結ばれていたために手首の跡が痛む手首をさする。
フワフワのタオルで結んでくれとは言わないが荒めの縄でキツく結ぶこともないだろうにと思う。
「ああ……くそっ……」
見ると赤くなっていて、中々縄の跡が消えないぐらいに残っている。
魔道具による魔力の拘束を受けているので大丈だろうと手の縄は外してもらえた。
リュードとトーイはウバと名乗る女性貴族の私兵によって馬車に乗せられた。
椅子もない箱のような馬車に乗せられて物のように運ばれていった。
ウバの周りにいる私兵は女性がほとんどでリュードたちを世話してくれる私兵も多くが女性で男性は少しだけだった。
やはり女性の方が立場が上のようで男性兵士はヘコヘコとしていた。
馬車にある唯一の小さな窓から空を眺めるしかないような手持ち無沙汰な時間が流れて、トーイはふと自分の身の上話を始めた。
トーイには婚約者がいて、婚約者の故郷に行って新しく生活を始める予定だった。
身の回りを整理してさっさと国を移ろうとしていたところで急激な眠気に襲われて、気づいたら牢屋にいたと話してくれた。
「この国に住む女性はみんな強いですからね。きっと彼女も私のことなんか忘れて次に進んでますよ」
膝を抱えて小さくなったトーイの雰囲気は暗い。
婚約までしておいてそんな軽く忘れられるものじゃないとリュードは思うのだけど、女性を考えるベースがルフォンなのでなんとも言えない。
ルフォンが世の一般の女性の枠に収まりきらない人であることは分かっている。
リュードのことをルフォンは絶対に諦めないだろう。
それが分かっているがゆえに一般的な女性がどうするのか分からないのだ。
こんな状況で気軽に元気出せとも言い難い。
ひとまず最悪ではない。
なぜなら買われたという状況は悪いけれどわざわざ馬車にも乗せてくれているところを見ると意外と悪くはない人だとは思う。
馬車に走ってついてこいなんて非道な奴がいないわけじゃない。
奴隷を非合法的にオークションで買う人は悪い人だけど最悪最低な人では今のところないと言ってよかった。
だからといってリュードの中の心象がプラスになることもないのだけど。
ただ心の中でぐらいプラスなことを考えていないとトーイに引きずられて自分までネガティブな思考になってしまいそうだ。
「降りるんだ」
馬車の戸が叩かれてトーイが飛び上がりそうなほど驚く。
ネガティブな思考に耽っていたのか人が近づいていることに気づいていなかった。
これぐらいでビビっていたらこの先に待ち受けるだろう扱いに持ち堪えられないぞとリュードはため息をついた。
馬車で走ること数日、降りてみると目の前にはそこそこ大きなお屋敷があった。
兵士にバレないようにこっそりと周りの様子をうかがう。
塀が高くて外の様子はほとんど見えなかったが門から少しだけ外が見えた。
町中ではなく町から離れたところか、少なくとも郊外のようである。
馬車の中でも喧騒は聞こえてこなかったのでもしかしたらここも本邸ではなく、別荘か何かかもしれない。
リュードとトーイは兵士に促されて屋敷の中に入る。
通された部屋にはリュードたちと同じように上半身が裸で首輪をつけられている数人の男たちがいた。
首輪を付けることはいいのだがなぜみんな上半身裸なのだ。
奴隷は上の服を着ちゃいけない法律でもあるのだろうかとリュードは内心で苦々しい思いだった。
「なんだ、またほっそいのが来たな!」
早速歓迎のご挨拶が飛んでくる。
部屋の奥で偉そうに腕を組んで座っていた男がリュードたちの前に来る。
身長が高いリュードよりも頭1つ大きく、体つきも全身が筋肉で覆われていてがっしりとしてデカい。
筋肉魔法使いのバーナードよりも体格的にはデカかった。
この男を基準としてしまえば世のほとんどの男性は細いと表現せざるを得ない。
見下すような目をしている男にリュードは不快感を感じる。
一方でトーイは怯えてリュードの後ろに隠れるようにしていた。
殴り倒してしまいたい気持ちを抑えてリュードは男のことを無視した。
問題を起こしてもいいことなどないからだ。
むしろこの男の方から手を出してくれたら助かるのにと思っている。
そうなれば殴り飛ばす口実ぐらいにはなる。
「チッ……」
見逃してやったのはリュードの方なのに、視線を合わせないリュードとオドオドとしているトーイを怖気付いたらと思い込んだ男は盛大に舌打ちして席に戻る。
奴隷の大将になったところで面白くもない。
新入りを軽く威嚇しただけで、上下関係を教えてやったぐらいに考えていた。
「みなさん、お揃いで……」
「おい! 早くこの変な首輪を……」
ウバが若い女性兵士を連れて部屋に入ってきた。
仮面を取ったウバは妙齢の女性で声の感じと大きく印象のずれていない若い人だった。
どうやら脳みそまで筋肉だったようで、リュードたちに食ってかかった筋肉奴隷がすぐさまウバに食ってかかる。
首輪を外せとウバに迫ろうとした筋肉奴隷はウバの連れてきた女性兵士に一瞬で組み伏せられる。
「お望みなら首ごと切り落として取って差し上げましょうか?」
「はなしやがれ! このクソ女が……」
「口が減らない男だな!」
「うぎゃああああ!」
魔力の使えない筋肉奴隷と魔力の使える女性兵士だと女性兵士の方が強かった。
ボキリと鈍い音がして女性兵士は組み伏せた筋肉奴隷の腕を折った。
ためらいのない制裁にトーイが顔を青くするがリュードはその様子を冷たく見ていた。
