「どうして……」
「久しぶりだな。こんなところに隠れていたとは」
今トゥジュームは揺れに揺れていた。
悪魔の制圧にはトゥジュームだけでなく隣接する国の兵士まで動員されていた。
トゥジュームの貴族が主導して大会を行い悪魔を引き入れたことは明白であったので、その責任の所在を明らかにするためにトゥジュームは血まなこになって関係者を摘発していた。
悪魔が関わってしまった以上もはや言い逃れも出来ないのである。
しかし関わっていた貴族全てを摘発すればトゥジュームという国は崩壊してしまう。
大人しく、バレないように静かにしていれば何人かの大物や目立つ人以外は見逃されるはずだとウバは隠れていたのである。
そしてトゥジューム国内の事情のほかにウバにはもう1つ事情があった。
「あ、あれって……」
「ダ、ダメ! 見ないで!」
思考が完全に停止しているウバの後ろ、ベットの上に横たわる人物にラストは目がいった。
必死に腕を広げてウバがその人を隠そうとするも時すでに遅く、腕を広げたぐらいでは隠しきれてもいなかった。
「お姉ちゃん……?」
「何でもないの、何でもないのよ!」
勢い込んで部屋に入ってきたリュードたちであったが、女性の姿を見てはリュードも騒ぎ立てる気は起きなくなってしまった。
「お願いっ! 話でも何でも聞くから、ここだけはやめてちょうだい!」
「……いいだろう。兵士を引かせろ」
「みんな下がりなさい! 待っててね、オリビア……ちょっと行ってくるから。こちらに」
ウバについてその部屋を出る。
リュードが突入したとこほから二つほど隣の部屋に案内された。
そこはウバ個人の部屋で、部屋にはリュードたちとウバだけになる。
「……全部話してもらえますか? それからどうするか決めるので」
言われてみればウバの態度は少しおかしかったと思う。
大会を楽しみにしているようでもなく、普段から奴隷なんかは従えていないようだった。
その割には大会の優勝には酷くこだわり、何度も念押ししていた。
用件だけ終わらせるつもりだったけれど気になってしまった。
「……私の妹は石化病という不治の病なのです」
ウバが泣きそうな顔をして重々しく口を開いた。
ベッドの上で寝ていたのは1人の女性だった。
問題なのはその見た目である。
女性はあれだけ騒がしく入ってきたリュードたちが見えていなかった。
いや、見ることができなかったのである。
なぜなら全身が石化し、残されたのは顔部分ぐらいしかないほど石化が進んでいたからだった。
胴体だけでなく、首周りまで石化しているのでただただ天井を見上げる他になく、リュードたちの騒がしい声も耳が石化していてあまり聞こえていなかった。
部屋に漂う臭い以上に顔をしかめたくなるほどの状態だった。
堪えきれずにウバが涙を流し始める。
「ある時いきなり発症し始めて、いろんなお医者様を呼んでようやく病名だけが分かったの……でも誰も治療ができない不治の病だと言ったわ」
石化病はかなりマイナーな病気でリュードもラストのことがあってモノランに治療薬の作り方を聞かなければ知らなかった病気だろう。
「段々と石のようになっていく妹の体……どうにかしようとさまざまなことを試したわ」
どうにかしようとした方法の一つが部屋に充満していた臭いだった。
固めた薬草をお灸のように燃やし、その煙を吸い込むことで病気の進行を遅らせることが出来ると聞いて試していたのである。
効果は言うまでもなかったが、そんな怪しい噂程度の方法ですら試さずにはいられないほど追い詰められていた。
「そんな時にある噂を聞いたのよ。とある国で石化病を治した者がいると。そしてそれを治したのがエリクサーという万能薬で今回の奴隷による大会の優勝商品の1つとして出されると噂になっていたの」
一度泣き始めると止まらずウバは泣き崩れてしまう。
エリクサーはある種の万能薬とされる幻の魔法薬である。
ケガ人が飲めばケガがたちまち治り、病気の者が飲めばすぐに走り回れるようになるなんて言われる。
健康な者が飲めばより健康に、若さを保ち美しく人をしてくれるとまで言われることもある。
実際にあるかも分からない秘薬の話に尾ひれがついたものだとリュードは思っている。
いくつかの薬の話が混ざり合い、人の欲望や希望を受けて生み出された単なるお話だろう。
ドラゴンの血などを使った万能薬に近いものはあるようだがどちらにしても伝説、幻クラスの代物である。
「ね、この話って……」
「かもしれないな」
石化病を治療したという話、リュードには聞き覚えがあった。
それどころか当事者ですらあると感じる。
ラストの友人であるクゼナの話だろうとリュードたち三人はすぐに勘づいた。
クゼナの話で間違いないのだがその後にエリクサーという尾ひれが付いている。
特に薬の存在を公にしたことも、逆に隠したこともなかったのでどこかで話が捻じ曲がった。
あるいは誰かがその噂を利用して一儲けでもしようとしたのかもしれない。
クゼナが石化病を克服した話は本当なので本当の話を混ぜたウソの話というのは中々真相が見抜きづらいものである。
トゥジュームからはだいぶ離れたところでの話なので余計に真相はうやむやなってエリクサーなどと荒唐無稽な存在が現れてもそこまで確かめようがないのだろう。
