「もう少し魔物の討伐などをこなしたり、魔物の素材を持ち込んでいただければこちらとしても実力の判断基準となりますので、シューナリュード様とルフォン様がお上げになられたいとお考えでしたらそう時間もかからないと思います」

 クラーケンの討伐なんかは国からの依頼となり、ティアローザで起きたダンジョンブレイクについても国家の有事だったので活躍した冒険者には国から褒賞が出た。
 ギルド側もただ国の話を鵜呑みにせず、調べた上でリュードたちが活躍したことを分かっていた。

 特に荒い者も多い冒険者の中で強く自分の功績を主張せず品行方正でありながら、実は大きな活躍をしていた。
 冒険者ギルドとしても好ましい人物である。

 大きな実績を積み重ねたのでそうした側面では申し分ないが、やはり多少の下積みも大切である。
 デカい仕事ばかりやればよいのでもないのでそこら辺は少し惜しい。

 なので引き上げやすいところまでとりあえず引き上げておこうと言うことでシルバー−ランクになったのだ。
 そうした控えめな人がいきなり高ランクに上げられることも好まないと分かっているので抑えめにしているのであった。
 
「ご依頼料や褒賞金などはギルド預かりとなっております。どの冒険者ギルドでも好きなように引き出すことができますのでいつでもお申し付けください。もちろんさらに預けることも出来ます」

「あ、そうなんですか……」

 冒険者専用の銀行みたいなことも冒険者ギルドではやっている。
 そしてリュードは知らなかった。
 
 ギルド経由で依頼を受けたと言うことはギルドからリュードたちにもお金が支払われるということなのだ。
 クラーケンの時は国から直接お金をもらったのでそれで終わりだと思っていたけれど、精算処理が終わって依頼としてのお金もリュードたちは受け取れることになっていたのだ。

 意図せぬ二重取りだが、誰に返金できるものでもない。
 実はティアローザからもダンジョンブレイクについての褒賞として冒険者ギルドにお金が出ていたので貢献度の高いリュードにもそこからお金が支払われていた。

 受け取ってないのでギルド側が勝手にリュードの口座を作って貯金している形にはなっている。
 貧乏暮らしに憧れるようなリュードではない。
 
 お金のある理想的な生活をしているのだけど、お金がピンチだから急いで仕事しなきゃとか明日のご飯も心配だぜとか冒険っぽい感じも期待していないかと言われればちょっとだけ期待している自分もいる。
 さらにはルフォンはトゥジュームでリュード一点買いの賭けをしてしこたま儲けた。
 
 それはもうリュードたちは働かなくても未来のことは心配しなくてもいいほどにお金を持っているのだ。
 経済的基盤の圧倒的な安定感。
 
 冒険しているので派手な散財もすることがなくお金が貯まり続ける一方である。

「なにそれ! ちょ、私1番下だよ!」

 ラストは頬を膨らませてプンプンと怒る。
 ラストの冒険者登録も済ませたのだけど、冒険者学校を卒業したのでもないので一番下からのスタートとなる。

 実力的にはリュードたちと一緒でも全然大丈夫だろうけど冒険者ギルド的には新参者だからしょうがない。

「私の方が冒険者の先輩だからね。えいっ!」

「ブゥー!」

 怒ってリスのように膨らませたラストの頬をルフォンが指でつつく。
 頬に溜められた空気を一気に出してラストが不満を表現する。

「まあ良いじゃないか。上げてきゃいいんだよ。ラストならすぐに上がって来れるさ」

 ラストも高い実力を兼ね備えているし雑な冒険者でもない。
 コツコツ依頼をこなしていけばすぐにでも上げてくれるだろうことは間違いない。

「あっと、それとギルドに依頼したいことがあるんですけど」

「ギルドに依頼ですか? どのようなことでしょうか?」

 ちょうどギルド長も出てきているので話も早そうだ。

「冒険者を募りたいんです」

 リュードが依頼の内容を軽く説明する。
 受付の女性は困った顔をしてギルド長を見る。

 自分では手に余る案件であることは明らかである。
 ギルド長は大きく頷いて、場所を変えることを提案した。

 ギルド二階にある応接間に通される。

「では改めて、ギルド長のグロムです。よろしくお願いします」

「依頼主のビューランデルデさんです」

「よろしくな」

 リュードが前に立ち、窓口として話をしているけれど依頼するのはデルデである。
 流石に人生経験のあるグロムはドワーフにも驚いたような顔をせず膝を折って高さを合わせるとスッと手を差し出した。
 
「真人族と握手をするのも楽ではないな」

 生まれ持っての身長差がある。
 そのままの状態では握手することも簡単ではない。

 デルデが浮くことでも出来ない限りは大きい方が小さい方に合わせてもらうしかないのだ。

「はははっ、種族が違うのですからしょうがないことですよ。身長差を悩むより、その差をいかにして受け入れていくかを悩みましょう」

 亀の甲より年の功。
 穏やかで思慮深い。

 膝を折ってドワーフに接することを嫌がるような人もいるだろうにグロムは軽く笑って座るように促した。

「私はこちらに座りますので皆さんはソファーにどうぞ」

 テーブルを挟んでソファーが二つ。
 二人掛け、詰めても三人が限界のソファー一つでは四人いるリュードたち全員が座ることはできない。

 グロムはソファーを譲ってテーブルの横に椅子を持ってきて座る。