「……いいぞ、やってしまえ!」
これはもう応援に声だけ出していればいい。
とりあえずデルデは三人に対して声を出して応援することにした。
「よっと……面倒だな」
ルフォンが戦っていたもう一匹のアリを引きつけていたリュードは攻撃をかわしながらボソリとつぶやいた。
護衛アリは羽を羽ばたかせて低く飛びながらヒットアンドアウェイを繰り返していた。
多少の学習能力があるようで仲間のやられざまを見て少し戦い方を変えてきたのだ。
リュードを深追いすることもなく、魔法を使う素振りを見せるだけで距離を取る。
ほとんど通り過ぎていくだけのような攻撃に決定打となる反撃もできずにいた。
「……今ならやれるかな?」
デルデが新しく打ち直してくれた剣ならばと、リュードはアリの攻撃をギリギリでかわしながら集中力を高める。
しっかりと剣を意識して魔力を込めていく。
体の一部かのように魔力が通っていき、剣先までリュードの魔力で満ちていく。
そうなると本当に体の一部になったように感じられ、感覚まで繋がっているのではないかとすら思えてくる。
単に魔力をまとうだけでも切れ味など戦闘力の面での強化は期待できる。
何も考えずに力強さだけを求めるなら多くの魔力を剣に込めてまとわせればいい。
デルゼウズがやっていたように溢れんばかりの魔力で強化すればそれはそれで強いのだ。
ただそれだけでも破壊力は増し、高い威力を発揮することができる。
けれどただ魔力を込めてまとわせていることは、剣から魔力をダダ漏れさせているのと大きく変わらないのである。
普通の人がそんなことをしていたらあっという間に魔力が枯渇して戦えなくなってしまうことだろう。
悪魔的魔力、少なくともリュードぐらいの魔力がなくては魔力に任せたやり方は厳しいものである。
だからリュードもできなくはないけど、そんな雑なやり方はしない。
ならば普段はどうしているか。
ただ剣に魔力を通してまとわせるのではなく剣をしっかりと覆うように魔力をコントロールしてまとわせるのである。
巧みに操ってダダ漏れさせるのではなく剣の周りに止めてまとわせる。
ウォーケックはこれを剣に魔力のメッキをするのだと表現していた。
厚みがある鞘のようにまとわせるのではなくて、薄くメッキのようにまとわせるのだ。
「まずは1番遠い剣先から」
刃先は尖らせるように、ピタリと魔力が剣に張り付くように覆っていく。
一定の濃さの魔力を一定の薄さで剣に美しくまとわせることが理想だ。
これを極めれば魔力の消費を極限まで抑えながら高い効果を発揮することができる。
例え刃潰しした剣でも相手を切り裂くことができるし、木の棒でも剣と戦えるほどの固さになる。
これまでも挑戦はしてきたけれどどうにもうまくいかなかった。
それなりのところまでしか出来ず、壁にぶち当たったような感覚すらあった。
しかしそれは魔力の伝達率が悪い黒重鉄が1つの原因でもあった。
今手に持っている剣はミスリルを使い、魔力を込めることが以前よりもはるかに楽になった。
だからいけると思ったのだ。
アリの単調で、速いだけの攻撃をかわし続けながらリュードは魔力を支配する。
少しでも油断すると魔力が揺らぎ、形を変えて、拡散してしまう。
一定の薄さにするのもまた難しい。
ある程度までは容易いけれど、そこを超えて薄くしていくことは反発する魔力を無理矢理凝縮して薄くしていく作業になる。
「今はダメだ」
「……どうして?」
「リュードはまた一皮剥けようとしている」
リュードを手助けしようと弓を引いたラストをデルデが止めた。
魔力の流れを感知することは高度な鍛冶にとっても大事なことなので、デルデにはリュードが行っている魔力の流れが分かっていた。
リュードは魔力が多いのか魔力が荒々しく漏れ出ているような感じもあった。
