃ、にゃにゃー」

「にゃーにゃーにやー」

 寂しそうだったコユキもすっかり元気になった。
 ニャロと一緒に謎のニャーニャー語で歌ったりしている。

 何の意味もなくニャーニャー言っているだけだが、楽しそうであるのでそれでいい。
 
「それでどこに向かうにゃ?」

「そうだな……ちょっとばかりルートを変えて進もうと思っている」

「へぇ、どこ行くにゃ?」

「ちょっと魚でも食べようと思ってな」

「お魚! 大好きにゃ!」

「目指すは水の都と言われているヴァネルアだ」

 降臨を使ったことは教会にも報告済み。
 代償があることは分かっているので、ニャロはしばらく教会のお仕事はお休みとなる。

 だからそんなに急ぐ旅でもなかったものが、全く急がない旅になった。
 ちょっとぐらい遠回りしても怒る人はいない。

「やーさしいんだから」

 ラストがリュードの脇腹を肘でつつく。
 ただ魚を食べたいからだけではない。

 ニャロとコユキをもっと一緒にいさせてあげようと思った。
 ラストはその思惑を見抜いていたのである。

「コユキもニャロもハッピーでいいだろ?」

「でも誰にでも優しいと勘違いしちゃうぞ、リューちゃん」

 プクゥとルフォンは頬を膨らませる。
 今のところニャロの意識はコユキに向いているが、こんなさりげない優しさなんてちょっとクラッときてしまう良いところじゃないか。

 ニャロもうら若き乙女である。
 宗教的に色恋は禁止されているものじゃなくて、リュードに惚れてしまっても別に咎められるものじゃない。

 良い男すぎるのも困りものだ。

「ははは、コユキ優先で考えたらしょうがないだろ?」

「まあ……コユキが笑ってくれるならしょうがないね」

「あの笑顔見たらそうなっちゃうよねぇ」

 リュードはリュードでいい男で困るけど、コユキはコユキで周りのみんなを可愛い魅力で射抜いていく。
 これもまた困りものである。

 厳しくしようにもコユキは良い子だし、甘えられると甘やかしてしまうのだ。
 ムチ役を誰もやりたがらない。

 ある意味で天使な小悪魔ちゃんなのかもしれない。

「お父さんがあんな風にしてた気持ち、ちょーとだけ分かる気がする」

「うちのお父さんもやたら私の周りに厳しかったけど、ようやく理解できたよ」

 ルフォンとラストがウンウンとうなずく。
 ウォーケックも大概娘に甘い父親だったけど、コユキという娘みたいな存在ができて初めてウォーケックの心情が理解できた。

「ルフォンのちっちゃい頃は控えめで、守りたくなるような感じだったもんな」

「リュ、リューちゃん!?」

「え、ルフォンのちっちゃい頃の話聞きたい!」

「なになに?」

「なににゃに?」

「ルフォンのちっちゃい頃はな〜」

「は、恥ずかしいよー!」

 笑い、旅をする。
 呪いにも負けずリュードたちの旅はのんびりと続いていく。