「おい! 敵だ! 囲まれてるぞ!」
そんなささやかな幸せな時間をぶち壊すのはやっぱりスノーケイブだ。
当然、短時間で交代しながら外の見張りは欠かさない。
リュードたちが外に出てみると外は暴風吹き荒れる横殴りの猛吹雪という状態であった。
ただ真っ暗ではない。
時間帯的には夜は越えているようだ。
「囲まれてるな……」
降りしきる雪の間からスノーケイブの血走った目が見える。
見渡してみるとグルリとテントを囲むようにたくさんのスノーケイブが集まっていた。
「やはり逃した影響はあったか……」
仲間を呼んできたに違いないとウィドウは顔をしかめた。
スノーケイブの賢さなら罠があるかもしれないと追跡をやめたのが悔やまれる。
「やはり楽はさせてくれないか」
このままならレッドットベアよりも楽に進めると思ったのに、そうそう簡単にはいかなかった。
何十体と並ぶスノーケイブを前にして流石のウィドウも肝を冷やす。
知能が高いスノーケイブのことだから、吹雪のタイミングを待っていたのかもしれない。
「後ろが狙われるかもしれない! しっかり守るんだ!」
後衛を守るように丸く陣形を取る。
視界が悪く、寒さに体力を奪われる吹雪の中で大量のスノーケイブに襲われる。
この戦闘難易度はレッドットベアよりもはるかに高い。
「なんだ……!」
一際低い雄叫びが響き渡る。
吹き荒ぶ風の音にも負けない雄叫びを合図としてスノーケイブが動き出す。
この数を相手にして悠長に体力や魔力を温存して戦っている余裕などない。
リュードも剣に魔力をまとわせて雷属性に変化させる。
雪がリュードの剣に当たるたびにバチバチと音を立てる。
スノーケイブも物理タイプなので遠距離攻撃はない。
円陣でしっかりとスノーケイブを迎えうつ。
リュードの剣がスノーケイブに触れるだけで電撃が走り、痺れて動きが止まる。
電撃を与える目的で素早く浅く切りつけ、動きが止まったところで深く切りつける。
「ブッ!」
「リュード!」
「チッ……助かった!」
遠距離攻撃はない。
そう思っていた。
スノーケイブは何と雪玉を握ってリュードの顔面めがけて投げつけた。
攻撃と呼べるかは微妙だが、リュードの視界は顔にまとわりついた雪で一瞬塞がれた。
雪玉で前が見えなくなったリュードにスノーケイブが襲いかかっていて、ラストが弓で援護してくれなかったら危なかった。
「寒い……」
リュードはインナーを着ているからまだ良いが、他の人の状況も良くない。
戦って動いているのに体が温まるよりも冷える速度の方が早い。
わずかに温まって出てきた汗が急速に冷えて、体力を奪い始める。
そうであるからと過度に防寒具を着込めば戦うのに動きにくくなる。
さらに結構なペースでスノーケイブを倒しているのに減っている様子もない。
こういう時は死体を積み重ねて壁にしたりもするのに、倒すと消えてしまうダンジョンの特性も今ばかりは厄介だ。
「うおっ……ダリル!?」
後ろから飛んできたものをかわしたリュード。
かわしたものはぶっ飛んできたダリルだった。
「デカいな……」
「あれがボスだろうな」
メンバーの中でも特に力の強いダリルを吹き飛ばしたのは、他のスノーケイブよりも二回りほども大きなスノーケイブだった。
デカいだけでなく、少し他のスノーケイブよりも毛が濃くて表情すらも分からない。
盾ごと殴りつけてダリルを吹き飛ばした大きなスノーケイブは、スノーケイブキングというスノーケイブたちの王であった。
「ここでボスのお出ましかよ!」
ダンジョンに生まれて、ダンジョンに縛られた存在でありながらスノーケイブキングは己の運命を嘆いていた。
暇だと。
知能が高いスノーケイブの中でもより知能の高いスノーケイブキングは、倒されることもなく長い時を過ごして己の存在に疑問すら抱いていた。
他の魔物とナワバリ争いをすることもなく人が入り込むことなど滅多にない。
それでいながら疑問を持つことをダンジョンは抑制し、ダンジョンにいて、人と戦えと本能に訴える。
久々の戦いにスノーケイブキングは喜んでいた。
もっと細かにスノーケイブを送り込んで弱らせてもよかったけれど、それだとつまらない。
リュードたちには自分と戦う資格がある。
ただ迷い込んでここまできたのではなく、自らの力で道を切り拓きここまでやってきたのだ。
「ん? ……なんか……私のこと見てない?」
闘志満々で戦いを見ていたスノーケイブキングの目を奪った存在があった。
戦いの高揚感だけでなく何かに胸が高鳴った。
透き通るような肌、美しい顔立ち、真っ白な毛。
スノーケイブキングはラストを見てこれまでになかった感情を抱いた。
「キャアアアア!」
「ラ、ラスト!」
