「……何者だ!」
「ふふふっ、強いね」
「悪かった! ちょっとした出来心で……」
「何者だ?」
「あなたとは初めましてだね、リュードさん」
リュードは不意に近づいてきたフードの男性の手に持っていたナイフを弾いて剣を突きつけた。
もう1人女性っぽい人もいるが不思議と敵意は感じない。
「あっ、カディアさん!」
「……なんだ、知り合いか?」
女性の方がパサリとフードを下ろしてルフォンとラストが驚いた顔をする。
フードを下ろした女性は情報ギルドサドゥパガンのトゥジューム支部長であったカディアだった。
「うん、リューちゃんを探すのに情報屋さんを探して、それがカディアさんなんだ。調べてくれてリューちゃんもカディアさんのおかげで見つけられたんだ」
「そうなのか、二人がお世話になったようで」
「あの……剣を引いてはくれないのかい?」
「こちらは知り合い?」
「ううん、知らない」
「そうか……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! わ、私はカディアの夫だ! 怪しいものではない!」
「本当だ、許してやってくれ」
リュードがカディアに視線を向けると笑っていた。
本当に出来心で軽い気持ちで接近してきたのだろう。
悪い人ではなさそうなのでリュードが剣を納める。
「カディアさんは今日はどうしたんですか?」
「ちょっと挨拶でも、と思ってな」
「挨拶ですか?」
「普通は顧客に挨拶なんてしないんだけど、あんたたちがどうなったのか気になってね」
ルフォンたちの依頼はとうに終わっている。
終わった依頼人に接触を図ることなどあり得ないことなのだけれど、今回はカディアもルフォンとラストのことが気になっていた。
あれほど恋焦がれていた相手と無事に会えて、無事にあの状況から脱出できたのか。
依頼が終わったのでその後のルフォンたちを追いかけることもないので結末は分からなかった。
しかしニコニコしている二人を見ていると無事に全て上手くいったようでよかったとカディアも安心した。
「それに私は支部長の任を解かれてね。別の国に行くことにもなったんだ」
「えっ! なんでですか!」
「……情報ギルドとしてやっちゃいけないことをやってしまってね」
悪魔が現れたマヤノブッカに聖職者が早くきた理由。
それはカディアが大きく関わっていた。
ルフォンの依頼に関わって調査を進める中で悪魔が関わっていることをカディアはある程度突き止めた。
ここでどうするか。
情報ギルドの一員たるものならこれは高く売れる、いわゆる特ダネである。
悪魔が現れるなどという情報を買いたがる人は多い。
上手くやれば千金ものの情報、のはずだった。
しかしカディアは無償で情報をあちこちに伝えた。
国、冒険者ギルド、教会。
どこが買うか、どこに売れば高く売れるかそんなことを考えていては間に合わない。
もはや悪魔が動き出す時は迫っていたのでカディアは情報ギルドとしての矜持は捨てて、人として行動したのである。
「でも後悔はしてないさ。この国で支部長になるまで色んな人と出会った。良い奴、悪い奴、楽しい奴、くだらない奴……そして旦那ともね。この国は私の思い出だったのさ。それを守るためならこれぐらいなんでもないのさ」
旦那のために金貨5枚をパッと出せるかは悩んだ。
でも旦那と親しい人と、そんな大切な人たちとの思い出のために情報ギルドの支部長の立場なんてこだわってられなかった。
生馬の目を抜くような厳しい世界で生きてきて、感情に縛られることなんてもうないと思っていたけど、ルフォンたちと会ってから忘れていたものを思い出した。
どこまでも真っ直ぐな目に少しだけ自分が馬鹿になってしまった。
ただ、それでよかったのだ。
「ありがとね、ルフォン、ラスト。あんたたちのおかげで私は人になれたよ。悪魔を売り物にするバケモノにならずに済んだ」
カディアの決断がなければ聖職者の到着が遅れ、リュードたちもここにはいなかっただろう。
互いに何があったかを詳細には語らないので、ルフォンとラストはカディアの決断に助けられたことは知らない。
優しく穏やかな目をしたカディアは微笑んだ。
「旦那も私と一緒に来てくれるって言ってくれたんだ。こんな馬鹿なことをした私だけど、呆れず褒めてくれたのさ」
「上の連中は金しか見えてないが人あっての情報だ。人がいて、営みがあって、平和に暮らせるから情報も商品になるんだ。カディア、君の判断は間違ったものじゃなかったさ」
「ふふっ、ありがとう。とりあえず愛しの彼に会えてよかったね」
「はい。カディアさんのおかげでリューちゃんにまた会えました」
「私はちょっと手伝っただけさ、2人の思いが、強い絆が彼に導いたんだ。私たちはいくよ。もう会うことはないと思うけどこの仕事を続けてればあんたたちの話は耳に入ってきそうだ。期待してるよ」
「カディアさんも元気でね」
「ありがとう、カディアさん。旦那さんとお幸せにねー」
「あんたたちも幸せにね。そしてその真っ直ぐさ、忘れないでね。いくよ、あんた」
「おう、お前とならどこへでも行くさ」
「いいなぁ」
「羨ましい」
見つめ合い、笑い合って、旦那さんがカディアの腰を抱いて立ち去っていった。
支部長は解任となったが今の方が幸せそうな顔をしているなとルフォンとラストは思った。
幸せそうな光景にルフォンとラストの声が重なる。
リュードとルフォンとラストも顔を見合わせて笑い合う。
最悪の出来事だったけれど良い出会いはあった。
今回は人の悪意に晒されて、人の善意に助けられた。
また無事に会えた。
今度は人攫いに攫われないし、次に会った時は悪魔をぶっ飛ばせるほど強くなってやるとリュードは心に誓ったのであった。
ーーー第五章完結ーーー
