「……いつ始まるんだ」
ずっと明るい地下では時間がわからない。
昼なのか、夜なのか、そんなに時間が経ってないのか、経ったのか。
長いこと待たされている気がするのだけど実際のところは分からない。
時折槍を振って鍛錬し、飯食べて、薄い布団で休む。
日持ちするように作られた食料たちは食べていて飽きが来る。
暇だからと槍の扱い方を思い出そうとするけれどウォーケックも剣がメインの人だったし、リュードも割と早い段階で剣をメインにするつもりだったので剣を主にした教え方だった。
どうしてもウォーケックに教えてもらったものよりも見え覚えているテユノの動きに近い動きをしてしまう。
そんな風にして過ごしていると、突然壁が動き出した。
ちょうど階段があったのと真反対の壁が横にスライドして開いた。
「……ようやく始まったのか」
始まる始まらないはいいけど水浴びくらいしたいとリュードは思っていた。
暇なので槍を振り回していたが動けば汗をかく。
清潔で余っている布もないので体を拭くこともできない。
ため息をついて部屋を出ていくリュードの後ろを亀の魔道具がゆっくりとついていく。
「こいつはついてくるのか。まあいいか。それよりも……少し厄介だな」
武器として槍は悪くないが部屋を出てみると少しよろしくないと思った。
通路が思ったよりも狭いのだ。
剣を振り回すのにも大変そうなぐらいの幅しかないので槍を取り回すにはもっと厳しい。
槍に不慣れなリュードが槍にとって不得意なフィールドで戦うのは大変そうである。
もうちょっと開けた場所でもないかと足を早める。
ここで誰かに会うことになると危険である。
そうして進んでいくと壁の感じが変わってきていた。
これまでは岩盤を削った、人工的な感じがしていた壁が少し広くなり、ゴツゴツとした手の加えられていない天然岩肌のような感じになってきたのだ。
「なんだ? ここは洞窟だった……のか?」
地質学にまで詳しくないので壁や地面を見てここがどんなところかまで知りもしない。
真っ直ぐに一本道になっている通路を進んでいくと開けた空間に出た。
見回すと鍾乳洞のような、人の手で切り開いた部屋ではなかった。
洞窟の一部のような自然に出来た空間である。
そして、ほのかに臭う血の香り。
ピリついた空気を感じた。
少し前に進んだリュードは身をよじった。
リュードがいたところをナイフが通り過ぎ、天井から男が落ちてきた。
「ははっ、やるじゃないか!」
天井から落ちてきた男は着地の勢いを生かしてリュードに飛びかかるとまだ血の乾いていないナイフを突き出した。
奇襲といい、それに失敗したのにそのまま戦闘に移行していくのといい、この男が戦い慣れをしていることは一目瞭然である。
「その武器狡いな!」
リュードとの距離を詰めて腹部に目がけて突き出されたナイフを後ろに引いてかわす。
距離を取ろうとするが男はそれを許さずピタリとリュードと近い距離を保ったままナイフを振り回す。
槍の得意としない距離を分かっている。
距離を詰めてくる男の相手に苦心するリュードを見れば槍の扱いが得意でないことはすぐに分かられてしまう。
このまま懐に入り続けていれば難なく勝てると男は確信した。
部屋に置かれていたのが小さいナイフだった時にはガッカリしたものだが、狭い洞窟の中では案外悪くない。
それに男はナイフは得意だが相手は持っている武器が得意とは限らない。
そしてリュードの腕輪には赤い宝石が見える。
男はほくそ笑む。
槍も手に入って三人分の価値がある赤い宝石まで手に入るのだと勝った時のことをもう考えている。
「悪いな」
「なっ!」
リュードは確かに槍が得意ではなく、接近を続けてくる相手に対して上手く対処することができていない。
槍より剣がいい。
だけど剣はない。
ならば槍をどうにか使っていくしかない。
そう思ってしまうのは思い込みである。
武器があるなら武器を使わなきゃいけないと考えて、それに囚われてしまうのは良くないことだ。
あれば使うことができるぐらいに考えておけばいいのだ。
ナイフを突き出した男の腕に自分の腕を回して拘束する。
驚きに目を見開いた男の顔をリュードは思い切り殴りつけた。
何も槍を使って戦わずとも素手、拳であっても戦うことはできるのだ。
竜人族や人狼族は魔人化する時に大きく体の作りが変わる。
魔人化した時に武器を使ってもよいのだが、武器の種類や扱う武器の形によっては魔人化の状態では合わないということもありうる。
さらに魔人化すると肉体そのものが強化され、体が武器であるような感覚まで湧いてくる。
そのためか武器を使った戦いの訓練だけではなく素手での戦いも一通り経験し、リュードも剣に比べると比率は少ないが素手での戦いも練習を続けてはいた。
つまりリュードは槍よりも素手での戦いの方が得意であった。
距離が取れるなら槍の方がいいのかも知れないけれど、わざわざ詰めてくれるならリュードだって相応に対応する。
槍を手放して素手で戦いを始めたリュードに男は反応することができなかった。
「槍はあんまり得意じゃなくてな」
壁に男が叩きつけられて、そのままズルズルとへたり込む。
槍を拾い上げて警戒するが男は動かない。
一発で気絶してしまった。
結局槍を使うことはなかった。