ラストは相手の数が多く、矢の回収が出来ないので剣で応戦していた。
無理なく敵を引きつけるようにして戦っていたラストのところにスノーケイブキングが走った。
ダリルはそれを止めようとして殴り飛ばされたのであった。
ラストは下がりながらスノーケイブキングを切りつけるが、浅い傷など気にもとめない。
スノーケイブキングは手を伸ばしてラストを優しく掴んで大きく飛び退いた。
「ラストが攫われた!」
「な、なんだと! リュード、行くんだ!」
これはまずい状況だとウィドウは初めて焦りの表情を浮かべる。
魔物が人をさらって良い結果に終わることなどない。
誰かが追いかけて助けなきゃラストがどうなるか分からない。
「はああっ!」
ウィドウがより強く剣に魔力を込める。
炎が渦巻き、剣を振るとそれが巨大な斬撃となる。
スノーケイブが斬撃に巻き込まれて燃える。
囲っていたスノーケイブが開けて大きな道ができた。
「助かる!」
リュードは走る。
スノーケイブにまた道を塞がれる前に抜け出さなきゃいけない。
「私も行こう!」
強化支援も出来るしラストに回復が必要になるかもしれない。
それにラストを守りきれずに殴り飛ばされてしまった責任もある。
ダリルがリュードの後に続く。
「アルフォンス、やるにゃ!」
「分かりました!」
「「聖域展開!」」
人が抜けると戦線の維持が難しくなる。
ニャロとアルフォンスは神聖力を使って結界を張る。
スノーケイブが結界を殴りつけて弾かれる。
魔物の侵入を防ぐ結界は人の出入りは阻害しないけれど、魔物は入ることができない。
結界を利用すれば自分たちの身を守りながら戦うことが可能になる。
その代わり結界の維持に集中するので強化や回復を出来なくなってしまう。
「結界を利用してヒットアンドアウェイで戦うんだ!」
そう指示を出しながらウィドウはさらに前に出る。
スノーケイブがリュードたちを追いかけていったら厄介なことになる。
そうさせないように派手に暴れる。
「リューちゃん……ラストのこと助けてね」
今できるのは少しでも多く、少しでも早くスノーケイブを倒すこと。
ルフォンはラストのことをリュードに任せた。
きっとリュードならスノーケイブキングも倒してラストを救ってくれるはずだと信じている。
ーーーーー
そんなささやかな幸せな時間をぶち壊すのはやっぱりスノーケイブだ。
当然、短時間で交代しながら外の見張りは欠かさない。
リュードたちが外に出てみると外は暴風吹き荒れる横殴りの猛吹雪という状態であった。
ただ真っ暗ではない。
時間帯的には夜は越えているようだ。
「囲まれてるな……」
降りしきる雪の間からスノーケイブの血走った目が見える。
見渡してみるとグルリとテントを囲むようにたくさんのスノーケイブが集まっていた。
「やはり逃した影響はあったか……」
仲間を呼んできたに違いないとウィドウは顔をしかめた。
スノーケイブの賢さなら罠があるかもしれないと追跡をやめたのが悔やまれる。
「やはり楽はさせてくれないか」
このままならレッドットベアよりも楽に進めると思ったのに、そうそう簡単にはいかなかった。
何十体と並ぶスノーケイブを前にして流石のウィドウも肝を冷やす。
知能が高いスノーケイブのことだから、吹雪のタイミングを待っていたのかもしれない。
「後ろが狙われるかもしれない! しっかり守るんだ!」
後衛を守るように丸く陣形を取る。
視界が悪く、寒さに体力を奪われる吹雪の中で大量のスノーケイブに襲われる。
この戦闘難易度はレッドットベアよりもはるかに高い。
「なんだ……!」
一際低い雄叫びが響き渡る。
吹き荒ぶ風の音にも負けない雄叫びを合図としてスノーケイブが動き出す。
この数を相手にして悠長に体力や魔力を温存して戦っている余裕などない。
リュードも剣に魔力をまとわせて雷属性に変化させる。
雪がリュードの剣に当たるたびにバチバチと音を立てる。
スノーケイブも物理タイプなので遠距離攻撃はない。
円陣でしっかりとスノーケイブを迎えうつ。
リュードの剣がスノーケイブに触れるだけで電撃が走り、痺れて動きが止まる。
電撃を与える目的で素早く浅く切りつけ、動きが止まったところで深く切りつける。
「ブッ!」
「リュード!」
「チッ……助かった!」
遠距離攻撃はない。
そう思っていた。
スノーケイブは何と雪玉を握ってリュードの顔面めがけて投げつけた。
攻撃と呼べるかは微妙だが、リュードの視界は顔にまとわりついた雪で一瞬塞がれた。
雪玉で前が見えなくなったリュードにスノーケイブが襲いかかっていて、ラストが弓で援護してくれなかったら危なかった。
「寒い……」
