「ああ! デルゼウズ様、お待ちしておりました!」
ガマガエルがトーイに近づいて平伏する。
確かにガマガエルはトーイのことをデルゼウズと呼んだ。
「我を呼び出してくれたのはお前か」
「ハイっ! この私めがデルゼウズ様をお呼びいたしました」
「楽なことではなかっただろう。よくやってくれた」
「お褒めに預かり光栄でございます!」
額を地面に擦り付けるガマガエルにはプライドのかけらすら感じられない。
プライドの高そうな人に見えていたのに卑しいほどに媚を売っている。
「つきましては約束の件、お願いしたいのでございますが……」
岩のように丸くなりながらヘラヘラと笑うガマガエルをデルゼウズと呼ばれたトーイは冷たく見下ろす。
「約束……約束とは何だったか?」
「そんな! 永遠の美しさを、最上の美しさを私に与えてくださるとお約束くださったではありませんか!」
「おお、そうだったな。忘れていた」
デルゼウズと呼ばれたトーイはゆっくりと立ち上がった。
手を握ったり閉じたり、体の様子を確かめている。
「チッ……まあいい。ほら、立つがいい」
「はっ、はい!」
デルゼウズと呼ばれたトーイの許可を受けてガマガエルが飛び上がるように立ち上がった。
「今でもお前は美しいぞ……」
デルゼウズと呼ばれたトーイはそっとガマガエルの頬に手を這わせる。
頬を伝い、顎まで下ろした指先で顎をわずかに上げる。
妖しい笑みを浮かべるデルゼウズと呼ばれたトーイにガマガエルは頬をほんのりと赤く染める。
みな白々しく美しいなどと口にするが、このように本気の目で美しいと言われたのはいつ以来だろうかとうっとりとした気分だった。
「ほ、本当でございますか?」
「まあ、他の者には分かるまい。お前の本当の美しさというものが」
「本当の美しさ……」
「そうだ。お前は非常に醜くて、醜悪と呼んでもよい」
「はっ?」
「顔だけではない。肌は汚く、髪にツヤはない。手足は短く胴体は太い。声も耳障りで聞くに耐えなく、この世の醜さを集めたようだ」
「うっ……何を!」
顎に添えていた手を開いてガマガエルの首を掴んだ。
何を言い、何をするのかと聞こうとしたが首を絞められて言葉が出てこない。
美しいと言っておきながら醜いとおとしめる発言を放つデルゼウズと呼ばれたトーイに恐怖と怒りの混じった目を向ける。
「だがお前の美しさはその醜さ故に生まれた。その美しさに取り憑かれ、命を何とも思わない飽くなき欲望の渦。ああ……美しいとは思わないか?」
「えっ……」
「その美しさはどんな時に最も輝くか分かるか?」
「ど、どうして……」
ガマガエルの口の端から血が垂れる。
見開かれた目が下を向く。
ガマガエルの腹をデルゼウズと呼ばれたトーイの腕が貫いていた。
黒い魔力がデルゼウズと呼ばれたトーイの腕にまとわれ、素手にもかかわらず人の腹を貫通させていたのだ。
大きく口の端を吊り上げて嗤うデルゼウズと呼ばれたトーイ。
いや、トーイじゃないとリュードは思った。
「ああ……美しい…………」
「なっ……」
デルゼウズは恍惚とした表情を浮かべて腕を引き抜いた。
震える手で腹に空いた穴を触るガマガエルは愕然とした表情を浮かべている。
「酷く醜悪なものが美しさに取り憑かれた。底のない欲望を目の前にぶら下げられて手に入ると思った時に、その希望を打ち砕かれる……ハッハッハッ! 裏切られて痛みと絶望に歪むその顔は何より美しい! 今お前は誰よりも醜悪でありながら誰よりも美しいぞ!」
「そ、そんな……」
デルゼウズはイビツな笑みを浮かべてガマガエルのことをあざ笑う。
希望を打ち砕かれたガマガエルは一筋の涙を流した。
自分がやってきたことは一体なんだったのだろう。
多くの人を騙し、多くの人を犠牲にし、何もかも捧げてきたのに。
それによって得られたものがこんな結末だなんてとガマガエルは衝撃を受けている。
「貴様……私を騙した…………」
「最後に美しさを永遠に」
デルゼウズは血に濡れた指を打ち鳴らす。
それだけでほんの一瞬でガマガエルが氷の中に閉じ込められる。
巨大で透明度の高い氷の中で絶望した表情のままに閉じ込められたガマガエルはデルゼウズの考える美しさを永遠に与えられることになった。
「ハッハッハッ、美しいではないか! 気まぐれに呼び出されてやったがこのようなものを観れるとは悪くないものだ。こんな体にはなってしまったがせっかくだから永遠の美しさをお前に与えやろう。感謝するといい」
何が面白いというのかとリュードは顔を歪める。
多くの人の命を弄んでくだらない願いを願いを叶えようとした結果こんなことになってしまった。
笑えることなど、何一つ、ない。
「トォーイィ!」
リュードは地面を蹴って走り出すとデルゼウズに殴りかかった。
危険だと思った。
ガマガエルの言う通りにトーイの中にいるのが大悪魔のデルゼウズであるならば非常にまずい事態である。
トーイの中に悪魔がいるなら追い出さなきゃいけない。
しかしリュードにはその手段がないので少なくともトーイを止めなきゃいけない。
なんとか気でも失わせて拘束したいと思った。
「本当は」
デルゼウズはトーイだったらとても受け止められなかったリュードの拳を手のひらで軽く受け止めた。
