「リューちゃん!」
仕方なく教会のど真ん中で治療が始まった。
他の神官が気を利かせて祈りに来ていた人を帰してくれた。
これぐらいのことで怒り出すクレーマーは教会になんて通いはしないのである。
全く気の抜けない状況が続いてリュードも固唾を飲んで見守っていた。
そこにルフォンたちが来た。
町で走り回るリュードの姿が噂になっていたので簡単に見つけることができてしまった。
「三人とも悪いな。問題はなかったか?」
「大丈夫だよ。男の人は、どう?」
「今…………終わったみたいだな」
滝のような汗を流すドゥラックの手のひらの上には玉状になったドス黒い毒の塊が浮いている。
横に控えていた神官がサッと金属のトレーを差し出すとドゥラックはそこに毒を落とす。
神聖力で毒を吸い出し、体に残るわずかな毒は浄化した。
傷周りの黒ずみがなくなって男の呼吸が少しだけ落ち着く。
あとはダリルが神聖力で傷口とダメージを負った体の治療をしていく。
段々と顔の血色も戻ってきて、浅かった呼吸が深くなってリュードたちでももう峠を越えたことが分かった。
「ひぃ……ふぅ」
ドゥラックは神官から受け取ったタオルで汗を拭きながらその場に座り込む。
「ふーーー!」
大きな息を吐き出してダリルもグッと腰を伸ばした。
男の顔色はだいぶ良くなった。
脇腹の傷はすっかり治って、穏やかな寝息を立てている。
「お疲れ様です。流石ですね、ドゥラック」
「いやいや、ダリルさんの補助がなければ私一人では不可能でした。使徒の神聖力こそ流石ですね」
「毒を吸い出すコントロールがあると分かっているから私も集中出来たのです。少しお休みください」
「悪いね。もうちょっと若い頃はこれぐらい平気だったのにな。少し運動不足かな」
「ご自分の体もお大事にしてくださいよ?」
「分かっていますよ。連れてきた人たちは君の知り合いかい? 任せても大丈夫ですかな?」
「はい。君たちはこの人を運ぶんだ」
ドゥラックも教会の奥に引っ込み、治療を終えた男も神官たちに丁寧に運ばれていった。
「リュードさん、あの方は峠は越えた。まだ様子見は必要だろうけれど命に別状はないでしょう」
「助かりました」
「ドゥラックがいるこの教会に運んできたのは良い判断でした。あいつはこうしたことが上手いんだ」
「知り合いなのですか?」
「昔少しな」
多分他の教会だったら助かっていなかったのではないかとダリルは思う。
ドゥラックはあまり強い神聖力を持ってはいないが、細かなコントロールが上手くて解毒などの治療を得意としていた。
毒の吸い出しも上手で、昔ダリルも神聖力のコントロールを習ったこともあった。
今では使徒であるダリルの方が立場が上なので呼び捨てにはしているが、敬意を払うべき聖職者だとダリルはドゥラックのことを思っている。
ドゥラックのいるここに運ばれてきたのは偶然だろうが神の導きと言える幸運であった。
「しかし……一体何があったんだ?」
「俺たちにも何が何だか……」
たまたま見つけて、急いで連れてきた。
それ以外に言えることなど何もない。
何が起きたのかは本人しか知らず、意識を取り戻すのを待つしかないのだ。
「冒険者のようなのでこちらから冒険者ギルドには連絡を入れておく。もしかしたら調査なんかで話を聞かれることがあるかもしれない」
「分かった。今日は本当にありがとう。使徒ってすごいんだな」
「ふふっ、ありがとう。しかし治療に関しては聖者の方が得意分野だ。私自身も治療は得意な方ではないしな」
「それでもさ」
「褒め上手だな。とりあえず男のことはこちらに任せるといい」
「ああ、俺たちも失礼するよ」
知り合いでも何でもないのだから男に付き添うこともしない。
例えば家族とか友人とかの連絡先も知らないので伝えるなど出来ることもない。
そこら辺は教会が冒険者ギルドに伝えて冒険者ギルド側で何とかしてくれるだろう。
もう森に戻ってオークを倒しに行くには遅い時間になってしまった。
なので今日のところはコボルト討伐だけを冒険者ギルドに報告して終えることにした。
男にどんなことがあってあのようになったのかは気になるけれど、魔物が近くにいる環境においては事故はつきものだ。
町中にいたって安全だと言い切ることなどできない世の中でどんなことがあっても不思議ではない。
つまり予想するだけ時間の無駄。
男の命に別状がないのなら回復を待って話を聞いた方がはるかに建設的なやり方である。
ただあんな状態になるなんてこと普通じゃない。
胸の奥にざわつきを覚える、わずかな不安な頭をチラつくリュードであった。
