「武器はその場に置いて、闘技場を降りてください。もし、仮に、隠して持って降りたりなどしましたら命の保証は致しません」

 それでもこっそり持っていこうとした男がバレてどこかに連れて行かれた。
 軽い冗談だろうと周りの奴ら言っていたが問答無用の連行に慈悲はない。

 同じ轍は踏みたくないのでリュードも武器を投げ捨てる。
 トーイはそっとメイスを床に置いて闘技場を後にする。

「あ、ありがとうございます、リュードさん。おかげで助かりました」

 吐いてしまいそうな顔色のままトーイが頭を下げる。
 リュードと同じ組でなかったらトーイは今頃馬車に積まれて運ばれていたことだろう。

 このくだらない大会がいつまで続くのかは分からない。
 けれどこの調子で人が減っていく形式で戦いが続くのならトーイが生きていられる時間はそう長くはない。

 いつまでも守ってやることはできない。
 リュードはトーイを見返しただけで何も言わなかった。

 また控え室のようなところに戻される。
 ずいぶんと目減りした奴隷たちの中にウロダの姿があった。

 さらっと見たところくじ引き時にいた人たちと同じメンツがいるように見えた。

 ウバの他の奴隷たちは見当たらなかったのでウロダに聞いてみると静かに首を振った。
 低ランクの冒険者の奴隷の男なら希望はあると思ったがどちらも生き残ることができなかった。

 他にも控え室があるようなので全体で何人いて、何人残っているのか分からない。
 外を見るとすでに日が落ちてきていて、この後の展開もわからない。

 残された奴隷たちを確認してみる。
 バトルロイヤルはある程度の振り分けだったのかトーイのような明らかに戦い慣れしてなさそうな人が全くいなくなっていた。

 あの形式なら当然だが残っているのは多少でも腕に覚えがある人になるだろう。
 それぞれが距離をとって誰も口を開くことなく時を待つ。

「今日はこれで終わりですのでお帰りください」

 係員が来て外に出るように言われて、リュードたちはコロシアムの外で待つウバたちにまた馬車に乗せられて宿に戻った。
 悲しいかな、二人減った馬車は広い。

 しかし広々と使えるなんて明るい気分にはとてもなれなかった。
 そこからまた宿で監禁状態で過ごした。
 
 コロシアムからわずかに歓声が聞こえてくるのでバトルロイヤルが続けられているのだとリュードは思った。
 二日後、もはや慣れてきてしまった馬車に乗り込みコロシアムに向かう。
 
 ウバの心にもない応援を聞き流して控え室に行くとテーブルが置いてあった。
 促されるままに席に座り、奴隷たちが集まると食事が運ばれてきた。
 
 肉や野菜、魚など豪勢な料理。
 正直宿の飯もさほど美味しくなかったので目の前の料理が美味しそうに見えて仕方がない。
 
「皆様にはしっかりと英気を養っていただきたく思いまして。遠慮なく食べてください」

 やや鼻につく言い方だなと思うけれど今は食べられる時に食べておかねばならない。
 一欠片の体力が後々響いてくることだってあり得るのだ。

 リュードは肉中心に食べていく。
 味も絶品でちゃんとした料理人が作っていることが分かる。

 本当に変な大会だと食べながら思う。
 ここで飯を食わせる意味が理解できない。

 他の参加者たちも食い溜めるように食事を腹に詰め込んでいく。
 お上品に召し上がっていたのはトーイぐらいである。

「それでは次に参りましょうか」

 食事も終え、リュードたちは移動させられる。
 コロシアムではなく、外に案内されると荷馬車が並んでいた。

 四角い箱を半分にしたような荷物を乗せるだけの荷馬車。
 ウバのところの馬車はまだ屋根があった箱型だったのに少しグレードが下がったようにも感じる。

 それぞれ馬車に乗るように指示されて乗り込むと馬車が移動を始めた。
 全ての馬車が同じ方向に行くのではなくて、別々の方向に移動する。

 またリュードとトーイは同じ馬車に乗り込み、ヒソヒソと会話をする。

「……どこに行くんでしょうか」

「さあてな……」

 目的が分からない。
 時折町中に止まっては1人、まだ1人と降ろされていく。

 本当に町中になのでこんなところで戦うのかとリュードは首を捻った。

「リュ、リュードさぁぁん!」

「トーイ……頑張れよ!」

 1人ずつ降ろされるので当然トーイとはお別れになる。
 リュードよりもトーイの方が先に降ろされて絶望したような目でリュードの乗った馬車を見ていた。

 こうして馬車の上にはリュード1人となった。
 町中を抜けて、マヤノブッカの郊外にまで馬車は来ていた。

 町外れにある小さな小屋の前でリュードは降ろされた。

「それではこちらです」

 小屋の前にいた変な仮面の係員が小屋の中に入っていく。

「こちらからお降りください」

 小屋の中には地下へと続く階段があった。
 後ろから槍を突きつけられてはどうしようもなくリュードはため息をついて階段を降りていく。