「オトナシク……シロ」

「にゃにゃ、にゃんにゃ!」

 コユキが隠れた直後、ドアが蹴破られて数人の男たちが入ってきた。
 町の警備兵なのだろうか、武装してお揃いの腕章を付けている。

 ニャロに剣を突きつけているが町の人と同じように目はうつろで覇気はない。
 
「何するにゃ! 私はケーフィス教の聖者の……にゃー! 痛いにゃー! もっと優しくするにゃー!」

 ニャロは身分を明かして話し合いを模索するが、男たちは聞く耳を持たない。
 聖職者に手を出すのはどこでもご法度で特に聖者になんて手を出すと宗教と国の戦争になりかねない。

 なのに全くそんなこと気にすることもなく男たちはニャロの腕を強く掴んだ。
 そして引っ張って連れて行く。

「いっ……抵抗しないから優しくしてくれにゃー!」

 女性の身で複数の男たちに囲まれてはニャロも逃げも抵抗もできない。
 ニャロはそのまま男たちに連れ去られてしまった。

「イナイ……」

 残った男が部屋の中を見回す。
 コユキは呼吸も止めて気配を殺す。

 心臓の音が大きく聞こえるような静寂の数秒を過ごして、男は部屋を出ていった。
 隠れているとか考えていないようで探しもしなくて助かった。

「どどど、どうする、リュード!」

 人の気配が無くなったことを確認してコユキがベッドの下から出てくる。
 動揺しまくりのラストだけど、動揺しているのはリュードも同じであった。

 呪いについて一番詳しいはずのニャロがいなくなってしまったらどうしたらいいのか。
 体格的に一番の戦力でもあったのに。

「……悩んでいてもしょうがない。コユキ、お前が頼りだ!」

 とりあえず移動だけでもコユキを頼るしかない。
 今だってベッドから下りるのにコユキがいなきゃ命懸けになるぐらいである。

「頑張る!」

 とりあえず手に持っていてはコユキもやりにくかろう。
 まずは警戒しながら泊まっていた部屋に行く。

 幸い宿の中にもう男たちはいなかった。

「荷物はそのままだな」
 
 部屋にはまだリュードたちの荷物は残されていた。
 それどころか男たちは女子が使っていた部屋に入っていないようだった。

 まるで誰もいないと分かっていたかのようだ。

「なんか使えそうなものはないかな」
 
 リュードがコユキに命じて荷物を漁らせる。
 コユキに武器を持たせても高が知れているのでそうしたものを探すのではない。

「これなら大丈夫そうかな」

 取り出したのは肩がけのカバンだ。
 軽い外出用に購入していたもので、今はコユキが時折使っている。

 リュードたちはこれに入ってコユキに運んでもらおうと思ったのである。

「あわわっ!」

「大丈夫か? おおっと……揺れるな」
 
 カバンの底でラストが転がる。
 コユキとしてはちょっと動かしただけなのかもしれないが、カバンの中からするとかなり強い揺れに感じる。

 結構揺れるがしょうがない。
 一応ナイフも持たせるが、これで戦う時は本当に最後の最後である。

「よし……コユキ、行くぞ」

「おー!」

 ひとまずコユキに頼るしかない。
 小さくなったリュードたちとコユキの呪いを解く冒険が始まった。