「キレイ……」
紫色の宝石を削り、小さい花のような形にした装飾の髪留め。
酔い潰れて道に寝こけているドワーフを迎えにきた奥さんがお詫びがわりにとリュードにくれたものだった。
貰った時真っ先にルフォンのことを考えた。
邪魔になる程髪を伸ばしはしないが料理をする際に時折髪をかけ上げていたりする。
サッと止められるゴムの輪っかとかあればいいんだろうけどそんなものリュードは見たことがない。
武器は足りているし他に装飾品なんかもルフォンは付けないので料理をする時に少し髪を止めておくぐらいならどうだろうと思ったのだ。
「ここで渡すのは良い雰囲気とはいかないけど……ちゃんとルフォンのことも考えてるってこと、分かってほしくてな」
「リューちゃぁん……」
ルフォンはまだまだお子様だと自分のことをそう思わずにはいられない。
嫉妬してしまうこともそれを悟られるほど態度に出してしまうことも恥ずかしい。
分かっているのに嫉妬を思うことも抑えることもできていないなんて、第一夫人失格である。
リュードは立派な男だ。
ならば第一夫人となるべくルフォンも第一夫人としての品格を備えねばならない。
他の女性に負けないほど強く、そして負けないほどに強かな女性でなくてはならないのだ。
でも、今は素直に喜ぼう。
前髪を寄せて髪留めで留める。
「ありがとう……リューちゃん」
「可愛いよ、ルフォン」
「ふへへ……」
不貞腐れた態度を見抜かれたのは失敗だけど、こんな風にちゃんと見てくれているならそれもまた悪くない。
考えてくれて、行動にまで示してくれるなんて嬉しかった。
リュードとしてもルフォンにプレゼントをするというハードルの高さを乗り越えてなんとか喜んでもらえて安心していた。
魔人化という体の変化があるルフォンは身につけてもせいぜいネックレスぐらいで、あまり装飾品を好まないので悩んだ。
珍しく食材や調味料が欲しいのは知っているけどそうではなくて何かしらの形に残るものを贈りたかった。
ほんの少し料理方面には思考を向けつつ形に残るプレゼントができた。
さすがドワーフが作る装飾品は髪留め一つでもセンスが良くて芸が細かくステキな代物だった。
「……ふん、罪作りな男だな。ワシにもその秘訣を教えてほしいものだよ」
「その憎まれ口をやめて、普通にして、素直に褒める。それだけでだいぶ変わるだろうな」
「生まれ持っての言い回しだからな、今更変えられんわ。素直に褒めるのも……この歳じゃ恥ずかしくてな」
「歳なんて関係ないですよ。いつでも人は素直になれます。デルデだって出来てたじゃないか」
あれだけの熱弁かまして他種族に助けを求めることを認めさせたのだから素直に話すことは出来るだろう。
「……女性と面を向かってやるには少し無理がすぎるわい」
「ふふっ、じゃあ諦めてください」
「この歳でモテる必要もないからいいわい」
秘訣は単純だけどやれそうにもない。
デルデはやれやれと首を振る。
弟子はいるし今後の生活に困ることはまずない。
もうちょい若ければ秘訣とやらに従ってみたかもしれないが今更誰にモテようというのだ。
「さて、次はオークかな?」
コボルトのミミも集め終えた。
その過程で死体も一箇所に集めて火の魔法で燃やす。
コボルトは素材としてはあんまり良くない方なので持って帰るよりも燃やしてしまった方が早くて楽で良い。
コボルトの群れが思いの外早く見つかったのでまだ時間はある。
悩みどころだけど森の奥に進んでオーク探しをしてもいいぐらいの日の高さである。
「オークめ、待ってろよー!」
帰ってもよかったけど新しい武器を手に入れてラストは意気揚々としていた。
何も無理して一日で全部終わらせることもないので程々に探してみる。
ラストの新武器練習も兼ねて何体かオークが見つけられれば良いなと思って森の奥へと進んだ。
奥と言ってもそんなに進むわけじゃない。
コボルトやオークのいる場所は森の比較的浅いところである。
なのでコボルトのいる場所から少し奥ぐらいのところにしか移動はしない。
四人中二人がご機嫌なので雰囲気も非常に良い。
森も今いるところは木が生い茂りジメッとした空気感のところではなく、程よく日がさえぎられて心地よい温度になっているところだった。
「た…………け…………」
「リューちゃん、どこからか声が聞こえる!」
「みんな静かに! どこからか分かるか?」
ほんのわずかな異変をルフォンが感じ取った。
ルフォンのミミに微かに声が聞こえてきたのだ。
ルフォンは目を閉じて集中する。
何かを伝えたいならもう一度声を出してと願う。
「助け……」
「……! こっちだよ!」
弾かれるように走り出したルフォンにみんなでついていく。
オークがいると思われるよりもさらに森の奥に入り込んでいく。
「誰か……お願いだ……助けて…………」
大きな木に寄りかかって倒れている冒険者がいた。
掠れるような声、姿が見えてようやくリュードにも聞こえてきた。
脇腹のところの鎧が壊れて中の傷が見えている。
「大丈夫ですか……」
「ルフォン、触るな!」
ルフォンは冒険者の男の容態を確認しようと手を伸ばそうとした。
けれどリュードは男の異変に気づいてルフォンを制止する。
