宴の準備が進められる中で、ギルドの方でもダンジョンの消滅が確認されダンジョン攻略が認められた。
 これで国とギルドのお墨付きを得たことになる。

 いよいよお祝いの雰囲気が高まり、宴が始まる時が訪れた。
 ちなみに攻略不可ダンジョンが攻略されたことは、ギルドを通じて世界中に公表された。

 攻略不可ダンジョンは攻略不可ではなかった。
 攻略者たちが莫大な褒賞金を受け取ることも噂され、世界におけるダンジョン攻略の機運も高まったのだ。

「みんな、集まってくれて感謝する。もはや知らぬ人はいないほどに広まっているのでみな知っているとは思うが我が国にとって喜ばしいニュースがある。……私の懐妊ではないぞ?」

 フロスティオンの言葉に、リュードはそれを笑っていいのかわからなくて曖昧な表情を浮かべた。
 けれど周りの人たちは笑っているのでよく言う冗談なのかもしれない。

 普段は公開されない氷宮のホールに、グルーウィンの貴族や今回極寒のダンジョンを攻略したリュードたちが集まっていた。
 何か特別なイベントでもなければ王城たる氷宮で宴などやらないのだけど、今日ばかりは特別なイベントがある。

 攻略不可ダンジョンが攻略された。
 そのお祝いのパーティーが開かれるのだ。

「長年我々の頭を悩ませてきた悪夢のようなダンジョンがなくなった。グルーウィンは新たなる一歩を踏み出したのだ!」

 フロスティオンの発表に集まっていた貴族たちから歓声が上がる。
 氷子であるフロスティオンからの発表は噂で聞くのとは違う正式な発表だ。

 実際もはや噂どころでなく話は広まっていた。
 だな攻略がなされたと噂ではなく、正式にダンジョンが消滅したことも合わせて発表には改めての驚きと喜びがあった。
 
 攻略不可と呼ばれて久しく不安が大きかった。
 もたらされる利益よりもダンジョンの管理や積立金、討伐の費用などがかさむダンジョンだったので、ダンジョンがなくなってみんな大喜びだ。

 ダンジョンがなくなったからといって利用価値のある土地でもないけど、高めのランクの冒険者を集めて僻地に送り出すのは結構な負担だったのである。
 リュードたちが同行した時に怪我人はいなかったけれど、これまでの討伐では死傷者が出ることも珍しくなかった。

「ついては盛大にこのことを祝おうと思う。今日より三日、ダンジョンの消滅を祝した宴の期間とする。そして! 不可能を可能にした冒険者たちを紹介したい!」

 リュードたちが前に出る。
 事前に流れは聞いていたので、スムーズに動くことができる。

 国王であるフロスティオンに敬意を払って一礼。
 そして一列に並んで貴族たちにお目見えとなる。

「彼らが此度ダンジョンを攻略してくれた冒険者たちだ! 大きな拍手を! 彼らは英雄だ!」

 割れんばかりに拍手が降り注ぎリュードたちを讃える。
 この列の中にダリルとコユキはいない。

 ダリルはまだ体調が万全でもないので紹介されることを辞退した。
 コユキは何するか分からないし、攻略メンバーの中にいるのは不自然だからダリルに任せておいた。

 子供は嫌いじゃないらしく、コユキもダリルのことは意外と気に入っていた。
 チラリとみるとダリルに肩車されてコユキはリュードたちを見ていた。

 周りに合わせてパチパチと拍手をしていたが、リュードと目が合うと手を振ってくれている。

「みな、楽しんでくれ!」

 宴が始まってリュードたちは貴族に囲まれた。
 グルーウィンに住むつもりはあるかとか、パートナーとなる人はいるかとか質問攻めにされる。

 ウィドウや貴族の扱いにも慣れているアルフォンスなどの聖職者たちも押されている。
 貴族との交流が少ないリュードなどが敵うはずもない。
 
 なんとなく笑って誤魔化しながらやり過ごし、フロスティオンが止めてくれるまで貴族がかわるがわる話を聞きにきていた。
 当然のことながらリュードたちを抱え込もうと縁談話も多かった。
 
 すっかり気疲れしてしまったリュードは隙を見て会場を抜け出して部屋に戻ってきた。
 お腹は空いているので給仕に頼んで部屋まで料理を持ってきてもらうことにした。

「かぁ〜疲れた……」

「こんなところに逃げていたのか」

「勘弁してくださいよ……魔物に囲まれるまだマシです」
 
 気づけば一人、また一人と避難をしてきて、いつの間にか、そしてなぜかリュードのところに集まっていた。
 結局は気心の知れた仲間たちとささやかにパーティーを行うことになった。

「俺なんて年増の貴族にケツ揉まれたんだぜ!」

 まずみんなの口から飛び出したのは、餌を前にした魚のように群がってきた貴族たちに対する愚痴だ。
 ブレスはゴタゴタの隙に乗じてお尻を揉みしだかれたりなんかしていた。

 女性陣の方はフロスティオンの配慮でちゃんとガードされていたのだけど、男性陣の方は結構フリータイムだったのだ。

「……しかし本当に攻略不可ダンジョンを攻略したとはな」

 お酒の入ったグラスを傾けながらウィドウが感慨深そうに呟く。
 依頼を受けた以上は当然に成功させるつもりあったが、やはり攻略不可ダンジョンは一筋縄でいかないと思っていた。

 死ぬことも覚悟していたし、なんなら教会にも死んだら家族の面倒を見てほしいとまで頼んでいた。
 冒険者が最後に憧れるのは英雄譚だ。

 自分だけのストーリー。
 語り継がれる偉業の達成である。

 不可能を可能にした冒険者。
 偉大なる伝説にも引けを取らない。

 一方でケーフィス教の中では長らく失われた神物を取り戻した英雄でもある。
 これ以上のことはきっとなし得ない。