ガマガエルがトーイに近づいて平伏する。
確かにガマガエルはトーイのことをデルゼウズと呼んだ。
「我を呼び出してくれたのはお前か」
「ハイっ! この私めがデルゼウズ様をお呼びいたしました」
「楽なことではなかっただろう。よくやってくれた」
「お褒めに預かり光栄でございます!」
額を地面に擦り付けるガマガエルにはプライドのかけらすら感じられない。
プライドの高そうな人に見えていたのに卑しいほどに媚を売っている。
「つきましては約束の件、お願いしたいのでございますが……」
岩のように丸くなりながらヘラヘラと笑うガマガエルをデルゼウズと呼ばれたトーイは冷たく見下ろす。
「約束……約束とは何だったか?」
「そんな! 永遠の美しさを、最上の美しさを私に与えてくださるとお約束くださったではありませんか!」
「おお、そうだったな。忘れていた」
デルゼウズと呼ばれたトーイはゆっくりと立ち上がった。
手を握ったり閉じたり、体の様子を確かめている。
「チッ……まあいい。ほら、立つがいい」
「はっ、はい!」
デルゼウズと呼ばれたトーイの許可を受けてガマガエルが飛び上がるように立ち上がった。
「今でもお前は美しいぞ……」
デルゼウズと呼ばれたトーイはそっとガマガエルの頬に手を這わせる。
頬を伝い、顎まで下ろした指先で顎をわずかに上げる。
妖しい笑みを浮かべるデルゼウズと呼ばれたトーイにガマガエルは頬をほんのりと赤く染める。
みな白々しく美しいなどと口にするが、このように本気の目で美しいと言われたのはいつ以来だろうかとうっとりとした気分だった。
「ほ、本当でございますか?」
「まあ、他の者には分かるまい。お前の本当の美しさというものが」
「本当の美しさ……」
「そうだ。お前は非常に醜くて、醜悪と呼んでもよい」
「はっ?」
「顔だけではない。肌は汚く、髪にツヤはない。手足は短く胴体は太い。声も耳障りで聞くに耐えなく、この世の醜さを集めたようだ」
「うっ……何を!」
顎に添えていた手を開いてガマガエルの首を掴んだ。
何を言い、何をするのかと聞こうとしたが首を絞められて言葉が出てこない。
美しいと言っておきながら醜いとおとしめる発言を放つデルゼウズと呼ばれたトーイに恐怖と怒りの混じった目を向ける。
「だがお前の美しさはその醜さ故に生まれた。その美しさに取り憑かれ、命を何とも思わない飽くなき欲望の渦。ああ……美しいとは思わないか?」
「えっ……」
「その美しさはどんな時に最も輝くか分かるか?」
「ど、どうして……」
ガマガエルの口の端から血が垂れる。
見開かれた目が下を向く。
ガマガエルの腹をデルゼウズと呼ばれたトーイの腕が貫いていた。
黒い魔力がデルゼウズと呼ばれたトーイの腕にまとわれ、素手にもかかわらず人の腹を貫通させていたのだ。
大きく口の端を吊り上げて嗤うデルゼウズと呼ばれたトーイ。
いや、トーイじゃないとリュードは思った。
「ああ……美しい…………」
「なっ……」
デルゼウズは恍惚とした表情を浮かべて腕を引き抜いた。
震える手で腹に空いた穴を触るガマガエルは愕然とした表情を浮かべている。
「酷く醜悪なものが美しさに取り憑かれた。底のない欲望を目の前にぶら下げられて手に入ると思った時に、その希望を打ち砕かれる……ハッハッハッ! 裏切られて痛みと絶望に歪むその顔は何より美しい! 今お前は誰よりも醜悪でありながら誰よりも美しいぞ!」
「そ、そんな……」
デルゼウズはイビツな笑みを浮かべてガマガエルのことをあざ笑う。
希望を打ち砕かれたガマガエルは一筋の涙を流した。
自分がやってきたことは一体なんだったのだろう。
多くの人を騙し、多くの人を犠牲にし、何もかも捧げてきたのに。
それによって得られたものがこんな結末だなんてとガマガエルは衝撃を受けている。
「貴様……私を騙した…………」
「最後に美しさを永遠に」
デルゼウズは血に濡れた指を打ち鳴らす。
それだけでほんの一瞬でガマガエルが氷の中に閉じ込められる。
巨大で透明度の高い氷の中で絶望した表情のままに閉じ込められたガマガエルはデルゼウズの考える美しさを永遠に与えられることになった。
「ハッハッハッ、美しいではないか! 気まぐれに呼び出されてやったがこのようなものを観れるとは悪くないものだ。こんな体にはなってしまったがせっかくだから永遠の美しさをお前に与えやろう。感謝するといい」
何が面白いというのかとリュードは顔を歪める。
多くの人の命を弄んでくだらない願いを願いを叶えようとした結果こんなことになってしまった。
笑えることなど、何一つ、ない。
「トォーイィ!」
リュードは地面を蹴って走り出すとデルゼウズに殴りかかった。
危険だと思った。
ガマガエルの言う通りにトーイの中にいるのが大悪魔のデルゼウズであるならば非常にまずい事態である。
トーイの中に悪魔がいるなら追い出さなきゃいけない。
しかしリュードにはその手段がないので少なくともトーイを止めなきゃいけない。
なんとか気でも失わせて拘束したいと思った。
「本当は」
デルゼウズはトーイだったらとても受け止められなかったリュードの拳を手のひらで軽く受け止めた。