剣に魔力を流して戦うのはある程度戦えるやつならやることであるが、リュードがやるとコントロールしていても剣は渦巻く魔力に覆われていた。
それが今はどうか。
凪の水面のような静けさがリュードの魔力にあった。
剣を覆う魔力だけでなくリュードから発される魔力もリュードの体をピタリと覆うように落ち着き、洗練されている。
「……出来た」
魔力が剣を美しく、薄く、均等に、それでいながら力強くまとう。
さらにはリュード自身は気づいていないが同時に体の方の魔力も同じく薄く均一に体を覆っていた。
なんだか迫り来るアリがゆっくりに見えた。
防御なのか、攻撃なのかはっきりとしない意識の中で剣を振った。
固く発達した大きなアゴにリュードの剣は当たり、アリのアゴは切り裂かれた。
そのままリュードは剣を振り切って、アリを真っ二つにした。
剣と体と魔力が一つになった不思議な感覚の中でリュードは恐ろしいほどに鋭い一撃を放った。
燃えるような闘志はそのままなのに頭の中は冷静でアリが切れていく様がよく見えた。
ほんの一瞬、リュードは高い境地の世界を見た。
「リュード! 惚けておる暇などないぞ!」
自分の子を失い、護衛も失い、逃げ場もない。
悲しみと怒りに支配された女王アリがリュードに襲いかかっていた。
「あまり固くないな」
集中力の高まったリュードを捉えることが女王アリには出来ない。
攻撃を当たったように見えるほどギリギリまで引きつけてかわしたリュードは女王アリの足を切りつけた。
もう完全な集中力は切れてしまって剣を覆う魔力は一定でなくなっている。
けれど女王アリの足はそれほど固くなく簡単に切り裂くことができた。
やはり魔力を完全にコントロールするのは難しい。
「ルフォン、ラスト、さっさと勝負を決めるぞ!」
「うん!」
「オッケー!」
よく見ると女王アリの動きも鈍い。
固くないのならただ図体がデカいだけの簡単な相手になる。
女王アリにも奥の手があるかもしれないけれどそんなもの出させる前に倒してしまえばいいのだ。
怒り狂う女王アリだが最後の最後まで出てこなかったことにはわけがあった。
白い卵が多く見える。
つまりは女王アリは産卵直後なのであった。
ドワーフを撃退し、落ち着ける状況になったアリは新しく子を増やそうと卵を産みつけていた。
産卵は楽なことではない。
体力や魔力は著しく落ち、魔力が落ちたので固さも今はかなりの影響を受けていた。
いわば戦える状態ではなかったのだ。
今なら四匹の護衛アリの方が強いくらいの女王アリはリュードたちの攻撃にみるみる追い詰められていった。
「リュード!」
「リューちゃん!」
「トドメだ!」
ラストの矢が爆発し、ルフォンが女王アリの足を切る。
何本もの足を失って自分の体を支えられなくなった女王アリが地面に体を伏せさせる。
「恨みはないが安らかにな!」
今度は薄くではなく、思い切り剣に魔力を流し込んだリュードは高く掲げた剣を全力で女王アリの頭に振り下ろした。
女王アリの首が切断されて頭が落ちる。
歪な軌道を描いて頭が転がっていき、声の一つも上げられずに女王アリはリュードたちに倒されてしまった。
「本当にやりよったわ……」
「だはぁーーーー! 疲れた!」
絶え間なく襲ってくるアリを相手取ることだけでなく、魔力を完全にコントロールすることも非常にリュードに疲れをもたらしていた。
卵の処理はしなきゃいけないがひとまず休みたい。
リュードは女王アリの死体から離れると地面に腰を下ろした。
「最近の若いもんは侮れないな……」
アリアドヘンも単なる鍛冶に収まらない発想力を持っているしドワーフの若者たちも凝り固まった年配のドワーフたちとは違う価値観を持っている。
たくましく、柔軟で、自分らしく。
リュードたちがやってくれたのだ、次は自分の番だとデルデは思った。