リュードはインナーを着ているからまだ良いが、他の人の状況も良くない。
戦って動いているのに体が温まるよりも冷える速度の方が早い。
わずかに温まって出てきた汗が急速に冷えて、体力を奪い始める。
そうであるからと過度に防寒具を着込めば戦うのに動きにくくなる。
さらに結構なペースでスノーケイブを倒しているのに減っている様子もない。
こういう時は死体を積み重ねて壁にしたりもするのに、倒すと消えてしまうダンジョンの特性も今ばかりは厄介だ。
「うおっ……ダリル!?」
後ろから飛んできたものをかわしたリュード。
かわしたものはぶっ飛んできたダリルだった。
「デカいな……」
「あれがボスだろうな」
メンバーの中でも特に力の強いダリルを吹き飛ばしたのは、他のスノーケイブよりも二回りほども大きなスノーケイブだった。
デカいだけでなく、少し他のスノーケイブよりも毛が濃くて表情すらも分からない。
盾ごと殴りつけてダリルを吹き飛ばした大きなスノーケイブは、スノーケイブキングというスノーケイブたちの王であった。
「ここでボスのお出ましかよ!」
ダンジョンに生まれて、ダンジョンに縛られた存在でありながらスノーケイブキングは己の運命を嘆いていた。
暇だと。
知能が高いスノーケイブの中でもより知能の高いスノーケイブキングは、倒されることもなく長い時を過ごして己の存在に疑問すら抱いていた。
他の魔物とナワバリ争いをすることもなく人が入り込むことなど滅多にない。
それでいながら疑問を持つことをダンジョンは抑制し、ダンジョンにいて、人と戦えと本能に訴える。
久々の戦いにスノーケイブキングは喜んでいた。
もっと細かにスノーケイブを送り込んで弱らせてもよかったけれど、それだとつまらない。
リュードたちには自分と戦う資格がある。
ただ迷い込んでここまできたのではなく、自らの力で道を切り拓きここまでやってきたのだ。
「ん? ……なんか……私のこと見てない?」
闘志満々で戦いを見ていたスノーケイブキングの目を奪った存在があった。
戦いの高揚感だけでなく何かに胸が高鳴った。
透き通るような肌、美しい顔立ち、真っ白な毛。
スノーケイブキングはラストを見てこれまでになかった感情を抱いた。
「キャアアアア!」
「ラ、ラスト!」
ラストは相手の数が多く、矢の回収が出来ないので剣で応戦していた。
無理なく敵を引きつけるようにして戦っていたラストのところにスノーケイブキングが走った。
ダリルはそれを止めようとして殴り飛ばされたのであった。
ラストは下がりながらスノーケイブキングを切りつけるが、浅い傷など気にもとめない。
スノーケイブキングは手を伸ばしてラストを優しく掴んで大きく飛び退いた。
「ラストが攫われた!」
「な、なんだと! リュード、行くんだ!」
これはまずい状況だとウィドウは初めて焦りの表情を浮かべる。
魔物が人をさらって良い結果に終わることなどない。
誰かが追いかけて助けなきゃラストがどうなるか分からない。
「はああっ!」
ウィドウがより強く剣に魔力を込める。
炎が渦巻き、剣を振るとそれが巨大な斬撃となる。
スノーケイブが斬撃に巻き込まれて燃える。
囲っていたスノーケイブが開けて大きな道ができた。
「助かる!」
リュードは走る。
スノーケイブにまた道を塞がれる前に抜け出さなきゃいけない。
「私も行こう!」
強化支援も出来るしラストに回復が必要になるかもしれない。
それにラストを守りきれずに殴り飛ばされてしまった責任もある。
ダリルがリュードの後に続く。
「アルフォンス、やるにゃ!」
「分かりました!」
「「聖域展開!」」
人が抜けると戦線の維持が難しくなる。
ニャロとアルフォンスは神聖力を使って結界を張る。
スノーケイブが結界を殴りつけて弾かれる。
魔物の侵入を防ぐ結界は人の出入りは阻害しないけれど、魔物は入ることができない。
結界を利用すれば自分たちの身を守りながら戦うことが可能になる。
その代わり結界の維持に集中するので強化や回復を出来なくなってしまう。
「結界を利用してヒットアンドアウェイで戦うんだ!」
そう指示を出しながらウィドウはさらに前に出る。
スノーケイブがリュードたちを追いかけていったら厄介なことになる。
そうさせないように派手に暴れる。
「リューちゃん……ラストのこと助けてね」
今できるのは少しでも多く、少しでも早くスノーケイブを倒すこと。
ルフォンはラストのことをリュードに任せた。
きっとリュードならスノーケイブキングも倒してラストを救ってくれるはずだと信じている。
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