「神聖なる息吹、不浄を浄化し、安らかなる癒しを与え、我らを守り給え! ディバインエリア!」

 ニャロは祈るように組んだ手を高く掲げる。
 体の治療や強化をしてもらっている時も神聖力というものは感じるのだけど、それよりもさらに温かく優しく心安らぐようなものに包まれる感覚。

 ニャロからフワリと神聖力が広がっていく。
 屋敷、庭、塀を越えて外へ、そして偽物の人を包み込んでいきながら町中を覆っていく。

 体の疲れが癒えていき、ピリピリとしていた神経が穏やかに落ち着いていく。
 ケガをしていた警備隊のみんなの傷も治っていく。
 
「偽物たちが……」

 さらに偽物の人たちは奇妙な叫び声をあげて苦しみ出す。
 膝をついて頭を抱えて、そして皮膚が黒ずんでいって、やがて全ての偽物の人が黒い塊となってしまった。

「う……くっ!」

「ニャロ!」

 段々とニャロの体の光が弱まって、街を包み込んでいた優しい雰囲気が消えていく。
 体から力が抜けて倒れ込むニャロをリュードが抱き支える。

「大丈夫か?」

「たくさん力使って……体動かないにゃ…………それに」

「それに?」

「お腹空いたにゃ〜」

 監禁状態で何も口にしていなかったニャロ。
 怒りがそれを忘れさせていたけれど、体の状態は決して万全とは程遠かった。

「もう少ししたら腹一杯食わせてやる。……とりあえず無事そうでよかったよ」

 押し寄せていた偽物の人は黒い塊になってしまった。
 みた感じ町中で同じように偽物の人が崩れてしまっているようだ。

「恥ずかしいにゃ……」

 ニャロのお腹が盛大に鳴る。
 顔が真っ赤になるが、降臨の影響で手で覆って表情を隠すこともできない。

「でも、役に立てて嬉しいにゃ」

「役に立ったどころじゃないさ。ニャロは俺たちの命の恩人だ」

「先にリュードが助けてくれたからおあいこにゃ」

「そうか。今は少し休んでくれ」

「うん……お腹も空いたけどすごく眠たいにゃ……」

 どの道偽物の妨害のせいで時間を食ってしまった。
 カイーダがどこに逃げたのかも分からない。

 カイーダの確保も必要だけど、本当の町の人たちが無事かどうか確かめねばならない。
 しかしニャロを動かすわけにいかないので、サンジェルがリュードたちに休んでいてくれと言って町に繰り出す。

 心配だったけれど、戻ってきたサンジェルは複雑そうな顔でみんなの無事をリュードたちにも伝えた。

「町中あの黒い偽物だらけだ……みんな無事なことを確認して戻ってくる時に、アレはどうしたもんかって思っちゃってな」

 柔らかく、わずかに異臭のする黒い塊は放っておいてなくなるものじゃなさそう。
 なんなのかは分からないが、町中にそのままにはしておけないので片付ける必要もある。

 みんなが無事なら次のことを考え始めていたサンジェルは、黒い塊をどうしたらいいのかと頭を悩ませ始めていたのであった。

「とりあえずカイーダの捜索隊を組織してどこに行ったか探すとしよう。リュードもよくやってくれたよ。カイーダは逃げてしまったがそれはこちらに任せてほしい。絶対に見つけ出して罪を償わせる」

「頼みましたよ」

「君たちが泊まっていた宿まで送ろう」

 こうして呪いはリュードたちによって完全に壊されて小人化した人々は元に戻り、入れ替わっていた偽物の人たちは変な黒いものとなってしまった。
 リュードはニャロをお姫様抱っこで宿まで連れていくとそっとベッドに寝かせたのであった。