リュードは地面に手をついてクルクルと回転しながら衝撃を吸収する。
ほんの一瞬フテノのことが頭に浮かぶけれど上手く衝撃を吸収できたので手足を痛めることはなかった。
狙った通りの動きができた。
華麗に着地したリュードはサッと体勢を整えることが出来て、その上村長との距離も空けられた。
今度はリュードの番だ。
リュードも体勢を整えられたけど村長も当然に一呼吸置けたので仕切り直しとなる。
始まった時と同じくリュードは村長に向かってまっすぐ駆け出す。
今度は正面から切りかかりはしない。
村長の左に回り、側面から剣を振り下ろすが単純な変化では村長を惑わすこともかなわず普通に防がれてしまう。
リュードだってそんな攻撃通じるとは思っていない。
片手で大きく上から振り下ろされた剣を防ぐために村長は上を見ていた。
(消えた……!)
手応えの少ないリュードの剣を防いで視線を戻した村長の目にはリュードが消えたようにいなくなっていた。
左右に移動した様子はない、上も剣を防ぐために見ていたのだから違う。
とっさに村長の頭にはリュードがスライディングで詰めたり後ろに回ろ込んでいた戦い方が浮かんだ。
体勢を低くして後ろに回り込んだ。
リュードが村長に対して一撃加えるのなら死角から不意をつくしかない。
経験から一瞬で判断を下した村長は振り向きざまに横なぎに剣を振った。
が、振り向いた先にもリュードは見えず剣にも手応えはなかった。
「ぬうっ!」
一連の動作は周りで見ていれば滑稽なものに見えたかもしれない。
村長の予想は当たっていた。
リュードは剣を振り下ろして村長に防がせて、素早く剣を引きながら村長の後ろに回り込んでいた。
回り込んでいるのが見えないように剣を当ててすぐに引いた。
急な動作に少しばかり腕がピキリと痛むがその甲斐あって後ろに回り込めた。
そのまますぐに攻撃に移る、でもよかった。
でもリュードはあえて後ろに回り込んで攻撃には移らず片膝をついた体勢のまま待った。
さすがというべきかたった数回やっただけのスライディングを覚えていてリュードが後ろに回り込んだりすると咄嗟に判断を下した。
すぐに攻撃に移っていたら振り向きざまに振られた剣で頭が砕けていたかもしれない。
バレていたら間抜けな行動であるが攻撃しないで待つという見る人が見ればとんでもない精神力がいる選択を取った。
これが功を奏した。
村長の振り向きざまの剣はリュードの頭の上を風を裂いて通り過ぎていく。
同時にリュードが動いた。
立ち上がる勢いもつけて下から斜めに剣を振るう。
確かな手応えが剣に返ってくる。
リュードの斬撃が村長の身に届いた。
しかし上がった白い札は3つ。
村長は剣でガードすることは間に合わないと判断して右腕をたたんでそのまま腕で攻撃を受け止めたのである。
吹き飛びもせずにすべての衝撃を腕が吸収する。
刃潰ししてあるとはいっても金属の塊が腕に高速でぶつかれば痛くないはずはない。
興奮状態にあるのか痩せ我慢か、わずかに顔を歪めたのみの村長は攻撃を食らった腕で剣を振るい反撃を繰り出した。
3人の審判の多くは致命的な一撃と判断してくれたみたいだけど1人はまだ続行可能と村長の様子から見たようで惜しくも力比べは続く。
札を上げなかったのは人狼族の老人。
今の村長と村長の座を争っていた人狼族の戦士であった人である。
あれぐらいならばまだ戦いを続けられると思ったのはやはり戦友だからだろうか。
戦いにおける柔軟性ではすでに敵わない。
下手な変化を打てば対応できないのは自分であり逆にやられる。
そう思った村長は剣を左手に持ち替えて最初と同じ純粋な斬り合いを演じる。
けれど、均衡はすでに崩れている。
赤黒くなり始めた腕はダランとして動かない。
村長の利き腕がこれまで剣を持っていた右なのは言うまでもない。
左手に持ち替えても考えられないほど力強くはあるが一振り一振りのパワーは明らかに落ちている。
右腕が動かなくバランスも崩れていて当然技術も右ほど無い。
長い経験があるから左でもある程度は戦えるがわざわざ利き腕でない方で戦う訓練をするわけもない。
