「付いていく云々はお主たちの話だ、後でなさい。旅に出ることについてだが、その希望は叶えられん」

「……どうしてですか!」

 予想外の答えに食いついたのはルフォンの方だった。
 リュードも驚いたけど村長が理由もなく拒否をするとも思えず次の言葉を待つ。

「そもそもこの村は同族であらば来る者を拒むこと無く大きく発展してきた。その中にはここのことを聞きつけ移住してきた者もいれば旅の者、さらには出戻りまでいる」

 確かにこの村は人が増え続ける珍しい村となっている。
 最初は他と同じく少数の規模の小さい村であったが人狼族と一緒になり、いつしか噂が噂を呼んで世界中に散らばる竜人族と人狼族がちらほらと集まって村が大きくなっていっている。

 それぞれの種族全体の総人数がどれほどいるのかわからないけど今村にいる竜人族、人狼族の数だけをそれぞれみても最大規模の村だとリュードはみている。

「この村は自由だ。来る者も、あるいは出て行く者も。ならばどうして出て行くことに許可なぞ必要あると思う」

「へっ?」

「えっ?」

「好きに行くと良いというのだ。……ただしせめて16の年を迎えてからにしなさい。だから優勝の賞品は別のものにしなさい」

 これはリュードのミスだった。
 村を出るには村長の許可が必要だと、勝手に思い込んでいた。

 そう言われてみれば自由に村に出入りしている放浪の冒険者もいる。
 一応まだ成人していないこともあるのでちゃんとした許可が必要だと思っていたけどそんなもの必要なかったのである。

 今考えてみれば旅に出るのに村長の許可が必要なんてどうして考えていたのか。
 思い込みとは恐ろしいものである。

 村長に認めてもらい、許可をもらうために力比べで全力で頑張った。
 実力はついたし無駄ではなかったとはいえそこまで必死になることもなかったのだ。

「ははっ……」

「リューちゃん?」

 張り詰めていたものが切れた。
 気負っていたつもりなんてなかったのに、やはり心のどこかで重責になっていた。
 
 思い込んでそれに気づけないほど視野は狭くなっていた。
 リュードは笑いが止まらない。久々に大笑いした。

 気負いすぎていた自分、許可が入らないことに気づかなかった自分、そして今は一緒に行くとルフォンが主張してくれて一緒に来てくれるかもしれないことになんだかんだ安心している自分が何だか可笑しくて。

「…………落ち着いたか?」

「はい」

 そんなに長くはないけど声を出して笑ったリュードは涙を拭いて、引いたりすることなく優しい目をして待っていてくれた村長を再び見据える。

「旅立とうとする若者を応援するのは当然のことだ。お金については私からいくらか用意しよう。だからシューナリュードもルフォンも希望を今一度考えてくると良い」

「「はい」」

 ゆっくり大きくうなずく村長にリュードはこの人こそ村長として上に立つのがふさわしいと思い知らされた。
 自分だったらドン引きしていただろうし顔に出ていただろうとリュードは思う。

「ではメーリエッヒだが……」

 ーーーーー

「さてと……リュー、座りなさい」

 ある意味許可を貰ったも同じ。
 しかしせっかくの晴れやかな気分も短いもので家に帰ってすぐさま家族会議となった。

 当然議題はリュードの旅立ちについて。
 というかリュードについてこうとしているルフォンについてであった。

「お母さんは悲しいわ、こんな大事なことお母さんに内緒だなんて」

 ハンカチを目に当ててヨヨヨと泣いてるよう見せるメーリエッヒ。
 知っていたくせになんて突っ込んだところで無駄なので特に触れはしないでおく。

 ヴェルデガーはメーリエッヒの隣で考え込むように目をつぶっている。

「それにルフォンちゃんまで巻き込んで……」

 それに関して巻き込んだのはそっちだろと言いたい。
 ルフォン自身の考えなのかもしれないけれどいくらか焚き付けたり、誘導した側面はあるはずだとリュードは思っていた。

「まずはお前からだ、リュー。旅に出るつもりなのか?」

 メーリエッヒの茶番を無視して切り出したのはヴェルデガー。
 その顔、その目からヴェルデガーの感情は読み取れないが怒っているようには見えない。

「うん」

「旅をするというのは楽なことじゃないぞ」

「分かってる。それでも世界を見てみたいんだ」

「俺も旅をしていた身だから反対なんてしない。できるわけもない。どこかに腰を落ち着けるのもいいが、時折また旅に出たいと思うような時もある」

 リュードは真っ直ぐにヴェルデガーの目を見返して大きくうなずいた。
 いつの間にこんなに息子が大きくなったのか。
 
 まだまだ子供だと思っていたのに村長に肉薄してみせるほどの力をつけ、しっかりと自分の意思と目標を持っている。
 少し前にヴェルデガーはルフォンの相談を受けたルーミオラからメーリエッヒが話を聞いているのを聞いてしまった。

 息子から何の相談もなかったことにショックを受けたのだが自分の時も飛び出すように旅に出たことを思い出した。
 自分の時も最終的には反対はされなかったけど反対されることへの不安や両親に相談することの気恥ずかしさはあった。
 
 ヴェルデガーの聞くところによるとちょっとした勘違いもありそうだ。
 リュードのことだから黙って旅に出るのではなくちゃんと許可をもらってから相談しようとしたのかもしれない。
 
 それになんだかメーリエッヒとルーミオラで何か話が進んでいるので成り行きを見守ることにもしたのだった。

「……私だって反対なんてしないわよ。私の師匠も言っていたわ。いつか男の子は旅に出て大変な経験をして大きく成長して、ハーレムを作るものだって」

 最後がおかしいぞとリュードは思う。
 最終的にハーレムを作ることが目的になっている。

 少しピリッとした雰囲気で始まった家族会議だったけれどヴェルデガーもメーリエッヒも顔は穏やかでどこまでも優しく、愛しみに満ちた目をしている。
 引き止められるのも辛いけどこんな風に優しくされるとまた両親から離れ難くもなる。