これはもう応援に声だけ出していればいい。
とりあえずデルデは三人に対して声を出して応援することにした。
「よっと……面倒だな」
ルフォンが戦っていたもう一匹のアリを引きつけていたリュードは攻撃をかわしながらボソリとつぶやいた。
護衛アリは羽を羽ばたかせて低く飛びながらヒットアンドアウェイを繰り返していた。
多少の学習能力があるようで仲間のやられざまを見て少し戦い方を変えてきたのだ。
リュードを深追いすることもなく、魔法を使う素振りを見せるだけで距離を取る。
ほとんど通り過ぎていくだけのような攻撃に決定打となる反撃もできずにいた。
「……今ならやれるかな?」
デルデが新しく打ち直してくれた剣ならばと、リュードはアリの攻撃をギリギリでかわしながら集中力を高める。
しっかりと剣を意識して魔力を込めていく。
体の一部かのように魔力が通っていき、剣先までリュードの魔力で満ちていく。
そうなると本当に体の一部になったように感じられ、感覚まで繋がっているのではないかとすら思えてくる。
単に魔力をまとうだけでも切れ味など戦闘力の面での強化は期待できる。
何も考えずに力強さだけを求めるなら多くの魔力を剣に込めてまとわせればいい。
デルゼウズがやっていたように溢れんばかりの魔力で強化すればそれはそれで強いのだ。
ただそれだけでも破壊力は増し、高い威力を発揮することができる。
けれどただ魔力を込めてまとわせていることは、剣から魔力をダダ漏れさせているのと大きく変わらないのである。
普通の人がそんなことをしていたらあっという間に魔力が枯渇して戦えなくなってしまうことだろう。
悪魔的魔力、少なくともリュードぐらいの魔力がなくては魔力に任せたやり方は厳しいものである。
だからリュードもできなくはないけど、そんな雑なやり方はしない。
ならば普段はどうしているか。
ただ剣に魔力を通してまとわせるのではなく剣をしっかりと覆うように魔力をコントロールしてまとわせるのである。
巧みに操ってダダ漏れさせるのではなく剣の周りに止めてまとわせる。
ウォーケックはこれを剣に魔力のメッキをするのだと表現していた。
厚みがある鞘のようにまとわせるのではなくて、薄くメッキのようにまとわせるのだ。
「まずは1番遠い剣先から」
刃先は尖らせるように、ピタリと魔力が剣に張り付くように覆っていく。
一定の濃さの魔力を一定の薄さで剣に美しくまとわせることが理想だ。
これを極めれば魔力の消費を極限まで抑えながら高い効果を発揮することができる。
例え刃潰しした剣でも相手を切り裂くことができるし、木の棒でも剣と戦えるほどの固さになる。
これまでも挑戦はしてきたけれどどうにもうまくいかなかった。
それなりのところまでしか出来ず、壁にぶち当たったような感覚すらあった。
しかしそれは魔力の伝達率が悪い黒重鉄が1つの原因でもあった。
今手に持っている剣はミスリルを使い、魔力を込めることが以前よりもはるかに楽になった。
だからいけると思ったのだ。
アリの単調で、速いだけの攻撃をかわし続けながらリュードは魔力を支配する。
少しでも油断すると魔力が揺らぎ、形を変えて、拡散してしまう。
一定の薄さにするのもまた難しい。
ある程度までは容易いけれど、そこを超えて薄くしていくことは反発する魔力を無理矢理凝縮して薄くしていく作業になる。
「今はダメだ」
「……どうして?」
「リュードはまた一皮剥けようとしている」
リュードを手助けしようと弓を引いたラストをデルデが止めた。
魔力の流れを感知することは高度な鍛冶にとっても大事なことなので、デルデにはリュードが行っている魔力の流れが分かっていた。
リュードは魔力が多いのか魔力が荒々しく漏れ出ているような感じもあった。