誤魔化すように速さは増していてもむしろリュードにとっては楽になった。
右に剣を持つ人と左で剣を持つ人では戦う感覚が違う。
けれどリュードはウォーケックが双剣使いなために左に剣を持つ相手の対処もできる。
逆に村長はうまく対処されることにも不慣れでリュードに受け流しされると体が流れるのを防ぐために即座に剣を引かなければならない。
よりパワーが乗らず見掛け倒しの斬り合いになる。
もう十分村長はリュードの望んだ状況に、泥沼にどっぷりとハマっている。
しかしそこから長い斬り合い続く。
いくら左であっても無理に攻め込めば足元をすくわれかねない。
決め手がない。一進一退の攻防に観客も固唾をのんで見守る。
けれども冷静なのはリュードの方だった。
切り合いが続けば続くほどリズムが一定になっていく。
痛みがあるためかもしれない。
リュードは村長の攻撃のリズムを読みつつあった。
かなり腕の状態が良くないようだ。
固定されていない腕は動くたびに激しく振るわれて激痛が走る。
動いたためではない痛みによる脂汗が噴き出して顔に垂れてきて煩わしいと村長は思う。
逆にリュードは次にどう剣を振るかも予想がつくようになってきた。
回転を重視する村長にあえてリュードも乗っかって、ひたすら素早い切り合いになっていた。
振り下ろされた村長の剣。
他の軌道の剣よりもしっかりと受け流してきた。
この軌道を辿る剣は受け流されると無意識のうちに村長も更に戻りを早くしていて剣に乗るパワーは弱いものとなっている。
それにリュードは全力で振り上げる一撃をぶつけた。
受け流すのではなく剣に剣を当てる。
受け流されると思っていて戻し始めてもいた村長の剣はあっけないほど簡単に弾き飛ばされ、胸をさらけ出すような格好になる。
こんなこともあるかもしれないと1番始めにリュードの力がどれほど通じるか思いっきり剣を叩きつけて試していた。
勝てはしなくても魔力もない素体で全力で切りつければそれなりにパワーも通じる可能性は最初にチェック済である。
剣を手離さなかったのは流石だ。
ただ振り上げた剣を返し、袈裟斬りに振り下ろそうとするリュードに村長は対抗するすべはないように見えた。
「おりゃあああ!」
「見事。だが……」
「なっ……!」
執念、とでも表現すればいいのだろうか。
村長は一歩大きく前に出た。
肩を差し出されてリュードの剣の根元が村長の肩にめり込む。
力が乗り切らず肩で剣が止まってしまう。
白い札が2枚上がるがまだ村長に対して勝利だとは認められない。
リュードもこれでは大ダメージを与えられても倒したことにならないと焦りが生まれた。
村長がどう動くのか。
剣を持った左手を警戒しているとアゴに衝撃が走った。
「バカ……な」
すでに動かないと思っていた村長の右手。
赤黒くなった腕を村長は無理矢理動かしてリュードのアゴを殴り上げた。
「くそっ……」
たとえ相手を殺さない身内の大会だとしても勝利に貪欲に、負けを許さず食らいつく。
寡黙な村長の目の奥に燃える闘志が燃え続けていることをリュードは気づくべきだった。
殴られてぼんやりとする視界に村長の剣が迫ってくるのが見えた。
一瞬の沈黙。
ぶっ飛んだリュードが地面に倒れ、少し遅れて赤い札が4つ上がる。
「勝者ヤーネル・ドジャウリ!」
審判の宣言。地面が揺れるほどの歓声。
ほんの一瞬フテノのことが頭に浮かぶけれど上手く衝撃を吸収できたので手足を痛めることはなかった。
狙った通りの動きができた。
華麗に着地したリュードはサッと体勢を整えることが出来て、その上村長との距離も空けられた。
今度はリュードの番だ。
リュードも体勢を整えられたけど村長も当然に一呼吸置けたので仕切り直しとなる。
始まった時と同じくリュードは村長に向かってまっすぐ駆け出す。
今度は正面から切りかかりはしない。
村長の左に回り、側面から剣を振り下ろすが単純な変化では村長を惑わすこともかなわず普通に防がれてしまう。
リュードだってそんな攻撃通じるとは思っていない。
片手で大きく上から振り下ろされた剣を防ぐために村長は上を見ていた。
(消えた……!)
