「そういえば獣人族にも聖者っているんだな」

 獣人族の聖職者も見たことがないなとリュードは思った。
 真人族の国を渡り歩いていて魔人族と会う機会が少なかったせいもあるが、そもそも魔人族の聖職者を見たことがない。

 ラストのいた魔人族の国ティアローザにはいたのかもしれないけど、デュラハンと戦った時にいた聖職者もみな真人族だった。
 
「魔人族にも聖職者はいるけど数は少ないにゃ」

 もちろん魔人族にも聖職者となる人はいる。
 けれどその数は多くない。

 神を信仰しないわけではないので中には聖職者になる人もいるにはいる。
 だが魔人族に根強いのが強いものが偉いといった価値観であり、力に対する信仰の方が強いとでも言うべきだろうか。

 何かがあった時に神に祈るのではなく力を付けたり、最後まで諦めずに足掻くことが魔人族の大多数だ。
 だから聖職者になるほど信心深く神様を信仰する人が多くない。

 さらにその中でニャロのように強く神を信仰して、神に愛されるまでになるのは貴重な存在である。
 ついでに魔人族は割とその種族の神だったり先祖を崇めていることもあるので、そうした種族の神では聖職者までなれないこともあるのだ。

 シュバルリュイードも神ではあるがあまり力はない。
 一人ぐらいなら自分の聖職者は出せるかもしれないけれど、聖職者を出すのも容易いことじゃないのだ。

「今でも何で私が聖職者、そして聖者になれたか分からないにゃ。でも私は孤児で教会で育てられたから、人一倍お祈りはしてきたにゃ!」

 サラッと重たい過去の一端を口にしながら笑顔を浮かべるニャロ。

「……そっか、きっとその明るさを神様も気に入ったんだろうな」

「ん……そうかにゃ?」

「そうさ」

 明るく良く笑うニャロはケーフィスも好きだろう。
 リュードはなんか自然とニャロのことを撫でてしまった。
 
 撫でられるなんて思っていなくてニャロは少し頬を赤らめてはにかむわうな笑顔を浮かべる。
 また魅力全開にしている、とルフォンとラストは顔を見合わせてため息をついた。

「にゃ!」

「ふふふ〜、さて神聖力の練習するにゃ!」

 会話も一区切りついた。
 ルフォンとラストにお仕置きとして脇腹をつつかれるリュードの横でニャロとコユキが神聖力の練習をする。

「にゃにゃん!」
 
 ニャロが指先に神聖力の玉を作り出す。
 親指の先ほどの大きさの白く輝く神聖力の玉はニャロの指の周りをクルクルと回る。
 
 これは昔からある神聖力を操るための練習であり軽い手遊びみたいなものでもある。
 ニャロはさらに神聖力の球を操って腕の周りを回らせたり体に沿うように動かしたりしている。
 
 玉を二つ、三つと増やしてもそれぞれが意思でも持っているかのように動いている。

「やってみるにゃ」

「にゃ!」

 コユキもそれに倣って神聖力の玉を作り出す。
 そこまではいいのだけど、コユキが動かす神聖力の玉は遅くぎこちない。

 一つ動かすだけでもコユキはいっぱいいっぱい。
 ニャロがやると簡単そうに見えていたが、実は難しいことなのだ。

 これをやると神聖力の細かなコントロールが身につく。
 複数の玉を動かせるようになれば、複数人を同時に強化したり回復したり、それぞれに強弱もつけられることもできるようになる。

 ニャロはそこらへんのコントロールが抜群にうまい聖職者なのである。

「くぬぬ……」

 いつかニャロのように玉を動かしたい。
 そう思うコユキであった。