「リュードも獣人族じゃないんだにゃ?」

「そうだよ」

 ニャロはケモミミ的な身体的特徴からルフォンのことも獣人族だと思っていた。
 ほぼ百パーセントの確率でみんながそう思っちゃうので、ルフォンもそれで怒ったりしない。

 さっくりとそんなことも聞けるのもニャロだからだろう。

「また気温が下がった感じがするね」
 
 ケーフィランドでもそろそろ雪だな、なんて言っていたところ、さらに北上してきた。

「ああ、周りの深くなってきたな」

 雪が降るどころか気づけば景色は白が多くの部分を占めていた。
 気温もより下がってきて鼻息も凍りそうなぐらいに真っ白になって、息をするたびに体の中が冷えるようになってきた。

「くそッ……こんなことなるなんてな……」

 寒い地域にこなかったので今まで知らなかったことをリュードは一つ知った。
 それはツノがすごい冷えるということである。

 実はツノの感覚はかなり鈍くて、ちょっとだけ神経が通っている程度なのでツノそのものは寒さは感じないのだけど、ツノの付け根の頭が冷たくて痛くなる。
 そんなことになるだなんてリュード自身も知らないことだった。

 防寒具のフードをしっかりとかぶって根本が冷たくならないようになんとか対策する。
 最初こそみんなの距離もあったけれど、旅を続けていれば全く会話しないなんてこともできない。

 少しずつでも打ち解けつつありながら、グルーウィンの国境までたどり着いた。
 道沿いには検問が敷かれていたが、ここはプラチナランク冒険者の名声の高さが生きた。

 ウィドウのことは直接知らなくても、プラチナランクの冒険者が攻略不可ダンジョンを攻略しに来たと言うだけであっさりと通ることができた。
 リュードたちと違ってダリルたち聖職者に冒険者の身分なんてないが、ウィドウが攻略のために集めた聖職者だといえばそれで通れた。

 プラチナランクの世間における信頼というものである。

「えいっ!」

「おっと、おりゃ!」

 これまではまだ薄積りだった雪もグルーウィンに入る頃にはさらに深くなってきた。
 ずっとうずうずとしていたルフォンとラストは雪玉を作って投げて遊ぶ。

 リュードたちの村では雪は降らないし、ティアローザでは雪は降ることはあっても積もることはない。
 本格的な雪というのは初めてなのである。

 寒い季節の危険というのは魔物だけでなくやはり環境的なものも怖い。
 夜は早く、そして気温はさらに下がる。

 雪の上にテントを貼ったり焚き火を作るのではなく、雪を少し掘ったりする必要があるので準備にも普段より時間がかかる。
 なので早めに移動を切り上げて野営の準備をするのだ。

 今日は野営地に良さそうな場所が早めに見つかったのでかなり早めに野営の準備を進めた。
 となると暇な時間は増える。

「そりゃ!」

「ぶっ!」

「あっ…………」

 ラストが小さな雪玉を作ってルフォンの不意をついた。
 ニヒヒと笑うラストにルフォンは雪玉を作って投げ返すが、正面から投げられても当たってやるはずもない。

 始まると止まらない。
 途端に二人の間で雪合戦が始まり、ニャロもいつの間にか加わって3人でキャッキャッと雪で遊んでいた。

 周りのみんなも怒るでもなく微笑ましくその様子を見ていた。
 オンとオフの切り替えができて、代わり映えのしない景色の中でも楽しみを見つけて楽しむことができる。

 旅をする冒険者としては必要な才能だ。
 リュードも微笑ましくルフォンたちの姿を眺めていたのだけど、ラストの投げた雪玉がリュードの顔面に直撃した。

 タイミングが悪かった。
 ツノの根元が冷えてしょうがなかったのでリュードはお湯で温めたタオルをツノに巻いていて油断していたのだ。

 どこかで温かい帽子を買って穴を開けて使おうと考えていたのでちょうどルフォンたちから目を離していた。

「ラースートー?」

「あははぁ〜、ごめんごめん……って何おもむろに雪玉作って……」

「覚悟ー!」

「きゃー! ごめんってばぁ!」

「やっちゃえ〜!」

「やるにゃー!」

「みんなでやってたじゃん! 裏切り者ー!」

 リュード参戦。
 ラストを狙うリュードを後ろから狙うルフォンをさらにニャロが狙ったりする。

「青春……春というには季節は違うがな」

 ウィドウが白湯を飲みながら呟いた。
 良い緊張感の無さだと思う。

 ダンジョンまではまだまだ距離があるし、気を張りすぎても良いことなどない。
 それでいながらリュードたちも昼の移動の時は周りをよく見ているし、準備もテキパキしているのでこうして遊ぶ時間もあるのだ。

 体を動かすことでストレスの発散にもなる。
 一通り雪玉をぶつけ合ったリュードたちは今度はリュードの提案で雪だるまを作り始めたのだった。