手応えの少ないリュードの剣を防いで視線を戻した村長の目にはリュードが消えたようにいなくなっていた。
左右に移動した様子はない、上も剣を防ぐために見ていたのだから違う。
とっさに村長の頭にはリュードがスライディングで詰めたり後ろに回ろ込んでいた戦い方が浮かんだ。
体勢を低くして後ろに回り込んだ。
リュードが村長に対して一撃加えるのなら死角から不意をつくしかない。
経験から一瞬で判断を下した村長は振り向きざまに横なぎに剣を振った。
が、振り向いた先にもリュードは見えず剣にも手応えはなかった。
「ぬうっ!」
一連の動作は周りで見ていれば滑稽なものに見えたかもしれない。
村長の予想は当たっていた。
リュードは剣を振り下ろして村長に防がせて、素早く剣を引きながら村長の後ろに回り込んでいた。
回り込んでいるのが見えないように剣を当ててすぐに引いた。
急な動作に少しばかり腕がピキリと痛むがその甲斐あって後ろに回り込めた。
そのまますぐに攻撃に移る、でもよかった。
でもリュードはあえて後ろに回り込んで攻撃には移らず片膝をついた体勢のまま待った。
さすがというべきかたった数回やっただけのスライディングを覚えていてリュードが後ろに回り込んだりすると咄嗟に判断を下した。
すぐに攻撃に移っていたら振り向きざまに振られた剣で頭が砕けていたかもしれない。
バレていたら間抜けな行動であるが攻撃しないで待つという見る人が見ればとんでもない精神力がいる選択を取った。
これが功を奏した。
村長の振り向きざまの剣はリュードの頭の上を風を裂いて通り過ぎていく。
同時にリュードが動いた。
立ち上がる勢いもつけて下から斜めに剣を振るう。
確かな手応えが剣に返ってくる。
リュードの斬撃が村長の身に届いた。
しかし上がった白い札は3つ。
村長は剣でガードすることは間に合わないと判断して右腕をたたんでそのまま腕で攻撃を受け止めたのである。
吹き飛びもせずにすべての衝撃を腕が吸収する。
刃潰ししてあるとはいっても金属の塊が腕に高速でぶつかれば痛くないはずはない。
興奮状態にあるのか痩せ我慢か、わずかに顔を歪めたのみの村長は攻撃を食らった腕で剣を振るい反撃を繰り出した。
3人の審判の多くは致命的な一撃と判断してくれたみたいだけど1人はまだ続行可能と村長の様子から見たようで惜しくも力比べは続く。
札を上げなかったのは人狼族の老人。
今の村長と村長の座を争っていた人狼族の戦士であった人である。
あれぐらいならばまだ戦いを続けられると思ったのはやはり戦友だからだろうか。
戦いにおける柔軟性ではすでに敵わない。
下手な変化を打てば対応できないのは自分であり逆にやられる。
そう思った村長は剣を左手に持ち替えて最初と同じ純粋な斬り合いを演じる。
けれど、均衡はすでに崩れている。
赤黒くなり始めた腕はダランとして動かない。
村長の利き腕がこれまで剣を持っていた右なのは言うまでもない。
左手に持ち替えても考えられないほど力強くはあるが一振り一振りのパワーは明らかに落ちている。
右腕が動かなくバランスも崩れていて当然技術も右ほど無い。
長い経験があるから左でもある程度は戦えるがわざわざ利き腕でない方で戦う訓練をするわけもない。
誤魔化すように速さは増していてもむしろリュードにとっては楽になった。