ずっと明るい地下では時間がわからない。
昼なのか、夜なのか、そんなに時間が経ってないのか、経ったのか。
長いこと待たされている気がするのだけど実際のところは分からない。
時折槍を振って鍛錬し、飯食べて、薄い布団で休む。
日持ちするように作られた食料たちは食べていて飽きが来る。
暇だからと槍の扱い方を思い出そうとするけれどウォーケックも剣がメインの人だったし、リュードも割と早い段階で剣をメインにするつもりだったので剣を主にした教え方だった。
どうしてもウォーケックに教えてもらったものよりも見え覚えているテユノの動きに近い動きをしてしまう。
そんな風にして過ごしていると、突然壁が動き出した。
ちょうど階段があったのと真反対の壁が横にスライドして開いた。
「……ようやく始まったのか」
始まる始まらないはいいけど水浴びくらいしたいとリュードは思っていた。
暇なので槍を振り回していたが動けば汗をかく。
清潔で余っている布もないので体を拭くこともできない。
ため息をついて部屋を出ていくリュードの後ろを亀の魔道具がゆっくりとついていく。
「こいつはついてくるのか。まあいいか。それよりも……少し厄介だな」
武器として槍は悪くないが部屋を出てみると少しよろしくないと思った。
通路が思ったよりも狭いのだ。
剣を振り回すのにも大変そうなぐらいの幅しかないので槍を取り回すにはもっと厳しい。
槍に不慣れなリュードが槍にとって不得意なフィールドで戦うのは大変そうである。
もうちょっと開けた場所でもないかと足を早める。
ここで誰かに会うことになると危険である。
そうして進んでいくと壁の感じが変わってきていた。
これまでは岩盤を削った、人工的な感じがしていた壁が少し広くなり、ゴツゴツとした手の加えられていない天然岩肌のような感じになってきたのだ。
「なんだ? ここは洞窟だった……のか?」
地質学にまで詳しくないので壁や地面を見てここがどんなところかまで知りもしない。
真っ直ぐに一本道になっている通路を進んでいくと開けた空間に出た。
見回すと鍾乳洞のような、人の手で切り開いた部屋ではなかった。
洞窟の一部のような自然に出来た空間である。
そして、ほのかに臭う血の香り。
ピリついた空気を感じた。
少し前に進んだリュードは身をよじった。
リュードがいたところをナイフが通り過ぎ、天井から男が落ちてきた。
「ははっ、やるじゃないか!」
天井から落ちてきた男は着地の勢いを生かしてリュードに飛びかかるとまだ血の乾いていないナイフを突き出した。
奇襲といい、それに失敗したのにそのまま戦闘に移行していくのといい、この男が戦い慣れをしていることは一目瞭然である。
「その武器狡いな!」
リュードとの距離を詰めて腹部に目がけて突き出されたナイフを後ろに引いてかわす。
距離を取ろうとするが男はそれを許さずピタリとリュードと近い距離を保ったままナイフを振り回す。
槍の得意としない距離を分かっている。
距離を詰めてくる男の相手に苦心するリュードを見れば槍の扱いが得意でないことはすぐに分かられてしまう。
このまま懐に入り続けていれば難なく勝てると男は確信した。
部屋に置かれていたのが小さいナイフだった時にはガッカリしたものだが、狭い洞窟の中では案外悪くない。
それに男はナイフは得意だが相手は持っている武器が得意とは限らない。
そしてリュードの腕輪には赤い宝石が見える。
男はほくそ笑む。
槍も手に入って三人分の価値がある赤い宝石まで手に入るのだと勝った時のことをもう考えている。
「悪いな」
「なっ!」
リュードは確かに槍が得意ではなく、接近を続けてくる相手に対して上手く対処することができていない。
槍より剣がいい。
だけど剣はない。
ならば槍をどうにか使っていくしかない。
そう思ってしまうのは思い込みである。
武器があるなら武器を使わなきゃいけないと考えて、それに囚われてしまうのは良くないことだ。
あれば使うことができるぐらいに考えておけばいいのだ。
ナイフを突き出した男の腕に自分の腕を回して拘束する。
驚きに目を見開いた男の顔をリュードは思い切り殴りつけた。
何も槍を使って戦わずとも素手、拳であっても戦うことはできるのだ。
竜人族や人狼族は魔人化する時に大きく体の作りが変わる。
魔人化した時に武器を使ってもよいのだが、武器の種類や扱う武器の形によっては魔人化の状態では合わないということもありうる。
さらに魔人化すると肉体そのものが強化され、体が武器であるような感覚まで湧いてくる。
そのためか武器を使った戦いの訓練だけではなく素手での戦いも一通り経験し、リュードも剣に比べると比率は少ないが素手での戦いも練習を続けてはいた。
つまりリュードは槍よりも素手での戦いの方が得意であった。
距離が取れるなら槍の方がいいのかも知れないけれど、わざわざ詰めてくれるならリュードだって相応に対応する。
槍を手放して素手で戦いを始めたリュードに男は反応することができなかった。
「槍はあんまり得意じゃなくてな」
壁に男が叩きつけられて、そのままズルズルとへたり込む。
槍を拾い上げて警戒するが男は動かない。
一発で気絶してしまった。
結局槍を使うことはなかった。