仕方なく教会のど真ん中で治療が始まった。
他の神官が気を利かせて祈りに来ていた人を帰してくれた。
これぐらいのことで怒り出すクレーマーは教会になんて通いはしないのである。
全く気の抜けない状況が続いてリュードも固唾を飲んで見守っていた。
そこにルフォンたちが来た。
町で走り回るリュードの姿が噂になっていたので簡単に見つけることができてしまった。
「三人とも悪いな。問題はなかったか?」
「大丈夫だよ。男の人は、どう?」
「今…………終わったみたいだな」
滝のような汗を流すドゥラックの手のひらの上には玉状になったドス黒い毒の塊が浮いている。
横に控えていた神官がサッと金属のトレーを差し出すとドゥラックはそこに毒を落とす。
神聖力で毒を吸い出し、体に残るわずかな毒は浄化した。
傷周りの黒ずみがなくなって男の呼吸が少しだけ落ち着く。
あとはダリルが神聖力で傷口とダメージを負った体の治療をしていく。
段々と顔の血色も戻ってきて、浅かった呼吸が深くなってリュードたちでももう峠を越えたことが分かった。
「ひぃ……ふぅ」
ドゥラックは神官から受け取ったタオルで汗を拭きながらその場に座り込む。
「ふーーー!」
大きな息を吐き出してダリルもグッと腰を伸ばした。
男の顔色はだいぶ良くなった。
脇腹の傷はすっかり治って、穏やかな寝息を立てている。
「お疲れ様です。流石ですね、ドゥラック」
「いやいや、ダリルさんの補助がなければ私一人では不可能でした。使徒の神聖力こそ流石ですね」
「毒を吸い出すコントロールがあると分かっているから私も集中出来たのです。少しお休みください」
「悪いね。もうちょっと若い頃はこれぐらい平気だったのにな。少し運動不足かな」
「ご自分の体もお大事にしてくださいよ?」
「分かっていますよ。連れてきた人たちは君の知り合いかい? 任せても大丈夫ですかな?」
「はい。君たちはこの人を運ぶんだ」
ドゥラックも教会の奥に引っ込み、治療を終えた男も神官たちに丁寧に運ばれていった。
「リュードさん、あの方は峠は越えた。まだ様子見は必要だろうけれど命に別状はないでしょう」
「助かりました」
「ドゥラックがいるこの教会に運んできたのは良い判断でした。あいつはこうしたことが上手いんだ」
「知り合いなのですか?」
「昔少しな」
多分他の教会だったら助かっていなかったのではないかとダリルは思う。
ドゥラックはあまり強い神聖力を持ってはいないが、細かなコントロールが上手くて解毒などの治療を得意としていた。
毒の吸い出しも上手で、昔ダリルも神聖力のコントロールを習ったこともあった。
今では使徒であるダリルの方が立場が上なので呼び捨てにはしているが、敬意を払うべき聖職者だとダリルはドゥラックのことを思っている。
ドゥラックのいるここに運ばれてきたのは偶然だろうが神の導きと言える幸運であった。
「しかし……一体何があったんだ?」
「俺たちにも何が何だか……」
たまたま見つけて、急いで連れてきた。
それ以外に言えることなど何もない。
何が起きたのかは本人しか知らず、意識を取り戻すのを待つしかないのだ。
「冒険者のようなのでこちらから冒険者ギルドには連絡を入れておく。もしかしたら調査なんかで話を聞かれることがあるかもしれない」
「分かった。今日は本当にありがとう。使徒ってすごいんだな」
「ふふっ、ありがとう。しかし治療に関しては聖者の方が得意分野だ。私自身も治療は得意な方ではないしな」
「それでもさ」
「褒め上手だな。とりあえず男のことはこちらに任せるといい」
「ああ、俺たちも失礼するよ」
知り合いでも何でもないのだから男に付き添うこともしない。
例えば家族とか友人とかの連絡先も知らないので伝えるなど出来ることもない。
そこら辺は教会が冒険者ギルドに伝えて冒険者ギルド側で何とかしてくれるだろう。
もう森に戻ってオークを倒しに行くには遅い時間になってしまった。
なので今日のところはコボルト討伐だけを冒険者ギルドに報告して終えることにした。
男にどんなことがあってあのようになったのかは気になるけれど、魔物が近くにいる環境においては事故はつきものだ。
町中にいたって安全だと言い切ることなどできない世の中でどんなことがあっても不思議ではない。
つまり予想するだけ時間の無駄。
男の命に別状がないのなら回復を待って話を聞いた方がはるかに建設的なやり方である。
ただあんな状態になるなんてこと普通じゃない。
胸の奥にざわつきを覚える、わずかな不安な頭をチラつくリュードであった。


