「リューちゃん……」
暗く沈んだような顔をしているリュード。
気づけばルフォンがリュードの隣にいて手を握っていた。
初めてみるような顔にルフォンはいてもたってもいられなかった。
「私はどこも行かないよ? だから心配しないで大丈夫だよ」
「ルフォン……」
「聞かせてほしいな、リューちゃんの気持ち」
「…………俺はルフォンに付いてきてもらえれば嬉しい」
優しく囁くような声に抗うことができない。
押し留めていた本音がするりと表に出てしまう。
「ルフォンのことが好きだ」
「うん……私もリューちゃんが好き。でも、今言うのはズルイよ」
ルフォンは頬を赤らめてリュードの告白を受け入れる。
今ルフォンがどんな気持ちなのかは揺れる尻尾を見ればよく分かる。
「そうだな……ルフォンがいてくれると嬉しいしルフォンのことは好きだ。これが俺の本当の気持ち」
「……私もリューちゃんと一緒に行く。私も子供じゃないよ。リューちゃんに守ってもらうだけの存在じゃないの」
ルフォンは12歳の時に悟ったのだ。
子供部門で優勝したリュードとテユノが並んでいる姿を見て自分の中の胸の痛みに耐えられなかった。
ただお隣さんの幼馴染というだけではリュードの隣にいられないのだと知った。
自分がリュードの隣にいたいのだと強く望んでいることをルフォンは気づいたのだ。
そしてこのままではリュードがどこかに行ってしまうような気もしていたのである。
だから努力した。
リュードの隣にいられるように。
リュードが自分を認めて隣にいてもいいと言ってくれるように。
テユノと競い、メーリエッヒに師事をしてルフォンは自分を高めてきたのである。
全部リュードと一緒にいるためだった。
勇気を出した告白を断られた時にはショックもあったけどリュードがルフォンをそうした対象として見ていないというわけじゃないことが分かって安心した部分もあった。
ただリュードはどこかに旅立とうとしている。
まだリュードと共にいてもいいと思ってくれるほど力を見せつけられていないのだと思ったルフォンは力比べでこれまでにないほど決死の戦いを見せたのだ。
「……俺から言わないと卑怯かな」
もう同じことなのだけど言わなきゃ男がすたる気がした。
「俺と一緒に来てくれるか?」
「……うん!」
顔を真っ赤にしても手は握ったまま。
ルフォンに握られた手から温かさが入り込んでくるようで、ルフォンに気持ちを伝えるたびに胸の奥の不安が消えていくようで、ルフォンの笑顔を見るたびに心が軽くなるようで。
「ありがとう」
「リューちゃんも私を守るとか考えすぎないで私に頼ってほしいな」
「そうだな……」
“自分を許せる時がきっと来る”
そんな言葉をふと思い出した。
前世からの意識があって1人でも生きていけるようにと努力をしてきた。
ルフォンや両親にすらどこか壁を作っていたのかもしれない。
「ルフォン…………」
「リューちゃ……へうぅ……!」
「ありがとう」
握られた手を外してルフォンの体に手を回して抱きしめる。
ルフォンはリュードのいきなりの行動に頭がついていかなくて背筋を伸ばした硬直している。
驚きで尻尾がボボボと大きくなった。
ほどなくして体から力が抜け落ちて尻尾が激しく振られる音だけが部屋に響く。
時間にしたら数秒もないけどギュッと抱きしめた。
「ありがとな、ルフォン」
何度も感謝の言葉を口にする。
ここ最近ないほどに心が軽くなっていくのを感じる。
「そのまま座っててくれるか」
「はい」
トマトのように顔を真っ赤にして背筋をピンと伸ばしたままルフォンはリュードの顔を見れずに視線を泳がせている。
リュードはルフォンの後ろに回るとポケットから部屋に戻った時に取ってきた箱を取り出して中のものを取り出す。
「ひょわぁ……」
手が前に回ってきて今度は後ろから抱きしめられると思ったのか奇妙な声を上げるルフォン。
けれどそうではなくリュードの手はすぐに首裏に戻ってくる。
