「……どんなことを言ったって仮説の域はでないのだけどさ、この子はやっぱりダンジョンのボスだった五尾のキツネかもしれないな」

 長いこと考えていたブレスが口を開いた。

「どういうことだ?」

「キツネたちが扱っていたあの炎……聖火の性質によく似ていただろ?」

「消えない炎か」

 神聖力による炎は魔力で作ったものよりも遥かに消しにくく、消えない炎となる。
 白キツネたちが放った炎は、相手を燃やし尽くすまで消えなかった。

 その点でいくと聖火のような性質を持っていた。
 さらに五尾の白キツネからはわずかに神性や神聖力のような物を感じた。

 神物がある場だったので確証はなかったけれど、もしかしたら五尾の白キツネは神聖力も使っていたのかもしれないとブレスは思った。

「となるとだ。五尾の白キツネが倒されると魔力はダンジョンに還るんだけど、もし神聖力を持っていたとしたらその神聖力はどうなる。ダンジョンに還るのか、それともダンジョンには神聖力を吸収する力なんてないのか」

 日が暮れ始めたので野営の準備をしていて、ちょうど終わったところでみんな話に耳を傾けていた。
 コユキは座るリュードの膝の上に飛び乗っている。
 
「ダンジョンは魔物を再生してまた出現させる。ダンジョンが神聖力を吸収出来ないのだとしたら、余ったエネルギーである神聖力をどうにかしようとしたのかもしれない」

「……何が言いたいにゃ?」

「つまりだ。あのダンジョンの魔物は神物由来の神聖力を持っていたけど、ダンジョンは神聖力を吸収できないのでさっさと魔物にしてしまおうとした。そこでまだボスである五尾の白キツネに生まれ変わっている最中に……」

「俺たちがダンジョンを攻略して消しちゃったと」

「そゆこと」

 魔力をエネルギーの主とするダンジョンが神聖力を扱えずに消える時に吐き出す形となった。
 それがコユキであるとブレスは予想したのだ。

 とても面白い仮説だとリュードは唸った。
 神聖力を固めて五尾の白キツネを再生させる途中だったとしたら、魔力を持たないのも聖者と呼べるほどの神聖力を持つのも中途半端な大きさなのも納得はいく。

「何でリュードがパパなのかまでは知らないぞ? それは神様に聞いてくれ」

 流石にリュードがパパと呼ばれる理由まで想像は及ばない。
 神にすらイレギュラーな出来事かもしれない。
 
 聞いて答えが返ってくるか疑問である。

「何でリューちゃんがパパで、私がママなんだろうね。……悪くないけど」

 ちょっとリュードに甘えすぎなところは気になるが、ママ、ママと甘えてくるのにはルフォンも段々とやられていた。
 もうほとんど心は掴まれているといってもいい。

「何でだろうね? ルフォンはやっぱミミかな? ちょっと違うけど似た感じはしてるもんね」

 リュードはルフォンとコユキの耳を見比べる。
 オオカミとキツネのミミでは違うのだけど、どちらもフワフワとしていて形的にはそう遠くない。

 尻尾もあるしざっくりとした容姿の特徴はルフォンが一番よく似ているといえる。

「えぇ〜それだけ?」

「子供ならそんなことでも十分かもな」

「私の溢れ出る母性ってこともあるかもよ?」

「ミミなら私にもあるにゃ! ほら、ママですにゃー」

 ニャロがコユキに近づく。

「ちがう」

 プイとニャロから顔を逸らしてしまうコユキ。
 ネコ系のニャロではミミも尻尾もタイプは違う。

「うっ! 冷たくてグサリとくるにゃ!」

「まっ、ニャロだとちょっと違うな」

「ほーら、ママですよ〜」

 何を思ったか今度はラストがチャレンジ。
 どこら辺に勝機を見出しての勝負なのか。

 またキッパリと拒否するのかと思っていたらコユキはラストをジッと見つめる。
 どこを見ているのか。

 視線はやや上を向いている。
 顔ではなく頭。

 でもラストにミミはない。
 それでもコユキはイジイジと自分の髪をいじり、ラストの髪を見る。

「ママ!」

「そうだよ、ママだよー!」

「なんでにゃ!」

 笑顔になるコユキ。
 ドヤ顔になるラスト。

「これが私のぼせーってやつよ!」

「あれだな、髪色だな」

 ラストに母性を感じて母だと思っている、と考えるのはラストだけ。
 コユキの行動を見ていれば分かる。

 髪色でママだと判断したと。

「はーはっはっはっ! 私がママンでリュードがパパンだよー!」

「怖い……」

「はっ、ご、ごめんねー! そんなに怯えないでぇ〜」

 調子に乗りすぎたラストに、コユキが怖がってサッとルフォンの後ろに隠れる。
 どちらかといえばルフォンママの方がいいみたいだ。

「母性……ね?」

「あー! その顔ムカつくぅ〜!」

「こらこら、怒るとコユキが怖がるぞ」

「ぬぅ〜!」

 ルフォンはちょっと勝ち誇ったような顔をしている。
 コユキの正体が何であれ、何でもいいかと思わせられる明るい雰囲気がみんなの中にあった。