「デルも昼間なら仕事でいないはずだ。あいつの家もそんなに遠くない」

 町の外側に近い住宅地に向かっていく。
 そこからさらに外側の、ほとんど町の外と言えるところに木こりであるデルの家がある。
 
 デルの家はコーディーの家よりさらにボロくて小さい。
 家というよりも小屋のようである。
 
 こちらは警戒心も薄いのか玄関の鍵も開いていた。
 見渡すほどの広さしかないような家なので探す手間も大きくない。
 
「この家にも金か……」

 調べてみるとデルの家にも隠すこともなくお金が置いてあった。
 コーディーのところと同じで細かい貨幣が多い。

 金額的にはコーディーより少ないが、床に転がる酒瓶を見ると高そうなのもあるのでいくらかは使っていそうだ。

「あいつも金がないはずなのに……この酒瓶と残った金……どこから出てきてるんだ?」

 謎は深まるばかり。
 金以外に怪しいものはなく、これ以上探しても何も出てこない。
 
「一度拠点に帰ろうか」

 家は大きくなくても子供と小さい人では探すのも一苦労。
 自然と時間もかかるし体力も使う。

 戻ってくる可能性もあるので早めに見切りをつけて戻ることにした。
 
「……やはりコーディーとデルは怪しいな」

 小人にならずそのまま働き続けている二人が出所不明のお金を持っている。
 どう考えても二人から捻出できる金額でもない。

 事件が起きる前の言動も相まって、黒に近いグレーには思える。
 けれどもただ小金を持っているだけなので呪いとの関係性はわからない。

「もしかしたらただの泥棒という可能性もあるしな」

 人々が無気力で日常的な行動しかしないのなら泥棒もしやすい。
 もしかしたら町の変化を理解した上で無気力になった人から物を盗んでいるのかもしれない。
 
 呪いではなくても良くないことに手を染めてはいそうだ。
 そもそも町ごと呪いにかけるなんてことは難しい行為。
 
 単独犯で行うのはハードルが高すぎる。
 そう考えるともしかしたらコーディーやデルは協力者であることもあり得ない話でもない。

「先生……」

「ニャロが心配か?」

 日が落ちてきた。
 その日のうちにニャロを助け出すことが出来なかった。

「ニャロ? 他にも仲間がいるのか?」

「ああ、もう1人仲間がいるんだ。聖者で小さくならなかったんだが他の連中に連れて行かれてしまったんだ」

「なんと……もう一人聖者がいたなんて……もし助け出せたら大きな戦力になってくれそうだな」

 リュードとしても悩ましい問題である。
 ニャロが無事なのか、どこに囚われているのかとか、話の通じなさそうな偽物の人がニャロに配慮なんてしてくれなさそうだから今だってお腹空かせていないかなとかも思う。

 そうしていると何人かの小人が帰ってきた。
 町の様子を監視するために町に散らばっていた警備隊の人々である。

「カイーダの居場所が分かったぞ!」

「なんだと! どこだ!」

 ろくでなしなどと呼ばれていた男のカイーダ。
 元々町中をふらついているような男なので、姿が見えなくても不思議ではない人だった。

 こうした状況でも姿を見かけたことがあるとかないとか朧げな情報しかなかった。
 ただ家には帰っておらず特定の決まった行動を取っているとも確認されていなかったので要注意人物なのである。
 
 そして呪いだと思われる今ではカイーダが呪ってやるなんて言っていたのを聞いたことがある人もいた。

「あの陰湿野郎どこにいた?」

 噂に聞くカイーダは性格が悪く陰湿で定職にもついていなかった。
 両親の遺産を食い潰して生きているらしく、両親が生きている時は問題ばかり起こしている男だった。

 両親が亡くなってからは大人しくなったと思っていたが、ただひたすらに文句ばかり言うクズ野郎に成り下がっていまのだ。

「カイーダの野郎なぜか元領主の館にいやがった。辺りじゃ見かけない女がいたから追いかけてみたんだ。すると空き家になっているはずの元領主の館に明かりがついていてそこに入っていったんだ。ドアを開けて出迎えたのはなんと、カイーダだった!」