「はい、終わり」
「これって……」
ルフォンが視線を下げると青い石が目に入る。
そっと手に取ってみるとそれは首の方にチェーンがつながっている。いわゆるネックレスというやつだ。
リュードの持ってきた箱の中身はネックレスだった。
これは本来ルフォンの誕生日にあげるつもりだったもの。
告白を断ってしまったので誕生日プレゼントをあげる機会を失ってしまった。
その後も一時期疎遠になったのであげられないまま部屋に置いたままだった。
今も本当は説得してリュード1人で旅に出るつもりで、お別れなら渡しておこうと思って持ってきていた。
魔人化しても切れないように長めで丈夫なチェーンの先に小指の爪ほどの大きさの青い石が付いている。
魔力に親和性が高くてなおかつ美しいブルームーンと呼ばれる宝石にも似た美しい石。
去年の力比べ優勝賞品としてこっそり希望してしたブルームーンを加工してもらったもので、リュードが練習を重ねて会得したいくつか付与魔法をかけてある。
売ろうと思えば結構な値段になること間違いなしの一品だと自負がある。
「ルフォンの誕生日に渡すつもりだったんだけど……機会を逃しちゃったから」
「嬉しい……ちゃんと用意しててくれたんだ」
「もちろんだろ。しかもただのネックレスじゃないんだ。
俺が付与魔法でいくつか効果を付けてある。解毒、防御、追跡の3つ」
宝石ではないが青く透けて見えるようなブルームーンをルフォンは指でつまんで光に晒して覗き込む。
説明を聞いているのか怪しいものだけど大きく期待されても困る。
だからそんな効果があるんだぐらいがちょうどいいだろうとリュードは笑う。
解毒は体内に入った毒を浄化してくれる。
毒の完全無効化も上達すればできるはずだけどリュードの技量はそこまで達してしていない。
なので毒の浄化が精々で浄化にも数分かかってしまうものではあるが着けているだけで毒を解毒してくれる。
竜人族なら毒は毒に強くて抵抗力が高い。
一方で人狼族には毒に対する抵抗力がないので効いてしまうために付けた。
体の能力そのものは高いので人狼族が持てば毒の浄化も早い。
防御は文字通りの防御効果がある。
最初に練習していたもので持ち主の魔力を得て全身に弱いながら防御の魔法を展開してくれる。
これも上達すれば守りも強くなるけど付与魔法とやら、意外と難しいのだ。
その上リュードの防御付与では打撃系に少し効果があるだけで斬撃にはほぼ効果がなかった。
ほんとに気持ち軽減してくれる程度のものなのだ。
今の時代では先生もおらず、付与魔法できるだけすごいようなので短い期間でやったにしてはできた方だと思うことにした。
そして追跡。追跡というと大袈裟であるがネックレスの場所を探せるようにする機能だ。
対となるヒモのついた石を用意して対応した付与魔法を付与してある。
こちらの石に魔力を込めるとネックレスの方に反応して引っ張られるという魔法である。
元々の目的はちょっと抜けたところのあるルフォンがネックレスを失くしてもいいようにと思って付与したのだけど旅に出るなら案外使うこともあるかもしれない。
反応する距離は魔力に応じるらしくて家中なら少しでも反応したけど村の逆に置いて試した時にはそこそこ魔力が必要だった。
ルフォンの魔力コントロールなら家中ぐらいが限界だろう。
リュードなら相当離れても大体の方向は察知出来る。
あんまり強いとは言えない、逆に強くないからこそ3つの効果を1つのネックレスに付与することができた。
「リューちゃん」
「んっ?」
「大好き!」
眩しいほどの笑顔。
なんだかんだとルフォンの望み通りになってしまった。
リュードはルフォンと旅に出る。
これからの旅が辛いものになるとしてもルフォンだけは守り抜くとリュードは心の中で誓った。
「ああ、俺も好きだよ」
素直にそう言えて、やっとリュードは回帰する前の自分からシューナリュードというこの世界に生きる人になれた気がした。
