「早く助けてにゃー」

 信じてるとは言いながらも、ウルウルした目で窓からリュードを見るニャロ。
 後ろ髪引かれる思いがありながらも、時間がないので離れて脱出を試みる。

「それにしてもどうやってここから出るんだ?」
 
 みんなを引き連れて塀の方に向かう。
 サンジェルはすっかり塀を越えることを忘れていた。
 
 他の人を含めてサンジェルだって登るのでいっぱいいっぱいだった。
 一般人でしかも体力は衰えている。
 
 体力が充実していても厳しいかもしれないのにこのような状態では到底登れないと思った。

「もちろん作戦はあります。おっ、準備してあるな」

 しかしそこはリュードが考えていた。
 ニャロの協力でみんながまず館からの脱出を図っている間に、リュードは塀の方に向かっていた。

 ツタを登って外で隠れて待機していたルフォンたちに何をするつもりなのか伝えて、用意をしてもらっていたのである。
 塀に来てみるとそこにリュードたちを乗せていたカバンが落ちていた。

「これは……」

 肩紐にはロープが繋いであって、塀の向こうに伸びている。

「これで登りましょう」
 
 リュードはニャロにお願いしたやり方を参考に、同じくエレベーター方式でみんなを運ぶつもりだった。
 コユキたちは一度拠点に帰ってロープを持ってきた。
 
 それをカバンの肩紐に括り付けて塀の向こうにコユキが投げ入れたのだ。
 コユキのコントロールの問題や塀が高いこともあって中々入らなかったけど、三回目のトライでなんとか中にカバンが入った。

「皆さん乗ってください」

 カバンに人々が乗り込む間にリュードはツタを登って塀の上に行く。
 何回か登っていると慣れてきて登るスピードも速くなった。

 一回じゃ全員は入り切らない。
 あまりカバンに人を詰め込みすぎても危険なのでそれなりに入ったところで切り上げる。

「おーい! ゆっくり上げてくれ!」

 リュードは手を振ってコユキに合図を出す。
 するとコユキがゆっくりとロープを引っ張る。

 急に引き上げると引っかかったり、逆さになってしまう。
 そうならないように注意してリュードがコユキに指示を飛ばす。

 カバンの中の人にも指示を出してバランスを取ってもらって、少しずつカバンを引き上げていく。

「ストーップ! ちょっと待って!」

 そうして塀の上までカバンは引き上げることができた。
 しかしこのまま引っ張っていくとカバンは塀の外に真っ逆さまに落ちていってしまうのでここで止める。

「そのまま張っておいてくれ!」

 塀の上にはいわゆる返しと呼ばれる金属の突起がある。
 リュードたちは協力してカバンを引き上げ、隣の隙間にカバンを押し込んで通す。

 そしてロープが返しに引っかかるようにした。
 こうすれば返しに紐やロープが引っかかって下まで安全に下ろすことができる。

「よし……よーし!」

 塀の上からの降ろし始めは勢いがついてカバンがスイングしてしまったものの、第一陣は上手く下ろすことができた。
 中からみんながぞろぞろと出てくる。

「時間はかかるが確実に安全な方法でみんなを出すことができるな」

「このまま次も行こう」
 
 またしてもコユキがカバンを塀の中に投げ入れる。
 もう慣れたもんで一発で塀の返しの上も越えてきた。
 
 そうした作業を繰り返して町の人たちを塀の外に出していく。
 どうにか日が落ちて帰宅ラッシュになる前に作業を終えることができた。

 ーーーーー

「問題は尽きないな」
 
 脱出させた町の人たちはサンジェルに任せて、リュードたちはまた別のところに向かっていた。

「もう懐かしい感じもあるね」

「ここに泊まったときにはこんなことになるなんて思わなかったな」
 
 やってきたのはリュードたちが泊まっていた宿である。
 受付でボーッと虚空を見つめる宿の主人は、コユキが隠れるように中に入ってきてもなんの反応も見せない。

 部屋に行ってみると、リュードたちの荷物には手がつけられておらずそのまま残されていた。
 全ての荷物をコユキが一人では持っていけない。

 心配ではあるけど、持っていけない以上はこのまま残していくしかない。
 今回は目的のものがあってここにきた。

「これ?」

「あー、それじゃない」

「んじゃこれ?」

「お、それそれ」
 
 荷物を漁ってマジックボックスの魔法がかけられた袋を二つほど探し出し、コユキは宿を出て拠点に戻る。

「ああ、リュード、無事だったか」
 
 サンジェルたちの方も特に見つかることもなく、拠点に戻ってくることが出来ていた。

「持ってきた」

「本当か? なら助かる……」

 かなりの人数を助け出すことに成功したが、その代わりに大きな問題を抱えることになった。
 それは食糧問題である。

 大きな問題なのは食べ物が足りていないということだった。
 これまではなんとか手の届く範囲のもので食い繋いでいたような状態。
 
 食べ物に実は余裕がなく、さらに助け出したみんなも捕らえられてから食べ物を与えられていない。
 しかしみんなが満足できるような食糧をどこからか調達してくるのも難しい。
 
 そこでリュードたちは危険を冒して宿まで行ったのである。
 持ってきた袋、それはリュードたちの食糧が入った袋であった。
 
 コユキが手を突っ込んでパンを取り出す。
 通常サイズのパン。
 
 人が普通サイズだったら袋の中のものを全部出しても到底足りないけれど、今はみんな小人化している。
 通常サイズのパンでも多くの人の胃袋を満たすことができる。