「まあ暇だし出るか」

「やった!」

 外に出ると言ってもやることといったらお買い物ぐらいである。

「意外と賑わってるな」
 
 町の市場に行ってみると町の周辺に出る魔物の素材や、その魔物の素材を加工した物が置いてある。
 伝統工芸的なものもあったりして面白いのだけど、リュードが目をつけたのはそれらとは全く異なるものだった。

 寒い地域ということで植物なんかは少ないのだが、木なんか生えているところもある。
 他の温暖な地域とはまた違った種類のものであり、その樹液を採取して煮詰めて濃縮したものが瓶詰めにされて売られていた。

 これもグルーウィンの名産品。
 細かく砕いた氷にかけて食べていたりもしたのでスノーシュガーなんて呼ばれているこれは一口舐めて分かった。

「メープルシロップだ」

「めーぷる?」
 
 こちらの世界での商品名はあるのだけど、リュードにとってはメープルシロップであった。
 ハチミツに続いてメープルシロップとは足を伸ばしてみると思いの外甘いものもあるのだなと思った。
 
「ほれ、ちょっと舐めてみ」

 試食をもらったのでルフォンとラストにも舐めさせる。

「ん! 甘い!」

「あの、なんだっけ……ハチミツ……とはちょっと違う感じ」

「これ全部ください」

「全部ですか? あ、ありがとうございます!」

 リュードは即決でメープルシロップも全て買い占める。
 食料品を買い占めたら困るだろうけど、メープルシロップを一つの店で買い占めても困る人は少ない。

 小麦粉はあるのだしホットケーキやパンケーキのようなものぐらいなら作れる。
 思わぬ収穫を得たリュードはホクホク顔であった。

 ーーーーー
 
「よろしくお願いします」

「こちらこそ同行させていただきありがとうございます」

 数日後、冒険者たちが集まって討伐隊が出発することになった。
 リュードたちも軽く討伐隊と挨拶をして、一緒に極寒のダンジョンに出発する。

 浅いところで数日魔物を狩るために三十人ほどの冒険者が集められた。
 万が一もないように実力がある人ばかりを選んでいるらしい。

 ウィドウと握手していた冒険者も中にいる。

「それじゃあ出発しましょうか」

 集められた冒険者を見れば、たとえ浅いところであっても危険であると予感させるに十分であった。
 極寒のダンジョンに向かいながらも、討伐隊に何回か参加しているベテランから話を聞いた。

 浅いところの情報しかないと思っていたけれど、案外そうでもなかった。
 確かに攻略がなされているところは浅いところまでで留まっているが、それより奥に行った人がいないのではない。

 ほとんどの人は帰ってこないけれども、ちゃんと身の程を弁えて戻ってきた冒険者や魔物から逃げてきた冒険者も少数ながら存在している。
 まず、浅いところにはレッドットベアという大型のケモノ系魔物が現れる。

「その特徴は……」

 聞いたところリュードがイメージしたのは白熊である。
 討伐隊が倒すのはこのレッドットベアで、浅いところを探して見つけていくようだ。

 人よりも大きくしなやかで力強い。
 多少の知恵もあり、まだダンジョンの浅いところに出る魔物なのにかなり危険度が高い。

 倒すと魔石の他に肉や毛皮をドロップするので危険はあるけれど、討伐隊にも十分な利益も見込める相手なのであった。
 そして浅いところから進んでいくと、今度は白い大型のサルのような魔物が出てくる。

 ホワイトケイブと呼ばれているが、見た目について聞くと雪男みたいな感じな印象を受けた。
 狡猾で集団で襲いかかってくる魔物らしく、生きて帰ってきた人も少ないので情報もあまりない。

 さらにまだ奥もあるらしい。
 ここまでいくと攻略して帰ってきたのではなく、遭難して命からがら奇跡的な生還を果たした人の、本当か嘘かも分からない話になる。

 猛吹雪の中、少し離れたところに四つ足ケモノ系の魔物がいたらしい。
 大きさとしてはそんなに大きくないものの、強い魔力を感じたそうだ。

「さらにダンジョンの中にも環境の変化がある。気をつけた方がいい」

 極寒のダンジョンはダンジョンなのに昼夜があったり、天候の変化があるなんてことも教えてくれた。
 冒険者たちとしては極寒のダンジョンを攻略してもらいたい。

 討伐隊としてきている以上は収入源ではある。
 ただ浅いところでの討伐が本当にダンジョンブレイクの防止になっているのかも甚だ疑問であり、いつダンジョンブレイクを起こしてしまうのか不安に思っている人が多いのだ。
 
 討伐隊の多くの人もグルーウィンの人である。
 極寒のダンジョンの魔物の強さを知っているだけに、ダンジョンブレイクが起こる危険性と無くなった後のことを天秤にかけてもやっぱり無くなってほしいのだ。

「これは……何というのか」

「異常、奇妙、いずれにしてもこんなの見たことがないな」

 雪がさらに深くなり歩きにくさも増してきた。
 ただ進むだけで疲労感も出てくるようになってきて、ようやく極寒のダンジョンが見えてきた。

 見えるダンジョンの入り口、それは大きな石の扉だった。