剣に魔力を流して戦うのはある程度戦えるやつならやることであるが、リュードがやるとコントロールしていても剣は渦巻く魔力に覆われていた。
それが今はどうか。
凪の水面のような静けさがリュードの魔力にあった。
剣を覆う魔力だけでなくリュードから発される魔力もリュードの体をピタリと覆うように落ち着き、洗練されている。
「……出来た」
魔力が剣を美しく、薄く、均等に、それでいながら力強くまとう。
さらにはリュード自身は気づいていないが同時に体の方の魔力も同じく薄く均一に体を覆っていた。
なんだか迫り来るアリがゆっくりに見えた。
防御なのか、攻撃なのかはっきりとしない意識の中で剣を振った。
固く発達した大きなアゴにリュードの剣は当たり、アリのアゴは切り裂かれた。
そのままリュードは剣を振り切って、アリを真っ二つにした。
剣と体と魔力が一つになった不思議な感覚の中でリュードは恐ろしいほどに鋭い一撃を放った。
燃えるような闘志はそのままなのに頭の中は冷静でアリが切れていく様がよく見えた。
ほんの一瞬、リュードは高い境地の世界を見た。
「リュード! 惚けておる暇などないぞ!」
自分の子を失い、護衛も失い、逃げ場もない。
悲しみと怒りに支配された女王アリがリュードに襲いかかっていた。
「あまり固くないな」
集中力の高まったリュードを捉えることが女王アリには出来ない。
攻撃を当たったように見えるほどギリギリまで引きつけてかわしたリュードは女王アリの足を切りつけた。
もう完全な集中力は切れてしまって剣を覆う魔力は一定でなくなっている。
けれど女王アリの足はそれほど固くなく簡単に切り裂くことができた。
やはり魔力を完全にコントロールするのは難しい。
「ルフォン、ラスト、さっさと勝負を決めるぞ!」
「うん!」
「オッケー!」
よく見ると女王アリの動きも鈍い。
固くないのならただ図体がデカいだけの簡単な相手になる。
女王アリにも奥の手があるかもしれないけれどそんなもの出させる前に倒してしまえばいいのだ。
怒り狂う女王アリだが最後の最後まで出てこなかったことにはわけがあった。
白い卵が多く見える。
つまりは女王アリは産卵直後なのであった。
ドワーフを撃退し、落ち着ける状況になったアリは新しく子を増やそうと卵を産みつけていた。
産卵は楽なことではない。
体力や魔力は著しく落ち、魔力が落ちたので固さも今はかなりの影響を受けていた。
いわば戦える状態ではなかったのだ。
今なら四匹の護衛アリの方が強いくらいの女王アリはリュードたちの攻撃にみるみる追い詰められていった。
「リュード!」
「リューちゃん!」
「トドメだ!」
ラストの矢が爆発し、ルフォンが女王アリの足を切る。
何本もの足を失って自分の体を支えられなくなった女王アリが地面に体を伏せさせる。
「恨みはないが安らかにな!」
今度は薄くではなく、思い切り剣に魔力を流し込んだリュードは高く掲げた剣を全力で女王アリの頭に振り下ろした。
女王アリの首が切断されて頭が落ちる。
歪な軌道を描いて頭が転がっていき、声の一つも上げられずに女王アリはリュードたちに倒されてしまった。
「本当にやりよったわ……」
「だはぁーーーー! 疲れた!」
絶え間なく襲ってくるアリを相手取ることだけでなく、魔力を完全にコントロールすることも非常にリュードに疲れをもたらしていた。
卵の処理はしなきゃいけないがひとまず休みたい。
リュードは女王アリの死体から離れると地面に腰を下ろした。
「最近の若いもんは侮れないな……」
アリアドヘンも単なる鍛冶に収まらない発想力を持っているしドワーフの若者たちも凝り固まった年配のドワーフたちとは違う価値観を持っている。
たくましく、柔軟で、自分らしく。
リュードたちがやってくれたのだ、次は自分の番だとデルデは思った。


