とりあえずと思って部屋にある樽や木箱の中を調べてみたけど、どれも中身は空で綺麗なものだった。
 仮に船だとして、山の中から落ちてきてどうして船に落ちるのか理解もできない。

 なぜ相当衝撃も大きな音もあったはずなのに誰も来ないのか。
 船だと仮定しても説明できないことが多い。

「ルフォン、部屋を出てみようと思うけど武器だけは構えておいてくれ」

「分かった」

 何があってもおかしくない。
 最初に持っていた槍は休憩している時に手放していて置いてきてしまった。

 リュードはマジックボックスから予備の剣を取り出しておく。
 ルフォンは腰に差していたナイフを抜く。

 部屋にある唯一のドアの前にリュードは立つ。
 ルフォンと一度視線を交わしてうなずき合うとドアをそっと開ける。

 ドアは小さく軋む音を立てて開く。
 少し待ってみるけれど何も現れずリュードはドアの外を覗き込んでみる。
 
 分かっていたけれど外に出るはずもない。
 部屋の外は廊下になっていて、廊下にも明かりはなく真っ暗な闇が広がっている。

 どっちにいっていいかも分からないからひとまず右に行ってみることにした。
 途中の分岐は無視して真っ直ぐ進み続ける。

「うわっ、キモチワル……」

 進んでいった先に運が良く階段を見つけられて上がっていく。
 何事もないように2階分上がると甲板に出た。

 そこに奴らがいた。

「どうやら友好的じゃ、なさそうだな」

 カラカラと音を立てて動く骨。
 魔の魔力に当てられて意思を持たない魔物とかした骨の魔物であるスケルトンが甲板にワラワラと存在していた。

 甲板に上がってきたリュードたちに反応したスケルトンたちは持っていた武器を構えてリュードたちに対峙してくる。

 何十体もいるスケルトンを前にリュードは少し吐きそうな気分がしていた。
 動く骨が気持ち悪くないわけがない。

 逆にルフォンは魔物としてしか見ていないようで平気である。
 前世の記憶があるとこういったところで不都合がある。
 
 元は人とはいえ、こうなってしまっては分類は魔物になる。
 油断すれば殺されて、時間が経つと同じようにスケルトンになってしまうかもしれない。

 やるしかないのだ。

「いくぞ!」

「うん!」

 ジリジリと距離を詰めてくるスケルトンにリュードたちの方から打って出て先手を加える。
 左手に発生させている光の玉に魔力をさらに加えて光を強くして戦えるように光量を確保する。

 前に出たリュードは適当に1番近くにいるスケルトンに剣を叩きつける。
 古ぼけた盾で防ごうとしてきたけど力が弱くそのまま押しつぶされるようにスケルトンはバラバラに砕け散った。

 魔力が濃ければそれに応じて多少強くなるスケルトンであるはずなのだけれどここはそんなに魔力が濃くないのか力が弱く動きも鈍い。
 リュードが横薙ぎに剣を振るだけで3体のスケルトンがバラバラになる程骨も脆く、復活してくるような様子もない。

 ルフォンの攻撃でも簡単にスケルトンたちは倒せていって、最初こそ気持ち悪くてやりにくい感じがあったリュードでも簡単に処理できてしまった。
 光属性や炎属性が必要なほど強化された相手だったら厄介なところであった。

 数が多くて危険もあるかもしれないと思っていたけれど思っていたよりもあっという間にスケルトンを片付け終えてしまった。
 他にもスケルトンがいるかもしれないので少し警戒しながらも周りの状況を確認してみることにした。

「やっはりか……」

 縁まで行って下を覗き込むと水の上だった。
 ほとんど揺れもない水面にスケルトンの骨を投げ込んでみると確かに波打つ。
 
 予想通りの今いる場所は船の上であるようだ。
 ルフォンが想像していた小舟ではなくリュードが想像していた大きい船。

 スケルトンがいるような船にしては綺麗な船であることに対してところどころ不自然に壊れていたりもする。
 中でもマストが酷く破損していて根本からポッキリと折れて船の上から落ちかけている。

 落ちてきた穴はどうなっているのか確認しようと見上げてみる。
 そのままでは光が届かなかったのでもう少し魔力を強めて光を強める。

 光の玉を出しているリュードに眩しいほどの光になってようやくギリギリ光が届いて上の様子も見えた。
 ゴツゴツとした岩肌でよく見てみると落ちてきた穴らしきものがあった。

「リューちゃん……後ろ!」

「いつの間に……」

 どこか出口はないかと壁に光を当てようとしてグルグルと船の縁を周り、船首に差し掛かったところでルフォンに服を引っ張られた。
 下の階から上がってきたのかスケルトンが甲板に出てきていた。

 ただ先ほどのスケルトンとは異なっている姿のスケルトンがいた。
 ローブを着て杖を持ったスケルトンと側に控える高価そうな武器を持ったスケルトンが1体ずつ。

 まとっている雰囲気が他のスケルトンとは明らかに違う。

「スケルトンメイジか!」

 生前の記憶があるのか魔法の知識を有し魔法を行使することができるスケルトンがごく稀に存在する。
 人間の魔法使いには及ばなくても前衛で戦う戦士には十分魔法は脅威となり得るために戦闘の際にはさっさと潰しておきたい魔物である。

 気付いた時にはそこにいたスケルトンメイジが杖を持たない骨むき出しの左手をこちらに向けた。

「俺の後ろに!」

 魔法を警戒してルフォンを守るように前に出るが一向に魔法は発動しない。
 それどころかスケルトンメイジと一緒にいるスケルトンも抜き身の剣は持ってはいるのに襲いかかってこようとしていない。