「ただあそこまでどうやって登る?」

 コユキがいればリュードたちを乗せることぐらいは出来るかもしれない高さではあるが、リュードたちのみでは到底届きはしない。
 窓まで都合よくツタが伸びているわけでもない。

「ここは知恵で勝負でしょ」

 人がここまで発展してきたのは知恵を生かしてきたからだ。
 ここで手が届かぬからと諦めずに何か使えるものはないかと庭を見回す。

「うーん……あっ!」

「おっ、何か思いついたのか?」

 考えるのは苦手だとサンジェルは半ば諦めていた。
 腕を組んで考えるリュードに期待して、サンジェルも考えるような素振りだけはしていた。

「表の玄関脇にホウキが立てかけてありましたよね」

「んー? そういやそんなの……あったかな?」

「それを使いましょう。ここまで持ってきて立てかけて、登る道にしましょう」

「なるほどね。面白そうだ」

 我ながらナイスアイデアだとリュードは思う。
 玄関にホウキがあったのでそれを道にしようというのだ。

 道が無ければ作ればいい。
 上手くいく自信もあるしダメ元で試してみてもいい。

「本当にあった。よく覚えてんなぁ」

 玄関の横に大きなホウキが立てかけてある。
 塀の内側の葉っぱなどを掃いて掃除するためのものだろう。

 外に放置されているので多少劣化はしているが、リュードたちが乗ったところで壊れはしないだろう。

「そっちに倒すぞー!」

 小人にされたリュードたちにとってホウキといえど、軽いものじゃない。
 まずはホウキを横倒しにする。

 このサイズだと倒れるホウキの勢いだけでも致命傷になりそうだ。

「いくぞ! せーの!」

 みんなで担いで倒したホウキを持ち上げる。
 力に自信のある警備隊の人が多くて、なんとかホウキは持ち上がった。

 ホウキを家の裏側にある破れた窓のところまで持ってきた。
 そしてみんなで協力して今度はホウキを立てる。

「もうちょい左だー!」

「行き過ぎ!」

 上手く窓枠に引っ掛けないとホウキが倒れてきてしまう。
 フラフラと何回か試行してようやくホウキがぐらつくことなく窓に立てかけられた。
 
「リュード、頼めるか?」

「はい、任せてください」

 最初に登るのはリュード。
 言い出しっぺだし、ツタの時も登るのが一番上手かったので選ばれた。

 リュードがいければ他もいけるだろう。
 逆にリュードが無理ならみんなでも無理だ。
 
 滑り止めの粉とか欲しいところだけど贅沢も言ってられない。

「行くぞ……ほっ!」

 リュードはホウキを登り始める。
 ここに来てホウキが劣化していることが追い風となる。

 木製の持ち手の表面が劣化してザラザラしている。
 小さいリュードからして見るとささくれ立っていて滑りが悪く、手をかける場所も多くて登りやすい。

 斜めに倒して立てかけられたホウキを半分登り、半分駆け上がるようにリュードは上がっていく。

「すっげえなぁ……」

 あっという間に登っていく。
 ちょっとは休憩できるかと思ったけど、自分の番が来るのは早そうだとサンジェルは呆けたように登っていくリュードを見ていた。

「到着!」

 垂直じゃない分ツタよりも楽だった。

「みなさーん、いけますよー!」

 リュードは上からみんなに手を振って、無事に着いたことを知らせる。
 それを見てみんなも登り始めるけれど、リュードのようにするすると登れる人はいない。

 ツタの時もそうだけど、リュードがやっているのを見るとあんなに軽々とやっているのに、どうしてとみんな思わざるを得なかった。
 今度はコユキの助けも癒しもない。

 落ちるわけにもいかず必死に登ってきたみんなは、命懸けのクライミングにだいぶ体力を消耗していた。

「さてと……次は室内に降りる方法か……」

 一難去ってまた一難。
 次に考えるべきは窓から室内に安全に降りる方法である。
 
「降りるならアレ使えるんじゃないか?」

「そうですね」

 ただ室内に降りる作戦はもうすでに考えてある。

「おい、アレを出せ」

 警備隊の一人が背負っていた布の中からロープを取り出した。
 布を細くちぎって結んだお手製ロープである。

 拠点にしている屋敷にあったシーツをコユキがナイフで細く裂いて作ったものだった。
 リュードたちはお手製ロープをホウキに縛り付けて室内に垂らす。

 かなり長めに作ったロープの長さは十分で床にちゃんと届いていた。

「侵入成功!」

 偵察にリュードが降りる。
 窓から見る限り部屋に誰もいないことは確認済みだけど、万が一の場合を考えて一番身軽なリュードがいった。

「大丈夫でーす!」

 床にも特に問題もないのでみんな降りてくる。
 部屋のドアは換気や埃がたまりにくいようにするために開けっぱなしになっていたので、リュードたちは運が良かった。

 顔を出してみるとどの部屋もドアは開いていて、人の気配はない。

「……声が聞こえるな」

「なに? どこからだ?」

「えっと……」

 真人族に混じればリュードも聴覚が良い方に入る。
 小さく声が聞こえることに気がついた。

 他の人は聞こえないらしく、しんとする中で声に耳を傾ける。

「…………にゃ」

「にゃ? ……これは!」

 ちょうどリュードたちがいるところと屋敷の反対側から声が聞こえる。
 走り出したリュードにみんな不思議そうについていく。