「久しぶりだな。こんなところに隠れていたとは」
今トゥジュームは揺れに揺れていた。
悪魔の制圧にはトゥジュームだけでなく隣接する国の兵士まで動員されていた。
トゥジュームの貴族が主導して大会を行い悪魔を引き入れたことは明白であったので、その責任の所在を明らかにするためにトゥジュームは血まなこになって関係者を摘発していた。
悪魔が関わってしまった以上もはや言い逃れも出来ないのである。
しかし関わっていた貴族全てを摘発すればトゥジュームという国は崩壊してしまう。
大人しく、バレないように静かにしていれば何人かの大物や目立つ人以外は見逃されるはずだとウバは隠れていたのである。
そしてトゥジューム国内の事情のほかにウバにはもう1つ事情があった。
「あ、あれって……」
「ダ、ダメ! 見ないで!」
思考が完全に停止しているウバの後ろ、ベットの上に横たわる人物にラストは目がいった。
必死に腕を広げてウバがその人を隠そうとするも時すでに遅く、腕を広げたぐらいでは隠しきれてもいなかった。
「お姉ちゃん……?」
「何でもないの、何でもないのよ!」
勢い込んで部屋に入ってきたリュードたちであったが、女性の姿を見てはリュードも騒ぎ立てる気は起きなくなってしまった。
「お願いっ! 話でも何でも聞くから、ここだけはやめてちょうだい!」
「……いいだろう。兵士を引かせろ」
「みんな下がりなさい! 待っててね、オリビア……ちょっと行ってくるから。こちらに」
ウバについてその部屋を出る。
リュードが突入したとこほから二つほど隣の部屋に案内された。
そこはウバ個人の部屋で、部屋にはリュードたちとウバだけになる。
「……全部話してもらえますか? それからどうするか決めるので」
言われてみればウバの態度は少しおかしかったと思う。
大会を楽しみにしているようでもなく、普段から奴隷なんかは従えていないようだった。
その割には大会の優勝には酷くこだわり、何度も念押ししていた。
用件だけ終わらせるつもりだったけれど気になってしまった。
「……私の妹は石化病という不治の病なのです」
ウバが泣きそうな顔をして重々しく口を開いた。
ベッドの上で寝ていたのは1人の女性だった。
問題なのはその見た目である。
女性はあれだけ騒がしく入ってきたリュードたちが見えていなかった。
いや、見ることができなかったのである。
なぜなら全身が石化し、残されたのは顔部分ぐらいしかないほど石化が進んでいたからだった。
胴体だけでなく、首周りまで石化しているのでただただ天井を見上げる他になく、リュードたちの騒がしい声も耳が石化していてあまり聞こえていなかった。
部屋に漂う臭い以上に顔をしかめたくなるほどの状態だった。
堪えきれずにウバが涙を流し始める。
「ある時いきなり発症し始めて、いろんなお医者様を呼んでようやく病名だけが分かったの……でも誰も治療ができない不治の病だと言ったわ」
石化病はかなりマイナーな病気でリュードもラストのことがあってモノランに治療薬の作り方を聞かなければ知らなかった病気だろう。
「段々と石のようになっていく妹の体……どうにかしようとさまざまなことを試したわ」
どうにかしようとした方法の一つが部屋に充満していた臭いだった。
固めた薬草をお灸のように燃やし、その煙を吸い込むことで病気の進行を遅らせることが出来ると聞いて試していたのである。
効果は言うまでもなかったが、そんな怪しい噂程度の方法ですら試さずにはいられないほど追い詰められていた。
「そんな時にある噂を聞いたのよ。とある国で石化病を治した者がいると。そしてそれを治したのがエリクサーという万能薬で今回の奴隷による大会の優勝商品の1つとして出されると噂になっていたの」
一度泣き始めると止まらずウバは泣き崩れてしまう。
エリクサーはある種の万能薬とされる幻の魔法薬である。
ケガ人が飲めばケガがたちまち治り、病気の者が飲めばすぐに走り回れるようになるなんて言われる。
健康な者が飲めばより健康に、若さを保ち美しく人をしてくれるとまで言われることもある。
実際にあるかも分からない秘薬の話に尾ひれがついたものだとリュードは思っている。
いくつかの薬の話が混ざり合い、人の欲望や希望を受けて生み出された単なるお話だろう。
ドラゴンの血などを使った万能薬に近いものはあるようだがどちらにしても伝説、幻クラスの代物である。
「ね、この話って……」
「かもしれないな」
石化病を治療したという話、リュードには聞き覚えがあった。
それどころか当事者ですらあると感じる。
ラストの友人であるクゼナの話だろうとリュードたち三人はすぐに勘づいた。
クゼナの話で間違いないのだがその後にエリクサーという尾ひれが付いている。
特に薬の存在を公にしたことも、逆に隠したこともなかったのでどこかで話が捻じ曲がった。
あるいは誰かがその噂を利用して一儲けでもしようとしたのかもしれない。
クゼナが石化病を克服した話は本当なので本当の話を混ぜたウソの話というのは中々真相が見抜きづらいものである。
トゥジュームからはだいぶ離れたところでの話なので余計に真相はうやむやなってエリクサーなどと荒唐無稽な存在が現れてもそこまで確かめようがないのだろう。