暗く沈んだような顔をしているリュード。
気づけばルフォンがリュードの隣にいて手を握っていた。
初めてみるような顔にルフォンはいてもたってもいられなかった。
「私はどこも行かないよ? だから心配しないで大丈夫だよ」
「ルフォン……」
「聞かせてほしいな、リューちゃんの気持ち」
「…………俺はルフォンに付いてきてもらえれば嬉しい」
優しく囁くような声に抗うことができない。
押し留めていた本音がするりと表に出てしまう。
「ルフォンのことが好きだ」
「うん……私もリューちゃんが好き。でも、今言うのはズルイよ」
ルフォンは頬を赤らめてリュードの告白を受け入れる。
今ルフォンがどんな気持ちなのかは揺れる尻尾を見ればよく分かる。
「そうだな……ルフォンがいてくれると嬉しいしルフォンのことは好きだ。これが俺の本当の気持ち」
「……私もリューちゃんと一緒に行く。私も子供じゃないよ。リューちゃんに守ってもらうだけの存在じゃないの」
ルフォンは12歳の時に悟ったのだ。
子供部門で優勝したリュードとテユノが並んでいる姿を見て自分の中の胸の痛みに耐えられなかった。
ただお隣さんの幼馴染というだけではリュードの隣にいられないのだと知った。
自分がリュードの隣にいたいのだと強く望んでいることをルフォンは気づいたのだ。
そしてこのままではリュードがどこかに行ってしまうような気もしていたのである。
だから努力した。
リュードの隣にいられるように。
リュードが自分を認めて隣にいてもいいと言ってくれるように。
テユノと競い、メーリエッヒに師事をしてルフォンは自分を高めてきたのである。
全部リュードと一緒にいるためだった。
勇気を出した告白を断られた時にはショックもあったけどリュードがルフォンをそうした対象として見ていないというわけじゃないことが分かって安心した部分もあった。
ただリュードはどこかに旅立とうとしている。
まだリュードと共にいてもいいと思ってくれるほど力を見せつけられていないのだと思ったルフォンは力比べでこれまでにないほど決死の戦いを見せたのだ。
「……俺から言わないと卑怯かな」
もう同じことなのだけど言わなきゃ男がすたる気がした。
「俺と一緒に来てくれるか?」
「……うん!」
顔を真っ赤にしても手は握ったまま。
ルフォンに握られた手から温かさが入り込んでくるようで、ルフォンに気持ちを伝えるたびに胸の奥の不安が消えていくようで、ルフォンの笑顔を見るたびに心が軽くなるようで。
「ありがとう」
「リューちゃんも私を守るとか考えすぎないで私に頼ってほしいな」
「そうだな……」
“自分を許せる時がきっと来る”
そんな言葉をふと思い出した。
前世からの意識があって1人でも生きていけるようにと努力をしてきた。
ルフォンや両親にすらどこか壁を作っていたのかもしれない。
「ルフォン…………」
「リューちゃ……へうぅ……!」
「ありがとう」
握られた手を外してルフォンの体に手を回して抱きしめる。
ルフォンはリュードのいきなりの行動に頭がついていかなくて背筋を伸ばした硬直している。
驚きで尻尾がボボボと大きくなった。
ほどなくして体から力が抜け落ちて尻尾が激しく振られる音だけが部屋に響く。
時間にしたら数秒もないけどギュッと抱きしめた。
「ありがとな、ルフォン」
何度も感謝の言葉を口にする。
ここ最近ないほどに心が軽くなっていくのを感じる。
「そのまま座っててくれるか」
「はい」
トマトのように顔を真っ赤にして背筋をピンと伸ばしたままルフォンはリュードの顔を見れずに視線を泳がせている。
リュードはルフォンの後ろに回るとポケットから部屋に戻った時に取ってきた箱を取り出して中のものを取り出す。
「ひょわぁ……」
手が前に回ってきて今度は後ろから抱きしめられると思ったのか奇妙な声を上げるルフォン。
けれどそうではなくリュードの手はすぐに首裏に戻ってくる。