「本当にカイーダなのか?」

「小さくなったからって視力まで変わりゃしねえよ! あの陰湿が滲み出る顔、カイーダの野郎だって!」

「まあお前、カイーダと前にトラブってたもんな……」

 以前酒に酔って妹のことを売女呼ばわりされても大げんかになった。
 そんな相手だからカイーダの顔を見間違うはずがないと鼻息が荒い。

 この町に領主はいたが、だいぶ前に別の人に代わった。
 前の領主は比較的派手な生活をしていて、大きな館に住んでいた。

 今の領主はそんなに派手な生活を好まず、質素な生活をしているのでより小さい邸宅の方を住居としている。
 使われなくなった大きな屋敷は売りに出されているのだけど、こんなところで領主よりも大きな館を買って住みたがる人もいない。

 傷まないように時々掃除される以外は特に使われることもない館であった。

「なんだってあんなところにアイツがいやがるんだよ!」

「それに女が入っていったってどういうことだ?」

「知るかよ! ただあの女見てニヤけた面! ぜってえ良くないことだ!」

「何にしても調べてみる必要がありそうだな」

「ホルドの方は今日は出勤していたぞ」

 別の人が他に挙がっていたホルドという人の報告をする。
 ホルドはまた特殊なタイプだった。

 失踪して戻ってくれば基本は同じ日常を繰り返している。
 あるいは失踪しなくても、気味が悪くても生活があるので大体の人はしょうがなくこれまで通りの日常を送る。

 こんな状況になったって仕事して生きていかなきゃいけない。
 他の人が帰ってきて虚な目をしていても、生活に必要な日常の行動を取っているので仕事やなんかに支障はない。

 だから町は異様な雰囲気のまま入れ替わっていっていた。
 しかし中には生活のパターンが変わった人がいる。

 ホルドがその良い例である。
 冒険者ギルドの職員であるホルドは生活のパターンが変わった。

 どう変わったのかといえば明らかに仕事に来なくなったのだ。
 目に見えて出勤回数が減ったのである。

 これまで文句は言いながらもしっかりと出勤していたホルドはいつ頃からか出勤の回数が激減した。
 今では時々冒険者ギルドに顔を出す程度ぐらいにまでなっている。

 分かりやすく行動が変化しているけれど、出勤してこないことに加えて家にもそんなにいないので足取りが掴めていない。

「今も何人か後をつけさせてる。もしかしたらどこに行ってるかも分かるかもしれない」

「もう何人か向かわせよう。どっちに向かった?」

 ホルドの追跡のために何人かを向かわせることにした。
 小さいので追いつくのか、合流できるかは分からないけれどやらないよりはいい。

「カイーダも怪しいがホルドってやつも怪しいな……」

「つか全員怪しくない?」

「怪しいね……」

 名前の挙がった人は数人いるがなぜか全員怪しい。
 謎の金を持っていたコーディーやデルも怪しく、まだ見たこともないけどカイーダもホルドも怪しい。

 それでいながら今のところ決定的な証拠もない。

「ホルドは焦って帰ってるのか楽しみなのかいっつも早足で最後まで追えないんだ。こっちもやり方を工夫したり見つけるたびに少しずつ追いついていったりするから、そろそろ足取りが追えるといいんだけどな」

「じゃあまだもうちょっとかかりそうですか?」

「そうだな。ホルドの方は後回しにしてカイーダの方を調査してみよう」

 未だ情報は少ない。
 しかし空き家となっている館を勝手に使い女性を連れ込んでいるカイーダの行動は一際怪しい。

 リュードたちは一晩休んで次の日に元領主の館に向かうことになった。