「今日はこれぐらいにしておきましょうか。皆さんお疲れでしょうし」

 ウィドウは空を見上げる。
 このダンジョンは常に薄曇りのようなスッキリしない空をしている。

 このゲートにおいてはゲートの中でも昼夜はあるのだけど、どの時間だろうが空は雲がかかっていてやや暗い印象がどうしてもある。
 それでも昼に当たる明るい時間帯に比べて、気づけば空も暗くなり始めていた。

 外も大体同じ時間で夜になる。
 生活のリズムを保つことができるのはありがたい。

「意外と深いな。下まで掘ることは諦めよう」

 魔法で軽く雪をどけてへこませる。
 下まで掘れば地面もあるのかもしれないけどそこまで掘ったことはなく、出やすくて、かつ横風を少し防げるぐらいの深さで掘ってテントを張る。

 ダンジョンでも木々があるタイプだと木を燃やすこともあるが、極寒のダンジョンは見渡す限り雪しかない雪原である。
 持ってきた燃料を燃やすしかない。

 火を焚くのは暖を取ることだけでなく、明るさや料理にも使えるので大切なのである。

「なーるほど」

 リュードはプラチナランクの力を見た。
 討伐隊はある程度の寒さには耐えて夜を過ごす。

 焚き火で体を温めて厚い毛布や寝袋のようなものに身を包んでさっさと寝てしまうのだけど、プラチナランクは違った。
 魔道具を用いていた。

 まずテントの中に魔法を張る。
 テントそのものも性能が良いものを使っているのだけど、寒気が入って暖気が流れるのを防ぐ一種の結界のような魔法を用いているのだ。

 そして中で火が出る魔道具を使う。
 いわゆるトーチのようなもので、魔石を中に入れると魔石の魔力で火が出るものである。

 明かりとして使うものなのだが、火は火だ。
 魔法で中の暖かさが逃げないようになっているので、トーチを付けっぱなしにしておくと少しずつテントの中が温まる。

 寒さに耐えるぐらいなら多少の魔力や魔石は使ってしまう。
 体力の管理や精神的な安らぎを優先する。

「しっかりしてるな」

 流石プラチナランクとリュードも感心した。
 見習おうとリュードも空気の温度を遮断する結界魔法を教えてもらって自分達のテントで実践した。

 発動させるのに若干の魔力はいるが、一度発動させれば一晩維持するのは難しくない。
 トーチのような魔道具は流石に持っていないので、デカコンロを出すか迷ったけどやめておいた。

「これだけでも結構違うね」

「確かにな」

 寒さがテントの中に入らないだけでも随分と快適に休むことができる。
 環境に合わせた対応をすることは経験や知恵がいる。

 ケフィズサンのように何を優先して、何を用意しておくのか、もっと考えておくことも大事だ。
 ちなみに今はリュードはルフォンとラストと同じテントにいる。

 普段はリュードは天候が悪くなきゃ地面に寝るか、別のテントでも張るのだけど、今回は雪を掘ったり必要がある。
 外の雪の中では寝られないし、テントスペースの確保も面倒なのだ。
 
 なのでリュードたち三人は同じパーティーなので同じテントで寝ることにしたのである。
 そうすることもたまにはあるし、宿の部屋の都合で同部屋であることだってままあることだ。
 
 それに三人もいればテントの中も多少暖かくなる。

 リュードを真ん中に川の字になって眠る。
 ちょっとずつルフォンとラストがリュードに距離を詰めてくるのだけど、近い方があったかかったのでリュードも何も言わなかった。