右に剣を持つ人と左で剣を持つ人では戦う感覚が違う。
けれどリュードはウォーケックが双剣使いなために左に剣を持つ相手の対処もできる。
逆に村長はうまく対処されることにも不慣れでリュードに受け流しされると体が流れるのを防ぐために即座に剣を引かなければならない。
よりパワーが乗らず見掛け倒しの斬り合いになる。
もう十分村長はリュードの望んだ状況に、泥沼にどっぷりとハマっている。
しかしそこから長い斬り合い続く。
いくら左であっても無理に攻め込めば足元をすくわれかねない。
決め手がない。一進一退の攻防に観客も固唾をのんで見守る。
けれども冷静なのはリュードの方だった。
切り合いが続けば続くほどリズムが一定になっていく。
痛みがあるためかもしれない。
リュードは村長の攻撃のリズムを読みつつあった。
かなり腕の状態が良くないようだ。
固定されていない腕は動くたびに激しく振るわれて激痛が走る。
動いたためではない痛みによる脂汗が噴き出して顔に垂れてきて煩わしいと村長は思う。
逆にリュードは次にどう剣を振るかも予想がつくようになってきた。
回転を重視する村長にあえてリュードも乗っかって、ひたすら素早い切り合いになっていた。
振り下ろされた村長の剣。
他の軌道の剣よりもしっかりと受け流してきた。
この軌道を辿る剣は受け流されると無意識のうちに村長も更に戻りを早くしていて剣に乗るパワーは弱いものとなっている。
それにリュードは全力で振り上げる一撃をぶつけた。
受け流すのではなく剣に剣を当てる。
受け流されると思っていて戻し始めてもいた村長の剣はあっけないほど簡単に弾き飛ばされ、胸をさらけ出すような格好になる。
こんなこともあるかもしれないと1番始めにリュードの力がどれほど通じるか思いっきり剣を叩きつけて試していた。
勝てはしなくても魔力もない素体で全力で切りつければそれなりにパワーも通じる可能性は最初にチェック済である。
剣を手離さなかったのは流石だ。
ただ振り上げた剣を返し、袈裟斬りに振り下ろそうとするリュードに村長は対抗するすべはないように見えた。
「おりゃあああ!」
「見事。だが……」
「なっ……!」
執念、とでも表現すればいいのだろうか。
村長は一歩大きく前に出た。
肩を差し出されてリュードの剣の根元が村長の肩にめり込む。
力が乗り切らず肩で剣が止まってしまう。
白い札が2枚上がるがまだ村長に対して勝利だとは認められない。
リュードもこれでは大ダメージを与えられても倒したことにならないと焦りが生まれた。
村長がどう動くのか。
剣を持った左手を警戒しているとアゴに衝撃が走った。
「バカ……な」
すでに動かないと思っていた村長の右手。
赤黒くなった腕を村長は無理矢理動かしてリュードのアゴを殴り上げた。
「くそっ……」
たとえ相手を殺さない身内の大会だとしても勝利に貪欲に、負けを許さず食らいつく。
寡黙な村長の目の奥に燃える闘志が燃え続けていることをリュードは気づくべきだった。
殴られてぼんやりとする視界に村長の剣が迫ってくるのが見えた。
一瞬の沈黙。
ぶっ飛んだリュードが地面に倒れ、少し遅れて赤い札が4つ上がる。
「勝者ヤーネル・ドジャウリ!」
審判の宣言。地面が揺れるほどの歓声。