「ふふふっ、強いね」
「悪かった! ちょっとした出来心で……」
「何者だ?」
「あなたとは初めましてだね、リュードさん」
リュードは不意に近づいてきたフードの男性の手に持っていたナイフを弾いて剣を突きつけた。
もう1人女性っぽい人もいるが不思議と敵意は感じない。
「あっ、カディアさん!」
「……なんだ、知り合いか?」
女性の方がパサリとフードを下ろしてルフォンとラストが驚いた顔をする。
フードを下ろした女性は情報ギルドサドゥパガンのトゥジューム支部長であったカディアだった。
「うん、リューちゃんを探すのに情報屋さんを探して、それがカディアさんなんだ。調べてくれてリューちゃんもカディアさんのおかげで見つけられたんだ」
「そうなのか、二人がお世話になったようで」
「あの……剣を引いてはくれないのかい?」
「こちらは知り合い?」
「ううん、知らない」
「そうか……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! わ、私はカディアの夫だ! 怪しいものではない!」
「本当だ、許してやってくれ」
リュードがカディアに視線を向けると笑っていた。
本当に出来心で軽い気持ちで接近してきたのだろう。
悪い人ではなさそうなのでリュードが剣を納める。
「カディアさんは今日はどうしたんですか?」
「ちょっと挨拶でも、と思ってな」
「挨拶ですか?」
「普通は顧客に挨拶なんてしないんだけど、あんたたちがどうなったのか気になってね」
ルフォンたちの依頼はとうに終わっている。
終わった依頼人に接触を図ることなどあり得ないことなのだけれど、今回はカディアもルフォンとラストのことが気になっていた。
あれほど恋焦がれていた相手と無事に会えて、無事にあの状況から脱出できたのか。
依頼が終わったのでその後のルフォンたちを追いかけることもないので結末は分からなかった。
しかしニコニコしている二人を見ていると無事に全て上手くいったようでよかったとカディアも安心した。
「それに私は支部長の任を解かれてね。別の国に行くことにもなったんだ」
「えっ! なんでですか!」
「……情報ギルドとしてやっちゃいけないことをやってしまってね」
悪魔が現れたマヤノブッカに聖職者が早くきた理由。
それはカディアが大きく関わっていた。
ルフォンの依頼に関わって調査を進める中で悪魔が関わっていることをカディアはある程度突き止めた。
ここでどうするか。
情報ギルドの一員たるものならこれは高く売れる、いわゆる特ダネである。
悪魔が現れるなどという情報を買いたがる人は多い。
上手くやれば千金ものの情報、のはずだった。
しかしカディアは無償で情報をあちこちに伝えた。
国、冒険者ギルド、教会。
どこが買うか、どこに売れば高く売れるかそんなことを考えていては間に合わない。
もはや悪魔が動き出す時は迫っていたのでカディアは情報ギルドとしての矜持は捨てて、人として行動したのである。
「でも後悔はしてないさ。この国で支部長になるまで色んな人と出会った。良い奴、悪い奴、楽しい奴、くだらない奴……そして旦那ともね。この国は私の思い出だったのさ。それを守るためならこれぐらいなんでもないのさ」
旦那のために金貨5枚をパッと出せるかは悩んだ。
でも旦那と親しい人と、そんな大切な人たちとの思い出のために情報ギルドの支部長の立場なんてこだわってられなかった。
生馬の目を抜くような厳しい世界で生きてきて、感情に縛られることなんてもうないと思っていたけど、ルフォンたちと会ってから忘れていたものを思い出した。
どこまでも真っ直ぐな目に少しだけ自分が馬鹿になってしまった。
ただ、それでよかったのだ。
「ありがとね、ルフォン、ラスト。あんたたちのおかげで私は人になれたよ。悪魔を売り物にするバケモノにならずに済んだ」
カディアの決断がなければ聖職者の到着が遅れ、リュードたちもここにはいなかっただろう。
互いに何があったかを詳細には語らないので、ルフォンとラストはカディアの決断に助けられたことは知らない。
優しく穏やかな目をしたカディアは微笑んだ。
「旦那も私と一緒に来てくれるって言ってくれたんだ。こんな馬鹿なことをした私だけど、呆れず褒めてくれたのさ」
「上の連中は金しか見えてないが人あっての情報だ。人がいて、営みがあって、平和に暮らせるから情報も商品になるんだ。カディア、君の判断は間違ったものじゃなかったさ」
「ふふっ、ありがとう。とりあえず愛しの彼に会えてよかったね」
「はい。カディアさんのおかげでリューちゃんにまた会えました」
「私はちょっと手伝っただけさ、2人の思いが、強い絆が彼に導いたんだ。私たちはいくよ。もう会うことはないと思うけどこの仕事を続けてればあんたたちの話は耳に入ってきそうだ。期待してるよ」
「カディアさんも元気でね」
「ありがとう、カディアさん。旦那さんとお幸せにねー」
「あんたたちも幸せにね。そしてその真っ直ぐさ、忘れないでね。いくよ、あんた」
「おう、お前とならどこへでも行くさ」
「いいなぁ」
「羨ましい」
見つめ合い、笑い合って、旦那さんがカディアの腰を抱いて立ち去っていった。
支部長は解任となったが今の方が幸せそうな顔をしているなとルフォンとラストは思った。
幸せそうな光景にルフォンとラストの声が重なる。
リュードとルフォンとラストも顔を見合わせて笑い合う。
最悪の出来事だったけれど良い出会いはあった。
今回は人の悪意に晒されて、人の善意に助けられた。
また無事に会えた。
今度は人攫いに攫われないし、次に会った時は悪魔をぶっ飛ばせるほど強くなってやるとリュードは心に誓ったのであった。
ーーー第五章完結ーーー