「はい、終わり」
「これって……」
ルフォンが視線を下げると青い石が目に入る。
そっと手に取ってみるとそれは首の方にチェーンがつながっている。いわゆるネックレスというやつだ。
リュードの持ってきた箱の中身はネックレスだった。
これは本来ルフォンの誕生日にあげるつもりだったもの。
告白を断ってしまったので誕生日プレゼントをあげる機会を失ってしまった。
その後も一時期疎遠になったのであげられないまま部屋に置いたままだった。
今も本当は説得してリュード1人で旅に出るつもりで、お別れなら渡しておこうと思って持ってきていた。
魔人化しても切れないように長めで丈夫なチェーンの先に小指の爪ほどの大きさの青い石が付いている。
魔力に親和性が高くてなおかつ美しいブルームーンと呼ばれる宝石にも似た美しい石。
去年の力比べ優勝賞品としてこっそり希望してしたブルームーンを加工してもらったもので、リュードが練習を重ねて会得したいくつか付与魔法をかけてある。
売ろうと思えば結構な値段になること間違いなしの一品だと自負がある。
「ルフォンの誕生日に渡すつもりだったんだけど……機会を逃しちゃったから」
「嬉しい……ちゃんと用意しててくれたんだ」
「もちろんだろ。しかもただのネックレスじゃないんだ。
俺が付与魔法でいくつか効果を付けてある。解毒、防御、追跡の3つ」
宝石ではないが青く透けて見えるようなブルームーンをルフォンは指でつまんで光に晒して覗き込む。
説明を聞いているのか怪しいものだけど大きく期待されても困る。
だからそんな効果があるんだぐらいがちょうどいいだろうとリュードは笑う。
解毒は体内に入った毒を浄化してくれる。
毒の完全無効化も上達すればできるはずだけどリュードの技量はそこまで達してしていない。
なので毒の浄化が精々で浄化にも数分かかってしまうものではあるが着けているだけで毒を解毒してくれる。
竜人族なら毒は毒に強くて抵抗力が高い。
一方で人狼族には毒に対する抵抗力がないので効いてしまうために付けた。
体の能力そのものは高いので人狼族が持てば毒の浄化も早い。
防御は文字通りの防御効果がある。
最初に練習していたもので持ち主の魔力を得て全身に弱いながら防御の魔法を展開してくれる。
これも上達すれば守りも強くなるけど付与魔法とやら、意外と難しいのだ。
その上リュードの防御付与では打撃系に少し効果があるだけで斬撃にはほぼ効果がなかった。
ほんとに気持ち軽減してくれる程度のものなのだ。
今の時代では先生もおらず、付与魔法できるだけすごいようなので短い期間でやったにしてはできた方だと思うことにした。
そして追跡。追跡というと大袈裟であるがネックレスの場所を探せるようにする機能だ。
対となるヒモのついた石を用意して対応した付与魔法を付与してある。
こちらの石に魔力を込めるとネックレスの方に反応して引っ張られるという魔法である。
元々の目的はちょっと抜けたところのあるルフォンがネックレスを失くしてもいいようにと思って付与したのだけど旅に出るなら案外使うこともあるかもしれない。
反応する距離は魔力に応じるらしくて家中なら少しでも反応したけど村の逆に置いて試した時にはそこそこ魔力が必要だった。
ルフォンの魔力コントロールなら家中ぐらいが限界だろう。
リュードなら相当離れても大体の方向は察知出来る。
あんまり強いとは言えない、逆に強くないからこそ3つの効果を1つのネックレスに付与することができた。
「リューちゃん」
「んっ?」
「大好き!」
眩しいほどの笑顔。
なんだかんだとルフォンの望み通りになってしまった。
リュードはルフォンと旅に出る。
これからの旅が辛いものになるとしてもルフォンだけは守り抜くとリュードは心の中で誓った。
「ああ、俺も好きだよ」
素直にそう言えて、やっとリュードは回帰する前の自分からシューナリュードというこの世界に生きる人になれた気がした。