「こりゃ相当無茶をしたな」
「分かりますか?」
「分かるさ。お前さんは悪くない。剣をダメにしたというから叱りつけるぐらいのつもりでいたが見れば相手が無理矢理剣を叩き折ってきたようだ。むしろお主はどうにかしようとしたし、剣も良く主人を守ったもんだ」
リュードの力量は見たし、剣の断面からうかがえる戦いの後もリュードの力量不足が原因ではない。
剣のコンディションは悪くないし、よく手入れもされている。
どんな相手から知らないが、化け物みたいな相手が化け物みたいな力で剣をいじめたのだろうと見ればわかった。
リュードの悪い点を挙げるとしたらそんな相手と戦ったことである。
「いえ、俺の技術が足りなかったんです」
リュードのせいではないとデルデは言ってくれるけれどリュードしては受け流しきれなかった自分にも原因があると思っている。
剣の丈夫さをやや過信していたことや咄嗟の行動だったこともあるが、デルゼウズの力を上手く逃せずに剣が力を受ける形になってしまった。
例えデルゼウズが異常であってもそれ以上の技量を持って対処できれば剣は折れなかったのなと思わざるを得ない。
「ムチャを言うな。
こんな力がかかるもん、剣が折れんかったら腕が飛んでいくわい」
剣が折れていなければ腕や肩をひどく痛める事態になっていただろう。
折れることによってリュードは剣に救われたとも言えるのだ。
「そうだな、頼みの礼というのには及ばんかもしれんがワシならこの剣を直してやることが出来る。手付金ということでどうだ?」
聞き流していた話を思い出す。
三鎚の1人であるデルデは優れた剣の職人であると言われていた。
「それは願ってもないですね」
「ついでにどうだ、ルフォンとラストの分も見てやろう。こう見えて腕はいいんだ」
「はいはーい! リュードは剣を修理に来たんですけど私は弓を作ってほしいです!」
「弓? 弓はワシの専門外だが弟子の方が作れる。紹介してやろう」
「やった!」
「えーと、私はナイフのお手入れをお願いします」
「ナイフならワシの領域だ。まあここでは何だ、ワシの工房に来てみないか? ラストの弓を作れる弟子も紹介したいしな」
思いもよらない奇縁とでもいうのだろうか、実はドワーフの名工であるデルデに剣を直してもらえることになりそうだ。
デルデの招待に預かってデルデの工房にリュードたちは向かった。
「すまんな、ワシらの大きさに合わせて作られているから低かろう?」
ドワーフの町は小さい。
規模の話ではない。
サイズの話である。
通常状態のリュードたちの体格も大体真人族と変わらないぐらいである。
リュードやルフォンは平均よりはやや大きいといえるがそれでも個人差の範疇レベルの大きさである。
対してドワーフは大きな人でもリュードの腰ぐらいの大きさしかない。
真人族の基準で考えれば異様なレベルで小さい。
ドワーフみたいだなと身長の低い人を揶揄して言うことがあるが、実際のドワーフはそんな人よりも小さい。
大きい種族もいれば小さい種族もいる。
なので背の大きさをとやかく言うことはないのだけど、やはり背の大きさの違いによる不便さはどうしても出てくる。
「いえ、大丈夫ですよ」
その一つがモノの大きさである。
文化的にドワーフは自分の体格よりもやや大きめのものを好むのであるがそれでもリュードたちには小さい。
宿では外の人を対象にしているので家具もリュードたちに合わせたサイズだったけれど、ドワーフの町に繰り出すとどうしても大きさの違いで合わない場面が出てしまう。
リュードたちが入ってきた門から見てドワガルの反対側にデルデの工房はあった。
ドワーフ基準で見れば大きくて立派な工房である。
リュードたち基準で見ても大きくて立派なことには変わらないしドワーフたちの中でも大きめに作られてはいるのだけど、それでもリュードたちギリギリ入れるぐらいだった。
デルデの好みから天井は相当高く作ってあるのでドアを通る時みたいに頭をかがめっぱなしではいなくてもすんだが頭を擦りそうな感じはあった。
デルデの工房は工房兼自宅である。
鍛冶を得意とするドワーフの家は普通の家であっても火に強い家である。
特に工房を兼務している家はかまどに火を入れっぱなしでも大丈夫なように火事などほとんど起きないぐらい熱に強い建物である。
そのため熱を遮断する効果も高く、中は思いのほか暑かった。
「やっておるな」
工房からは鉄を叩く音がしている。
見るとデルデの弟子であるゲルデパットンが鍛冶仕事に精を出していた。
最初に会った時は少し情けないぐらいにも見えていたゲルデパットンだが、赤くなった金属を見つめるその顔はとても凛々しい。
鉄を叩くその姿に鬼気迫るものがあった。
火花が散り、とても素手では触れないようなものが形を変えていく様は見ていてとても引き込まれてしまいそうだ。
「おい、ゲルデパットン」
「あっ、師匠お帰りですか」
いかに弟子といえど作業の邪魔をしてはいけない。
デルデはゲルデパットンの作業がひと段落つくのを待って声をかけた。
「お客さんもいらっしゃいませ」
「アリアドヘンはいるか?」
「アリアですか? 今彼女なら何かを思いついたようで部屋にこもっていますよ」
「そうか、ならちょうどいい。その作業が一区切りついたらお客に何か出してやってくれ」
「分かりました」
暑い暑いと思っていたが工房の熱く燃える火のそばから離れるといくぶんか涼しく感じられた。
二階に上がって奥側の部屋のドアをデルデはノックした。