紫色の宝石を削り、小さい花のような形にした装飾の髪留め。
酔い潰れて道に寝こけているドワーフを迎えにきた奥さんがお詫びがわりにとリュードにくれたものだった。
貰った時真っ先にルフォンのことを考えた。
邪魔になる程髪を伸ばしはしないが料理をする際に時折髪をかけ上げていたりする。
サッと止められるゴムの輪っかとかあればいいんだろうけどそんなものリュードは見たことがない。
武器は足りているし他に装飾品なんかもルフォンは付けないので料理をする時に少し髪を止めておくぐらいならどうだろうと思ったのだ。
「ここで渡すのは良い雰囲気とはいかないけど……ちゃんとルフォンのことも考えてるってこと、分かってほしくてな」
「リューちゃぁん……」
ルフォンはまだまだお子様だと自分のことをそう思わずにはいられない。
嫉妬してしまうこともそれを悟られるほど態度に出してしまうことも恥ずかしい。
分かっているのに嫉妬を思うことも抑えることもできていないなんて、第一夫人失格である。
リュードは立派な男だ。
ならば第一夫人となるべくルフォンも第一夫人としての品格を備えねばならない。
他の女性に負けないほど強く、そして負けないほどに強かな女性でなくてはならないのだ。
でも、今は素直に喜ぼう。
前髪を寄せて髪留めで留める。
「ありがとう……リューちゃん」
「可愛いよ、ルフォン」
「ふへへ……」
不貞腐れた態度を見抜かれたのは失敗だけど、こんな風にちゃんと見てくれているならそれもまた悪くない。
考えてくれて、行動にまで示してくれるなんて嬉しかった。
リュードとしてもルフォンにプレゼントをするというハードルの高さを乗り越えてなんとか喜んでもらえて安心していた。
魔人化という体の変化があるルフォンは身につけてもせいぜいネックレスぐらいで、あまり装飾品を好まないので悩んだ。
珍しく食材や調味料が欲しいのは知っているけどそうではなくて何かしらの形に残るものを贈りたかった。
ほんの少し料理方面には思考を向けつつ形に残るプレゼントができた。
さすがドワーフが作る装飾品は髪留め一つでもセンスが良くて芸が細かくステキな代物だった。
「……ふん、罪作りな男だな。ワシにもその秘訣を教えてほしいものだよ」
「その憎まれ口をやめて、普通にして、素直に褒める。それだけでだいぶ変わるだろうな」
「生まれ持っての言い回しだからな、今更変えられんわ。素直に褒めるのも……この歳じゃ恥ずかしくてな」
「歳なんて関係ないですよ。いつでも人は素直になれます。デルデだって出来てたじゃないか」
あれだけの熱弁かまして他種族に助けを求めることを認めさせたのだから素直に話すことは出来るだろう。
「……女性と面を向かってやるには少し無理がすぎるわい」
「ふふっ、じゃあ諦めてください」
「この歳でモテる必要もないからいいわい」
秘訣は単純だけどやれそうにもない。
デルデはやれやれと首を振る。
弟子はいるし今後の生活に困ることはまずない。
もうちょい若ければ秘訣とやらに従ってみたかもしれないが今更誰にモテようというのだ。
「さて、次はオークかな?」
コボルトのミミも集め終えた。
その過程で死体も一箇所に集めて火の魔法で燃やす。
コボルトは素材としてはあんまり良くない方なので持って帰るよりも燃やしてしまった方が早くて楽で良い。
コボルトの群れが思いの外早く見つかったのでまだ時間はある。
悩みどころだけど森の奥に進んでオーク探しをしてもいいぐらいの日の高さである。
「オークめ、待ってろよー!」
帰ってもよかったけど新しい武器を手に入れてラストは意気揚々としていた。
何も無理して一日で全部終わらせることもないので程々に探してみる。
ラストの新武器練習も兼ねて何体かオークが見つけられれば良いなと思って森の奥へと進んだ。
奥と言ってもそんなに進むわけじゃない。
コボルトやオークのいる場所は森の比較的浅いところである。
なのでコボルトのいる場所から少し奥ぐらいのところにしか移動はしない。
四人中二人がご機嫌なので雰囲気も非常に良い。
森も今いるところは木が生い茂りジメッとした空気感のところではなく、程よく日がさえぎられて心地よい温度になっているところだった。
「た…………け…………」
「リューちゃん、どこからか声が聞こえる!」
「みんな静かに! どこからか分かるか?」
ほんのわずかな異変をルフォンが感じ取った。
ルフォンのミミに微かに声が聞こえてきたのだ。
ルフォンは目を閉じて集中する。
何かを伝えたいならもう一度声を出してと願う。
「助け……」
「……! こっちだよ!」
弾かれるように走り出したルフォンにみんなでついていく。
オークがいると思われるよりもさらに森の奥に入り込んでいく。
「誰か……お願いだ……助けて…………」
大きな木に寄りかかって倒れている冒険者がいた。
掠れるような声、姿が見えてようやくリュードにも聞こえてきた。
脇腹のところの鎧が壊れて中の傷が見えている。
「大丈夫ですか……」
「ルフォン、触るな!」
ルフォンは冒険者の男の容態を確認しようと手を伸ばそうとした。
けれどリュードは男の異変に気づいてルフォンを制止する。