フワフワのタオルで結んでくれとは言わないが荒めの縄でキツく結ぶこともないだろうにと思う。
「ああ……くそっ……」
見ると赤くなっていて、中々縄の跡が消えないぐらいに残っている。
魔道具による魔力の拘束を受けているので大丈だろうと手の縄は外してもらえた。
リュードとトーイはウバと名乗る女性貴族の私兵によって馬車に乗せられた。
椅子もない箱のような馬車に乗せられて物のように運ばれていった。
ウバの周りにいる私兵は女性がほとんどでリュードたちを世話してくれる私兵も多くが女性で男性は少しだけだった。
やはり女性の方が立場が上のようで男性兵士はヘコヘコとしていた。
馬車にある唯一の小さな窓から空を眺めるしかないような手持ち無沙汰な時間が流れて、トーイはふと自分の身の上話を始めた。
トーイには婚約者がいて、婚約者の故郷に行って新しく生活を始める予定だった。
身の回りを整理してさっさと国を移ろうとしていたところで急激な眠気に襲われて、気づいたら牢屋にいたと話してくれた。
「この国に住む女性はみんな強いですからね。きっと彼女も私のことなんか忘れて次に進んでますよ」
膝を抱えて小さくなったトーイの雰囲気は暗い。
婚約までしておいてそんな軽く忘れられるものじゃないとリュードは思うのだけど、女性を考えるベースがルフォンなのでなんとも言えない。
ルフォンが世の一般の女性の枠に収まりきらない人であることは分かっている。
リュードのことをルフォンは絶対に諦めないだろう。
それが分かっているがゆえに一般的な女性がどうするのか分からないのだ。
こんな状況で気軽に元気出せとも言い難い。
ひとまず最悪ではない。
なぜなら買われたという状況は悪いけれどわざわざ馬車にも乗せてくれているところを見ると意外と悪くはない人だとは思う。
馬車に走ってついてこいなんて非道な奴がいないわけじゃない。
奴隷を非合法的にオークションで買う人は悪い人だけど最悪最低な人では今のところないと言ってよかった。
だからといってリュードの中の心象がプラスになることもないのだけど。
ただ心の中でぐらいプラスなことを考えていないとトーイに引きずられて自分までネガティブな思考になってしまいそうだ。
「降りるんだ」
馬車の戸が叩かれてトーイが飛び上がりそうなほど驚く。
ネガティブな思考に耽っていたのか人が近づいていることに気づいていなかった。
これぐらいでビビっていたらこの先に待ち受けるだろう扱いに持ち堪えられないぞとリュードはため息をついた。
馬車で走ること数日、降りてみると目の前にはそこそこ大きなお屋敷があった。
兵士にバレないようにこっそりと周りの様子をうかがう。
塀が高くて外の様子はほとんど見えなかったが門から少しだけ外が見えた。
町中ではなく町から離れたところか、少なくとも郊外のようである。
馬車の中でも喧騒は聞こえてこなかったのでもしかしたらここも本邸ではなく、別荘か何かかもしれない。
リュードとトーイは兵士に促されて屋敷の中に入る。
通された部屋にはリュードたちと同じように上半身が裸で首輪をつけられている数人の男たちがいた。
首輪を付けることはいいのだがなぜみんな上半身裸なのだ。
奴隷は上の服を着ちゃいけない法律でもあるのだろうかとリュードは内心で苦々しい思いだった。
「なんだ、またほっそいのが来たな!」
早速歓迎のご挨拶が飛んでくる。
部屋の奥で偉そうに腕を組んで座っていた男がリュードたちの前に来る。
身長が高いリュードよりも頭1つ大きく、体つきも全身が筋肉で覆われていてがっしりとしてデカい。
筋肉魔法使いのバーナードよりも体格的にはデカかった。
この男を基準としてしまえば世のほとんどの男性は細いと表現せざるを得ない。
見下すような目をしている男にリュードは不快感を感じる。
一方でトーイは怯えてリュードの後ろに隠れるようにしていた。
殴り倒してしまいたい気持ちを抑えてリュードは男のことを無視した。
問題を起こしてもいいことなどないからだ。
むしろこの男の方から手を出してくれたら助かるのにと思っている。
そうなれば殴り飛ばす口実ぐらいにはなる。
「チッ……」
見逃してやったのはリュードの方なのに、視線を合わせないリュードとオドオドとしているトーイを怖気付いたらと思い込んだ男は盛大に舌打ちして席に戻る。
奴隷の大将になったところで面白くもない。
新入りを軽く威嚇しただけで、上下関係を教えてやったぐらいに考えていた。
「みなさん、お揃いで……」
「おい! 早くこの変な首輪を……」
ウバが若い女性兵士を連れて部屋に入ってきた。
仮面を取ったウバは妙齢の女性で声の感じと大きく印象のずれていない若い人だった。
どうやら脳みそまで筋肉だったようで、リュードたちに食ってかかった筋肉奴隷がすぐさまウバに食ってかかる。
首輪を外せとウバに迫ろうとした筋肉奴隷はウバの連れてきた女性兵士に一瞬で組み伏せられる。
「お望みなら首ごと切り落として取って差し上げましょうか?」
「はなしやがれ! このクソ女が……」
「口が減らない男だな!」
「うぎゃああああ!」
魔力の使えない筋肉奴隷と魔力の使える女性兵士だと女性兵士の方が強かった。
ボキリと鈍い音がして女性兵士は組み伏せた筋肉奴隷の腕を折った。
ためらいのない制裁にトーイが顔を青くするがリュードはその様子を冷たく見ていた。