「ふっ!」

「ぐっ!」

 ちょっと違うのが手を組まないで手首をつけて押し合うということだけど、これは拳を握った腕を自分のハンマーに見立てているのである。
 腕相撲なら手軽ですぐにできながら腕力を見せつける勝負になる。

 腕力の強さが鍛冶の腕にも繋がるとドワーフは考えていて、腕相撲も自信があって負けられない勝負であった。
 ドワーフから仕掛けてきた勝負だけあってドワーフは確かに強かった。

 が、リュードもまた強かった。
 幼い頃より鍛錬を重ねてきた。

 純粋な腕力勝負でなくても強さが大事な竜人族と人狼族の中でリュードも自分の価値を証明してきた。
「うおおっ!」

「ぐわあああっ!」

「また負けだぁ!」

「くそっ、次は俺だ!」
 
 丸太のように太いドワーフの腕を押し切って、リュードは勝利の喜びに拳を突き上げた。
 ドワーフたちは連戦連敗に頭を抱えた。

 それもそうだろうリュードは決して体格的にドワーフのような強靭さは感じられない。
 がっしりとはしているが小さいドワーフの方がリュードよりも遥かに腕が太いのである。

 竜人族であるリュードは体質上筋肉が付きにくい。
 だからといって力が強くならないのでもない。

 見た目がドワーフより細いからといって腕力が弱いのではないのだ。
 重たい黒重鉄の剣を軽々と振り回すだけの腕力があるのである。

 酒も負け、腕力も負けた。
 ドワーフとリュードの意地のぶつかり合いはリュードの大勝利であった。

 腕に覚えありのドワーフにはリュードと均衡を保った者もいたが、持続力も勝るリュードが最後には勝利した。
 そんなわけでリュードのことはドワーフの間で急速に広まった。

 無敗の王者。
 アイツが負けた、コイツが負けたと噂になり、リュードの評価はうなぎのぼり。

 本来ならリュードたちは鉱山を攻略するなり調べて誰かに依頼するなどして取り戻してからリュードたちの話を広めて好感を得るつもりだった。
 それがいつしかドワーフ中のドワーフなどと言われるほどにリュードの評価は高まっていた。

 ちなみにルフォンは酒に弱い。
 ドワーフの普通よりも強い酒では匂いだけでもクラクラしてしまうほどに酒に弱かった。

 あっという間に酔い潰れてしまうのだけどリュードのネックレスのおかげで解毒されるので割と早めに復活はしたりした。
 お酒の許容量も分かってきたのかネックレスの効果も見ながら潰れない程度にお酒を飲むことを覚えてきていた。

 ただルフォンは酔うとヘラヘラとしてリュードにやたらとくっつきたがった。
 周りのドワーフはその様子を冷やかすが、ルフォンは非常に力が強くてリュードから一切離れないのでリュードも諦めた。

  ラストの方はというと意外と酒に強かった。
 リュードの血では一発で酔ってしまったがお酒は別らしい。

 リュードがかなり接しやすい雰囲気を作ってくれたのでラストなんかはドワーフ女子と甘めのお酒なんかを嗜んでいた。
 最初はリュードたちに悪い印象も少なく勢いのある若いドワーフたちから始まったのだけど、いつしか偏見もある年配のドワーフもリュードたちと交流を始めた。
 
 酒と腕力の強い男は他種族だろうがなんだろうが認めるのもドワーフであった。

「……何をしておった?」

 そんな風にしてドワーフと酒に囲まれて過ごしていたリュードは久々にドワーフたちの誘いを断って部屋にいた。
 今のリュードは工芸品やら宝石やら武器に囲まれていた。

 これらは全てドワーフから勝ち取った物の数々である。
 もちろんリュードが要求したものではない。

 連日宿に押しかけてきて、酒飲み勝負や腕相撲勝負を要求してくるドワーフたち。
 リュードだって大人しくのんびりしていたい時もある。

 一日中酒を飲んでいたり腕相撲をしているのも大変なのである。
 例えドワーフ相手でもハッキリと物言うリュードは今日はやらないとか言う。

 そこでドワーフたちは賭けの対象というか、勝負に挑むための貢ぎ物みたいなものを持ってくるようになった。
 リュードは連戦連勝の無敗のチャンピオンなので優先して挑戦したいドワーフも多くて、これをやるから勝負しろ、勝ったらこれをやると物を押し付けてくる。

 ドワーフの間ではこうした物を賭けることも一般的であり、リュードもちょっとしたものを手にとってジッと見てしまったら承諾と受け取られて、以降受け取らないからやらないとはいかなくなってしまった。
 リュードと戦うにはそれなりのものを用意するようになっていったドワーフたちも持ってくるものの質がだんだんと上がっている。

 最初の方はいらないから持って帰ってもいいと言っても置いて帰るからしょうがなく回収はしていた。
 気づいたら結構な量のものがリュードの手元に贈られた形になったので一度整理しようと思って広げていたのだ。

 リュードに献上された物にはドワーフお手製の武器も多かった。
 予備の剣どころかメインを張ってもよさそうな剣もチラホラとあったりもした。

 ただの剣じゃないものもあるのでそういったことも確認しようと思っているとデルデが訪ねてきたのである。

「何をしたらこんなことになるのだ……」

 工房に籠りリュードの剣を直していたデルデは外の状況を知らなかった。
 集中し出すと周りのことを一切見なくなってしまうのだけど、まさかこんなことになっているとは思いもしない。

 宿の前では今日はリュードがお休みだと知ったドワーフたちが各々好きに酒盛りを始めていたので怪しい予感はしていた。