「だけど取り戻そうにもどこにあるのか……誰が盗んだのかも分からないんだ」
 
 実際にファフラの神物を盗み出した勢力がどこのものなのかは分かっていないが、神物は盗まれてしまった。
 そして神の力が及ばず、漏れ出さないように封印されてしまった。
 
 神物が盗まれたなど公表できるはずもない。
 ファフラを進行する宗派も、神物が失われたことを隠してしまったのでリュードもそのことを知らなかった。
 
「基本的には大きな影響をすぐに及ぼすものじゃないんだけどね。それでも僕の事例を見れば、全くの無影響ではないことは分かるだろ?」

 神の影響が薄くなるだけで、そこで何が起こるのでもない。
 けれどそのせいで、テレサは本来死ぬほどに反動の出ない降臨魔法で死にかけてしまった。

 神物が無くなった影響で神の力がコントロール出来ていなかったためである。

「今は世界に魔力が戻って繋がりも太くなった。神物も取り戻せたしテレサも無事回復するけど、問題は他の神様でも同じく神物を盗まれたり、行方が分からなくなっている神様がいるのさ」

 魔力が増えて人が増えて、平和になって宗教が安定してきているので神の力も強くなった。
 もしかしたらもっと世界の動きが活発になれば神物も見つかるかもしれない。

 けれどすでにテレサのような影響も出ている。
 のんびりと待つだけじゃダメだとケーフィスも思った。

 その上でリュードがいる。
 かなり特別な存在であるリュードは神との繋がりが太くてこうして神の世界にも呼べる。
 
 実力も高くて道徳心があって、お願いに応えてくれる。
 神物を見つけても悪用しないし、他に探してもらうような方法もない。

 リュードならと神々は思った。

「だからリュードを呼んでお願いすることにしたのさ」
 
 他にもお願いしたいことがある神様はいるのだけど、一度にたくさんお願いされるとリュードに嫌がられる。
 なので今回は緊急性の高いファフラのお願いを優先した。

「……なるほどねぇ。事情は分かったよ」

「もちろんただとは言わない。上手くやってくれたら私の加護をやろう。火の加護は意外と便利だぞ」

 もう引き受けること前提で話すファフラは胸を張る。
 火を扱いやすくしてくれることは確かに便利そうだとリュードも思った。

「んで、神物はどこにあるんだ?」

 リュードもなんだかんだと甘いところがある。
 テレサのような人を今後でないようにするためなら引き受けるつもりだった。

 どの道話を聞いてしまっては断れない。
 
「それが……分からないのだ」

「あぁ?」

「そ、そんな顔しないでくれ……火の力は中でも苛烈で強力だ。そんな力が漏れないように封印されているので、私にも分からないのだ」

 火の力を抑えることは簡単ではない。
 強い力で完全に神の力を抑えられていて、ファフラにも神物がどこにあるのか感知できないでいた。

「なんのヒントもなく広い世界を探し回れって?」

「こ、こちらでも必死に探している! 神物は封印されているがずっとは完全に封じ込めておけない。だから今頃は周りに影響も出始めているはずなんだ。そうした場所を探せばあるかもしれない」

「影響ってなんだよ?」

 思わずファフラに対して態度が雑になる。
 こんな大事な時に呼び出しておいて、最初に雑にお怒りなさったのはファフラの方である。

「ふふ、ファフラもリュードには勝てないね」

 ケーフィスは強気なファフラが押されるのを見てニヤついている。
 いつも怒られるのは自分だから、他の神様が怒られるのは楽しくて仕方ない。

「た、たとえばそこらの気温が急に高くなったとか火の魔物が増えた……とか?」

 影響の出方も分からない。
 ちょっとずつ変化が起きていた場合、自然のものとして受け入れられてしまっている可能性もある。

 この世界においては不思議な現象はつきものなので、異常に見える現象も神物由来ではなかったり、あるいは神物由来でもそうは見えないことだってある。
 結局ヒントはあまりないということなのだ。

「その……もう一つというかこっちがメインで……」

「まだあるのか?」

 リュードに険しい目で見られて、ファフラはなんだか一回り小さくなったような気がする。

「神物を見つけて私の神獣を助けて欲しいんだ」

「なに?」

「火というのは信仰が多くて私の神格は割と高く保たれていた。でもやっぱり信仰が薄まり繋がりが薄くなると、中世界にいる神獣にも影響が出てくる。私の神獣は神獣としての格を失わなかったのだけど、誰かに襲われてひどく怪我をしてしまった」

 リュードはふとティアローザで出会った、雷の神獣の子孫であるモノラン思い出す。

「そのせいで理性を失って今はただの魔物のようになっている……神物を取り戻してくれれば私の影響力が戻る。そうしたら神獣の理性を取り戻す手伝いをしてほしいんだ」

 ファフラは少し泣きそうな顔をしている。
 神獣は神にとって家族のようなものだ。

 雷の神獣のように格を失ってしまうものもいるが、火の神獣は格を失わずに耐えていた。
 なのに何かに襲われて魔物に身を落としてしまった。

 神獣を助けてほしい。
 これがファフラの本当の願いだった。

「なんか……難易度高いな」

 リュードは思わずため息を漏らす。
 ケーフィスの時は神物の場所も分かっていた。
 
 それに見つけて取り戻せばそれで終わりだったのだけどファフラのお願いでは神物を探し、取り戻して、神獣まで救う。
 ちょっとやらなきゃいけないことのレベルが違う。

「とりあえず引き受けるけどさ……」

 でもなんだかんだ引き受けちゃう。

「ありがとう! こっちでも探すから! 見つけたら教えるし時が来たら私の信者にも手伝うように伝えておく!」

「ふぅ……」

 再び深いため息をつく。
 なんだって神様のお願いを解決していかなきゃならないのか。

 もうちょいのんびりと旅してる予定だったんだけどなと思ってしまう。

「あっ! それとイレギュラーなことが起きて…………悪い子じゃないから……………………頼んだ…………」

 いきなり意識が世界から離れていく感じが襲いかかってくる。
 ケーフィスの声が遠ざかっていき、ようやく戻れるのだと思った。

 でも最後にケーフィスは何かを言おうとしていた。
 それがなんなのか聞くこともできずにリュードの意識は白く塗りつぶされていった。