「あなたたち、人攫いでしょ?」
「な、なんでそれを……くっ、国の人間か!?」
「違うよ。私たちはあなたたちが攫った人を返してほしいだけなの」
「……そ、そんなことのために私たちを探してこんなことをしたってのか!」
「そう、でも私たちにとってはそんなことじゃないんだよ」
興奮したルフォンの瞳が黒から狼を思わせるような黄金の輝きを見せる色に変わっている。
強い殺気を孕んだその視線に人攫いは剣が持つ手が震える。
「攫った人たちはどこ? リューちゃんはどこにいるの?」
「ぐ、ぐぁっ……」
一瞬で距離を詰めたルフォンが人攫いの剣を持つ手首を掴んだ。
ミシミシと音を立てて異常なまでの力で握られて人攫いが苦悶の表情を浮かべて剣を落とす。
一瞬にして脂汗が額に浮かんで、手の色が変色し出す。
「ルフォン!」
「……攫った人たちはどこにいるの?」
「も、もういません……」
このままでは手首を握り潰してしまう。
ラストが声をかけるとルフォンが手を離して人攫いが床にへたり込む。
「もう……いない?」
「お、お金ならあげますから! どうか命だけは……」
「お金なんていらないから、攫った人たちはどこ?」
「ささ、攫った人たちは全員売りました……もうここには一人も残ってません……」
震える人攫いをルフォンは冷たく見下ろす。
ここでウソをつく必要はない。
人攫いにとっては人は商品で、貴族の奴隷大会が近々行われることを考えるともう奴隷を売ってしまったという話は当然にあり得る話である。
「リュード……シューナリュードというあなたたちが攫った人に聞き覚えは?」
「ど、奴隷にするものの名前は聞きません……」
どうしてこうなったのか人攫いには分からなかった。
この人攫い行為の裏には貴族がついている。
圧力がかかっていて捜査の手が伸びてもこず、その上で簡単に人攫いをできるように相手の意識を混濁させる毒まで用意してくれていた。
人攫いに遭遇したことは分かっても追いかけることなんてできないはずなのに。
ちょっと前までお金を数えて気分が良くなって、分け前はどれぐらいになるのかウキウキとしていたのにと人攫いの頭の中で色々な考えが駆け巡る。
「頭に角のある黒髪の男性に心当たりはある?」
「そ、それは……あっ! あります! そのお方なら多分……」
「どこにいるの?」
特徴的な外見をしていて、体つきも悪くない。
中でも高値で売れたし、少し前のことなので覚えていた。
「貴族に買われていきました! た、多分貴族がやるっていう奴隷を使ったなんかがあるって聞いたことがあるんでそれに出すつもりだと思います……」
顧客についても正体を聞くことはしない。
お金さえもらえればよく、仮面をつけて直接名前を呼ばないようにしていたので人攫いたちはそれぞれの貴族の名前も知らない。
ただ買った貴族は知りませんじゃ無事に済まなそうなので必死に頭を回転させて、奴隷がどうして必要だったかを導き出す。
チラリと貴族たちが話しているのを聞いた。
どうして人攫いなんかやらせるのか不思議だったけれどそんなことをしているなら納得だと思った。
少しでも相手に有意義な情報を出せば命は助けてもらえると思った。
「どうしてこんなことしたの……」
怒りが萎んでいき、悲しみが胸を占める。
なぜ人を攫うなんて行為ができるのか。
攫って、それをモノのように誰かに売ることなんてできるのか。
やってはいけない行為で、とてもルフォンは悲しくなった。
「人攫いについては……依頼されたから」
「依頼? 誰かがあなたたちに人攫いをしろと命じたの?」
「その通りです。私たちはただ……依頼…………され」
「ラスト、後ろ!」
突然人攫いの胸から剣が飛び出してきた。
方向的にはラストがいる方からだが、ラストの武器は弓矢である。
いきなり剣を投げる必要もないし、新たな敵襲だとすぐに感づいた。
ルフォンの声に反応したラストが振り返り様に矢を放つ。
ちょうどラストの後ろには劇場のステージがあり、その袖に黒いクロークを着た人がいた。
咄嗟に放った矢にしては狙いは良かったが、謎の人物は矢をすんでのところでかわすとステージ裏に逃げてしまった。
「く……どうして……」
人攫いは口から血を流して絶望した表情を浮かべる。
胸を剣が貫いていて、完全に急所に当たっている。
ルフォンたちではとても助けられない。
「私たちは言われた、だけ……なのに……どうして…………」
「きゃあ!」
人攫いの目から光が失われると同時にいきなりステージの方が爆発して火の手が上がる。
「な、なに!?」
「……ラスト、ミュリウォさん、逃げるよ!」
訳がわからない。
ステージのところにいたのは人攫いの仲間ではなかったのか。
仲間に剣を投げ、ステージの裏を何かで燃やし始めた。
状況が把握できないときは一度離れるしかない。
どの道火の手が上がっていてこの場にとどまるのは危険だった。
再び爆発が起きて、ルフォンたちは慌てて劇場から逃げ出す。
「な、何が起きてるの!?」
古い木造の劇場はあっという間に火が大きくなり燃えていく。
ルフォンも何も分からないがあの謎の人物はきっと人攫いの仲間ではなかったのだと思った。
もしかしたら口封じにでも来た、人攫いを依頼した人の差し金なのではと思った。
けれどなんの証拠もなければ確かめる術もない。
「一体何が……」
「分かんない……けどリューちゃんは生きてる。マヤノブッカに……きっといる」
人が集まり始めて、水をかけて消火をしようと試みている。
ルフォンたちはこれ以上人が集まる前に劇場から離れていった。
ーーーーー
「な、なんでそれを……くっ、国の人間か!?」