「分かりますか?」
「分かるさ。お前さんは悪くない。剣をダメにしたというから叱りつけるぐらいのつもりでいたが見れば相手が無理矢理剣を叩き折ってきたようだ。むしろお主はどうにかしようとしたし、剣も良く主人を守ったもんだ」
リュードの力量は見たし、剣の断面からうかがえる戦いの後もリュードの力量不足が原因ではない。
剣のコンディションは悪くないし、よく手入れもされている。
どんな相手から知らないが、化け物みたいな相手が化け物みたいな力で剣をいじめたのだろうと見ればわかった。
リュードの悪い点を挙げるとしたらそんな相手と戦ったことである。
「いえ、俺の技術が足りなかったんです」
リュードのせいではないとデルデは言ってくれるけれどリュードしては受け流しきれなかった自分にも原因があると思っている。
剣の丈夫さをやや過信していたことや咄嗟の行動だったこともあるが、デルゼウズの力を上手く逃せずに剣が力を受ける形になってしまった。
例えデルゼウズが異常であってもそれ以上の技量を持って対処できれば剣は折れなかったのなと思わざるを得ない。
「ムチャを言うな。
こんな力がかかるもん、剣が折れんかったら腕が飛んでいくわい」
剣が折れていなければ腕や肩をひどく痛める事態になっていただろう。
折れることによってリュードは剣に救われたとも言えるのだ。
「そうだな、頼みの礼というのには及ばんかもしれんがワシならこの剣を直してやることが出来る。手付金ということでどうだ?」
聞き流していた話を思い出す。
三鎚の1人であるデルデは優れた剣の職人であると言われていた。
「それは願ってもないですね」
「ついでにどうだ、ルフォンとラストの分も見てやろう。こう見えて腕はいいんだ」
「はいはーい! リュードは剣を修理に来たんですけど私は弓を作ってほしいです!」
「弓? 弓はワシの専門外だが弟子の方が作れる。紹介してやろう」
「やった!」
「えーと、私はナイフのお手入れをお願いします」
「ナイフならワシの領域だ。まあここでは何だ、ワシの工房に来てみないか? ラストの弓を作れる弟子も紹介したいしな」
思いもよらない奇縁とでもいうのだろうか、実はドワーフの名工であるデルデに剣を直してもらえることになりそうだ。
デルデの招待に預かってデルデの工房にリュードたちは向かった。
「すまんな、ワシらの大きさに合わせて作られているから低かろう?」
ドワーフの町は小さい。
規模の話ではない。
サイズの話である。
通常状態のリュードたちの体格も大体真人族と変わらないぐらいである。
リュードやルフォンは平均よりはやや大きいといえるがそれでも個人差の範疇レベルの大きさである。
対してドワーフは大きな人でもリュードの腰ぐらいの大きさしかない。
真人族の基準で考えれば異様なレベルで小さい。
ドワーフみたいだなと身長の低い人を揶揄して言うことがあるが、実際のドワーフはそんな人よりも小さい。
大きい種族もいれば小さい種族もいる。
なので背の大きさをとやかく言うことはないのだけど、やはり背の大きさの違いによる不便さはどうしても出てくる。
「いえ、大丈夫ですよ」
その一つがモノの大きさである。
文化的にドワーフは自分の体格よりもやや大きめのものを好むのであるがそれでもリュードたちには小さい。
宿では外の人を対象にしているので家具もリュードたちに合わせたサイズだったけれど、ドワーフの町に繰り出すとどうしても大きさの違いで合わない場面が出てしまう。
リュードたちが入ってきた門から見てドワガルの反対側にデルデの工房はあった。
ドワーフ基準で見れば大きくて立派な工房である。
リュードたち基準で見ても大きくて立派なことには変わらないしドワーフたちの中でも大きめに作られてはいるのだけど、それでもリュードたちギリギリ入れるぐらいだった。
デルデの好みから天井は相当高く作ってあるのでドアを通る時みたいに頭をかがめっぱなしではいなくてもすんだが頭を擦りそうな感じはあった。
デルデの工房は工房兼自宅である。
鍛冶を得意とするドワーフの家は普通の家であっても火に強い家である。
特に工房を兼務している家はかまどに火を入れっぱなしでも大丈夫なように火事などほとんど起きないぐらい熱に強い建物である。
そのため熱を遮断する効果も高く、中は思いのほか暑かった。
「やっておるな」
工房からは鉄を叩く音がしている。
見るとデルデの弟子であるゲルデパットンが鍛冶仕事に精を出していた。
最初に会った時は少し情けないぐらいにも見えていたゲルデパットンだが、赤くなった金属を見つめるその顔はとても凛々しい。
鉄を叩くその姿に鬼気迫るものがあった。
火花が散り、とても素手では触れないようなものが形を変えていく様は見ていてとても引き込まれてしまいそうだ。
「おい、ゲルデパットン」
「あっ、師匠お帰りですか」
いかに弟子といえど作業の邪魔をしてはいけない。
デルデはゲルデパットンの作業がひと段落つくのを待って声をかけた。
「お客さんもいらっしゃいませ」
「アリアドヘンはいるか?」
「アリアですか? 今彼女なら何かを思いついたようで部屋にこもっていますよ」
「そうか、ならちょうどいい。その作業が一区切りついたらお客に何か出してやってくれ」
「分かりました」
暑い暑いと思っていたが工房の熱く燃える火のそばから離れるといくぶんか涼しく感じられた。
二階に上がって奥側の部屋のドアをデルデはノックした。


