キラービーを倒したのはラストの矢である。
 それはキラービーの傷跡を見れば一目瞭然であり、リュードたちに他に弓矢を扱う人はいない。

 これまでコツコツとこなした依頼のいくつかはラストのランクからすると少し上のもので、リュードたちにも問題なくついていけていることが証明された。
 もちろんリュードたちが全てをやってラストはただついていっているだけの可能性もある。

 そうして冒険者ランクを上げようとする輩は少なからずいる。
 しかしそうして冒険者ランクを上げて困るのは後々の本人の方である。

 身の丈に合わない依頼を受ければ失敗したり、下手すると命を落とすことになる。
 多少の不正が疑われても責任を取ることになるのは不正をした側なので、ギルドとしてはあまり細かくも気にしない。

 ラストはキラービーを倒すだけの実力も備えている。
 少なくともただの駆け出しレベルはとうに超えている。

「やった!」

「おめでとー!」

「ありがとー!」

 キラービーの死体を納品してウメハトの仲間探しの依頼を完了したことで、ラストのランクはアイアン+まで一気に上がった。
 もう少し依頼の数をこなせばブロンズ−まで上げられるだろうけれど、タイムリミットを迎えてしまった。

 冒険者ギルドに依頼していたドワーフの件でリュードたちは呼び出されていた。
 そこでランクアップした冒険者証を渡されたラストはルフォンと喜び合っている。

「そしてご依頼の件ですが」
 
 ドワーフの依頼に対しての申込みは殺到した。
 驚くほど冒険者から問い合わせがあって冒険者ギルドも大変であった。
 
 その中から冒険者をある程度絞り込み、リュードたちに希望を聞いてさらに精査した。
 基本的に冒険者の良し悪しなどリュードたちに聞かれても分からないので冒険者ギルドに任せることにした。
 
 どちらかといえば人柄重視でドワーフが嫌がるようなことはしなくて他種族を嫌うドワーフの失礼があっても怒らなそうな温厚な人を希望した。
 そして選ばれた冒険者たちが集まったので顔合わせとなったのだ。

「すでに中でお待ちです」

「依頼主としての威厳が大切だな」

「別にそんなものなくても……」

「ドワーフの代表として舐められるわけにはいかないからな!」

 ちなみにドワーフのデルデが来ている話も広まってしまい、武器を作ってほしいと冒険者ギルドにも人が殺到してきている。
 冒険者ギルドはドワーフの件だけでなくキラービーの異常行動についての調査も取り行っている。
 
 抱える仕事が多く慌ただしかっただろうなとリュードは同情した。
 
「お待たせしました」

 デルデに頭を下げたギルド員はやつれた顔をしていた。
 選ばれた冒険者は五つのパーティー、計二十七名。

 一番上がゴールドで下が最低でもシルバーと、下でもリュードたちよりランクが上の冒険者たちが集まった。
 冒険者たちは部屋に入ってきたデルデを見て依頼が本当だったのかと確信して、続いて入ってきたリュードたちを見て眉をひそめた。
 
 なぜあのような若い者が依頼主のドワーフと共にいるのか理由が分からなかったのである。
 リュードたちはデルデの個人的な護衛兼冒険者ギルドとの橋渡し役だと説明され、一応の納得は得られた。
 
 全員が全員納得したわけではないが、リュードたちに文句を言ったところで何が変わるものでもない。
 ここで変に出しゃばって依頼主にマイナスなイメージを持たれても困るので、特にリュードたちに触れることはなかった。
 
 事前に温厚な人を言っておいたからそうした性格の人が多かったのも良かったのかもしれない。

「それでは改めて依頼について説明します」

 冒険者ギルドの職員から今一度依頼の内容や依頼の報酬となる権利についての説明がなされる。
 目標としてはリュードたちが取り戻した鉱山を除く五つの鉱山に棲みついた魔物を討伐して取り戻すこととなる。

「本当にドワーフ製の武器を購入できるんですよね? 上手くいけば作ってまでもらえるということですが」

 質問はありますかと言われて一人の男性冒険者が手を挙げた。
 ややタレ目の明るい赤毛の男性で優しそうな顔の印象を受ける。

 説明はあったがドワーフの口から直接本当か聞きたい。
 男性冒険者はデルデの方を見て質問を口にしていた。

「お前さんらが手に入れるのはドワガルで売っている武器を買う権利だ。それがドワーフが作ったものか、あるいは買えるかはお前さんら次第。作る方も同様にお前さんらが活躍するか次第だ。だがドワガルで売っている武器はほとんどがドワーフ製だからお前さんらがあえてドワーフが作ったもの以外を選ばん限り買えるだろう」

「そうですか、ありがとうございます」

 ぶっきらぼうな言い方だけどむしろそうだからこそウソじゃないと分かる。
 依頼を成功させればドワーフの武器が買えるのはほぼ確実だと言っていい。

「お前さんが頑張ればタダで武器も作ってもらえるぞ。自信がないなら大人しくしておくんだな」

「はは、是非とも作っていただけるように努力しますよ」

「ふん、殊勝な心掛け、結構」

 軽い顔合わせと自己紹介を受けてこの日は解散となった。
 二日後準備を済ませてリュードたちと依頼を受けた冒険者たちはドワガルに向けて出発することとなったのだった。