「違うよ。私たちはあなたたちが攫った人を返してほしいだけなの」
「……そ、そんなことのために私たちを探してこんなことをしたってのか!」
「そう、でも私たちにとってはそんなことじゃないんだよ」
興奮したルフォンの瞳が黒から狼を思わせるような黄金の輝きを見せる色に変わっている。
強い殺気を孕んだその視線に人攫いは剣が持つ手が震える。
「攫った人たちはどこ? リューちゃんはどこにいるの?」
「ぐ、ぐぁっ……」
一瞬で距離を詰めたルフォンが人攫いの剣を持つ手首を掴んだ。
ミシミシと音を立てて異常なまでの力で握られて人攫いが苦悶の表情を浮かべて剣を落とす。
一瞬にして脂汗が額に浮かんで、手の色が変色し出す。
「ルフォン!」
「……攫った人たちはどこにいるの?」
「も、もういません……」
このままでは手首を握り潰してしまう。
ラストが声をかけるとルフォンが手を離して人攫いが床にへたり込む。
「もう……いない?」
「お、お金ならあげますから! どうか命だけは……」
「お金なんていらないから、攫った人たちはどこ?」
「ささ、攫った人たちは全員売りました……もうここには一人も残ってません……」
震える人攫いをルフォンは冷たく見下ろす。
ここでウソをつく必要はない。
人攫いにとっては人は商品で、貴族の奴隷大会が近々行われることを考えるともう奴隷を売ってしまったという話は当然にあり得る話である。
「リュード……シューナリュードというあなたたちが攫った人に聞き覚えは?」
「ど、奴隷にするものの名前は聞きません……」
どうしてこうなったのか人攫いには分からなかった。
この人攫い行為の裏には貴族がついている。
圧力がかかっていて捜査の手が伸びてもこず、その上で簡単に人攫いをできるように相手の意識を混濁させる毒まで用意してくれていた。
人攫いに遭遇したことは分かっても追いかけることなんてできないはずなのに。
ちょっと前までお金を数えて気分が良くなって、分け前はどれぐらいになるのかウキウキとしていたのにと人攫いの頭の中で色々な考えが駆け巡る。
「頭に角のある黒髪の男性に心当たりはある?」
「そ、それは……あっ! あります! そのお方なら多分……」
「どこにいるの?」
特徴的な外見をしていて、体つきも悪くない。
中でも高値で売れたし、少し前のことなので覚えていた。
「貴族に買われていきました! た、多分貴族がやるっていう奴隷を使ったなんかがあるって聞いたことがあるんでそれに出すつもりだと思います……」
顧客についても正体を聞くことはしない。
お金さえもらえればよく、仮面をつけて直接名前を呼ばないようにしていたので人攫いたちはそれぞれの貴族の名前も知らない。
ただ買った貴族は知りませんじゃ無事に済まなそうなので必死に頭を回転させて、奴隷がどうして必要だったかを導き出す。
チラリと貴族たちが話しているのを聞いた。
どうして人攫いなんかやらせるのか不思議だったけれどそんなことをしているなら納得だと思った。
少しでも相手に有意義な情報を出せば命は助けてもらえると思った。
「どうしてこんなことしたの……」
怒りが萎んでいき、悲しみが胸を占める。
なぜ人を攫うなんて行為ができるのか。
攫って、それをモノのように誰かに売ることなんてできるのか。
やってはいけない行為で、とてもルフォンは悲しくなった。
「人攫いについては……依頼されたから」
「依頼? 誰かがあなたたちに人攫いをしろと命じたの?」
「その通りです。私たちはただ……依頼…………され」
「ラスト、後ろ!」
突然人攫いの胸から剣が飛び出してきた。
方向的にはラストがいる方からだが、ラストの武器は弓矢である。
いきなり剣を投げる必要もないし、新たな敵襲だとすぐに感づいた。
ルフォンの声に反応したラストが振り返り様に矢を放つ。
ちょうどラストの後ろには劇場のステージがあり、その袖に黒いクロークを着た人がいた。
咄嗟に放った矢にしては狙いは良かったが、謎の人物は矢をすんでのところでかわすとステージ裏に逃げてしまった。
「く……どうして……」
人攫いは口から血を流して絶望した表情を浮かべる。
胸を剣が貫いていて、完全に急所に当たっている。
ルフォンたちではとても助けられない。
「私たちは言われた、だけ……なのに……どうして…………」
「きゃあ!」
人攫いの目から光が失われると同時にいきなりステージの方が爆発して火の手が上がる。
「な、なに!?」
「……ラスト、ミュリウォさん、逃げるよ!」
訳がわからない。
ステージのところにいたのは人攫いの仲間ではなかったのか。
仲間に剣を投げ、ステージの裏を何かで燃やし始めた。
状況が把握できないときは一度離れるしかない。
どの道火の手が上がっていてこの場にとどまるのは危険だった。
再び爆発が起きて、ルフォンたちは慌てて劇場から逃げ出す。
「な、何が起きてるの!?」
古い木造の劇場はあっという間に火が大きくなり燃えていく。
ルフォンも何も分からないがあの謎の人物はきっと人攫いの仲間ではなかったのだと思った。
もしかしたら口封じにでも来た、人攫いを依頼した人の差し金なのではと思った。
けれどなんの証拠もなければ確かめる術もない。
「一体何が……」
「分かんない……けどリューちゃんは生きてる。マヤノブッカに……きっといる」
人が集まり始めて、水をかけて消火をしようと試みている。
ルフォンたちはこれ以上人が集まる前に劇場から離れていった。
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