「キラービーのお嬢ちゃんか……お前さんも飲むかい?」

「いいの?」

「ああ、なんならお前さんのことも知りたいからな」

 並々と注がれたお酒から桃のような香りがしている。
 飲む前からわかる。

 これは危険なお酒だ。
 そしてハチにお酒飲ませて大丈夫なのか不安であったけれど、考えがまとまる前にドゥルビョがリュードのジョッキに自分のジョッキを当てて打ち鳴らす。

「それでは乾杯だ!」

 始まってしまった以上はしょうがない。
 リュードはドゥルビョに合わせて一気にお酒を流し込む。

 ふくよかな甘い香りとクドすぎない甘味が飲んだ瞬間から口の中に広がる。
 ジュースを飲んでいるかのようだけど、甘味が去るとそこに強いお酒の余韻も残って喉が熱くなる。

 甘味が強くジュースみたいなのにアルコール度数が高い。
 これはただの果実酒ではなく、ドワーフの果実酒だ。

 甘いだけで終わるはずがないのである。
 
「おいし〜い!」

 頬に手を当てて目を輝かせるハチは笑顔を浮かべる。

「ほら、リュードも……お前さんも飲むといい」

 ドゥルビョは早速空になったジョッキに追加のお酒を注ぐ。
 気づけば周りにドワーフたちが集まり始めている。

 ハチがいるせいなのかいつもよりもだいぶ遠巻きではあるものの、ハチに対する好奇心とお酒を飲めるチャンスだということには勝てないようだ。

「うふふ、美味しい」
 
 ハチはお酒はダメじゃないみたいで、しかも甘い果実のようなものが好きなので果実酒をかなり気に入っている。
 リュードとドゥルビョは酒飲み対決なのでハイペースで飲んでいくが、そんなこと関係ないハチは独自のペースでお酒を飲んでいく。

 ただそれでもハチもかなりのハイペースで飲んでいる。
 ドゥルビョも強いと豪語するだけあって全くペースを落とさずに酒を飲む。

 瞬く間にタルの中のお酒は減っていき、一つのタルがあっという間に空になる。

「ふふっ、強いなリュード。これだけで潰れてしまう者もいるのにな」

「美味しいのでいくらでも飲めますよ」

 リュードもドゥルビョも顔が赤くなり始めている。
 強気に返してみたものの初めて酔い潰されてしまうのではないかとリュードも頭のどこかで考えていた。

 ドゥルビョは二つ目のタル目を開ける。
 今度は一つ目のタルと違ってさわかな香りがしている

「柑橘系の香り?」

「これはまた違ったものだ」
 
 ジョッキに並々とお酒が注がれる。
 先ほどのお酒と違ってやや黄色がかった色をしている。

 飲んでみるとミカンのような甘味とほんのりと苦味があり、鼻をゆずのような香りが抜けて行く。
 桃もミカンもどちらの果実酒にしても飲みやすさはこれまで飲んだどんなお酒よりも飲みやすい。

 ただし喉に残る熱さは他のお酒にも引けを取らず、飲みやすいが故に危険なお酒なのである。

「うーん、コレもいいね!」

 体がゆらゆらと揺れ始めているハチもまだ飲むつもりのようだ。
 遠巻きに見ていたドワーフたちもリュードとドゥルビョの激戦を見て近づいてきていた。
 
 リュードとドゥルビョどっちが勝つかなんて賭けやハチが最後で保つかなんてことも賭けになったりしていた。
 ドワーフから見てもハチのペースは早くてかなりお酒に強かった。

「よっ……ととっと」

 二つ目のタルも飲み干した。
 ドゥルビョは三つ目のタルを下ろそうとするが、足元がおぼつかない。

 だいぶドゥルビョの方も酔いが回っているようだ。

「手伝いますよ」

 リュードも手伝ってタルを下ろす
 三つ目のタルはリンゴのようなスッキリとした香りのするワインのようなお酒だった。

 どれも甘味が強くて甘さに弱くなければその分飲みやすいお酒ばかりだった。

「うんうん、コレも……さいこぉー。うへへっ、飲めやー」

 目がとろんとしているハチはすでにふらつくリュードとドゥルビョの代わりにいつの間にかお酒を注ぐ係をやってくれていた。
 ハチも危険水準に達しているが思いの外お酒に強くて潰れるまでいっていない。

 リュードとドゥルビョの早いペースに当てられて早いペースになってしまっていた周りのドワーフたちはもうかなり酔いが回って潰れている。

「コポォ……ふん、強いじゃ…………ねえか」

 ドゥルビョは並々と注がれた果実酒を半分閉じた目で見ている。
 リュードとドゥルビョは一気に飲み干そうと天を仰ぐように口に酒を流し込んだ。

 リュードが先に飲み終えてコップから口を離した。
 まだ飲み終わらないドゥルビョ。

「ん……ぐ……ぶふっ!」

 次の瞬間、ドゥルビョの鼻からお酒が噴き出した。
 口いっぱいに流し込んだお酒が喉に流れていかなかった。

 ただドワーフの意地で酒を吐き出す真似はしない。
 鼻から流れてしまう分には自分の意思じゃ止められないのでしょうがないが、口から戻しはしない飲み込もうと頑張る。

 それでもコップの中に半分ほど残ったお酒からリュードに視線を向けてドゥルビョはニカッと笑った。

「お前さんの勝ち……だ」
 
 ゆっくりと後ろに倒れて、ドゥルビョは酒に潰れた。
 ドゥルビョは清々しい笑顔を浮かべて大いびきをかき始めた

「かっ……た」

 辛勝。
 決してリュードにも余裕のある勝利ではなかった。

 空のコップを放り投げてリュードも道の真ん中に大の字になる。

「だいひょーぶ?」

 鼻を押さえたルフォンがリュードを覗き込む。
 お酒の匂いが強すぎて匂いだけで酔ってしまう。

 お酒にあまり強くないルフォンは口呼吸でも若干クラクラする思いがしていた。

「ああ、でも……少し寝るよ」

 リュードも限界だった。
 宿は目の前なのに戻る元気すらないほどに酒が回っていてリュードは重たいまぶたをそのまま閉じた。

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