「ラストのランクを考えると……」

 早く終わり、実績としても見られやすい依頼といったらもちろん魔物の討伐になる。
 リュードはいくつか目をつけたものを手に取っていく。

「これもアリなのか」

 手に取った依頼のほとんどが大森林における魔物の討伐だった。
 対象となる魔物の中にはアリを倒すものもあった。

 つい先日もアリを倒したばかり。
 勝手は分かるがアリとばかり戦うのは勘弁してほしいなとは少し思う。

 アイアン、ブロンズクラスの依頼ならラスト一人で戦っても苦労はなさそうなものばかりだった。
 低ランクで受けられる浅いところに出てくる魔物はさほど他とは変わりなくてコボルトやゴブリン、ちょっとランクを上げてオークなんかが出るようだ。

 ベーシックな魔物である。
 そうした依頼をとりあえず受けておくことにした。

「これで私も立派な冒険者!」

 ラストはふんすと鼻息荒い。
 世界を旅して回ることと冒険者として活動することはある意味セットのようなものだ。

 定番中の定番でリュードとルフォンに冒険者としての身分があることをラストはずっと羨ましく思っていた。
 リュードもやろうやろうとは思っていたけど依頼を受けることもなく、冒険者登録することをすっかり忘れていたのでようやくきたかとラストの興奮もひとしおである。

 いつか冒険者として名を馳せる。
 そんなことだって夢見ても誰も笑わないような世界。

 ラストもリュードとルフォンとならば活躍していけると思った。

「じゃあまずはお買い物だね。冒険者として準備は欠かせないから」

「はい、先輩!」

「よろしい!」

 ニッコニコのラストに影響されてルフォンもニッコニコ。
 雰囲気がハッピーで大変よろしい。

 受けた依頼の相手は特に苦労もなく、特別な準備も必要ないような魔物だ。
 なのでとりあえず旅で消耗したものや食料などの補充をするために冒険者ギルドを出て買い物に向かう。

 時間を考えると今から大森林に向かって依頼をこなすよりはのんびりと買い物でもして休んで日を改めるのがいい。
 今いる町は大森林が近くて色々なものも取れるし冒険者も多い。
 
 そうすると自然と町は発展して規模が大きくなる。
 この町も結構規模としては大きく、市場は賑わっていた。

「よっ、そこの女の子たち! 美容にもいい、健康にもいい、ハチミツ、どうだい?」

 威勢のいい呼び込みがあちこちから聞こえてくる。
 そんな呼び込みの1人がルフォンとラストに目をつけて声をかけた。

 琥珀色の液體が入った小瓶をルフォンたちに見せる。

「ハチミツだって?」

 呼び込みに食いついたのはリュードであった。
 前の世界ではハチミツはありふれた存在であったがこの世界ではそうもいかない。

 ただの蟲っぽいものもいるがそうしたものでも魔力を持っているので魔物、というかこの世界の動物は人も含めて全部魔物と言えるのだ。
 ハチ系の魔物は蟲の中でも戦闘力が高いためか魔力の保有量が多く大型化しやすい傾向にあり、養蜂に向いていない。

 ハチも凶暴である場合が多くてとてもじゃないが人がコントロールして飼っていられる相手じゃないのだ。

 そのためにハチミツは野生のものがいる場所で、冒険者などが命懸けで掠め取ってくるものなのだ。
 ハチを倒してもいいけどやっぱりハチミツの需要はあるので數が増えた時以外は倒さずハチミツだけを盜み出すのである。

 そんなことを専門に行うミツ屋なんて呼ばれる冒険者もいるのだ。
 リュードのいた森にはハチ系の魔物はいなかった。
 
 これまで旅してきたところにもいなかったのでハチミツにお目にかかることがなかった。

「おっ、お兄さんハチミツに興味あるのかい? どうだい、後ろの綺麗なお嬢さん方にプレゼントするってのは?」

 女性ではなく男性の方が釣れた。
 多少の驚きはありつつも商売人はこれぐらいじゃ動揺もしない。

 サッと対象を変えて上手い売り文句をリュードにぶつける。

「ハチミツってのはね、美容にも良くて、それでいながらなんてたって甘いんだ! 美容に良いものなんて大概まずいがこれは毎日でも続けられるからね! ちょーとばかり値が張るが貰って喜ばない女の子なんていないよ?」

 リュードの様子を見てこのままなら売れそうだと思った男はたたみかける。
 悩み方を見れば買いそうか、そうでないかは分かる。

「リューちゃん?」

「何本ありますか?」

「おっと、今は五本ありますよ。ちゃんとお嬢さん方に1本ずつ買っても……」

「全部ください」

「えっ……」

「Ⅴ本全部ください」

 値段も聞いてないのにと商人は驚く。
 リュードはピッと指を立てて五を表した。

 ルフォンやラストも驚いた顏をしている。
 財布のヒモはやや固いと言えるリュードがサラッと財布を開いた。

 散財はしないけど必要なところで使うし、ルフォンたちにもよく分からないところでも使う。
 今回はよく分からないところだった。

「ま、毎度あり!」

 予想外のご購入だがお高めの商品がまとめて売れて男も嬉しそうにする。
 ハチミツを受け取ったリュードは四本をしまうと、一本の瓶の蓋を開けて指先でハチミツを掬う。

 トロリと粘度のある液体はリュードの知るハチミツと違いない。
 甘いと言っていたし食べられるものであることは間違いない。

 パクリとハチミツのついた指を咥える。

「うん!」

 甘い。
 それでいてクセがなく、奧の方に花だろうか、少し果汁にも近いような爽やかな香りがしている。

 砂糖とはまた違う甘味が口に広がる。