「だいぶ良くなってきたじゃないか」
「ホント?」
「ああ、筋がいいよ」
「ふふん、とーぜんよー!」
そう言いつつもラストは嬉しそうにニコニコと笑う。
やはりセンスがあり、それを活かせるだけの身体能力もあるとリュードは思った。
リュードがラストに剣を教えてからラストは目に見えて上達していった。
小さい頃、まだ周りから本気で牽制される前に基本的なことは学んでいたので少し教えてやると剣にもすぐに慣れた。
リュードやルフォンと組み手する形で戦い、早くも実戦でも使えるだろうレベルにも到達していた。
飲み込みが早くて師匠であるリュードも大満足である。
「外だと気兼ねなくていいな」
町を出発して人の目がなくなったのでようやくいつも通りに接することができる。
こうして普通に話している方が一歩下がって丁寧にするよりも遥かに楽である。
リュードとラストが修行をしている間にルフォンは取り出したコンロで料理を作っていた。
家に備え付けるサイズのコンロを持ち歩いて外で使うなんて人は他にはいない。
ラストもビックリしていたけどリュードとルフォンなら有り得るか、と微妙な納得の仕方をしていた。
ティアローザでは監視の目がある可能性が排除しきれずにほとんど使えなかったのでルフォンもコンロをようやく使えてルンルン気分である。
外でも温かくて美味い飯が食べられるので旅もあんまり苦にならない。
「それじゃあ今日はこれぐらいにしようか」
「はーい! おーわり! 私さ、知らなかった。こんな国があるなんてさ。世界って広いんだね」
「いや、俺も知らなかったよ」
ラストは剣を収めると焚き火の近くの地面に座って休む。
トゥジュームに関しては知らずともラストが世間知らずだったと言い切ることはできない。
国によって様々な文化があるわけであるし一つ一つの国全てについて知っている方がおかしい。
ただトゥジュームは特殊すぎる。
リュードやルフォンだってトゥジュームのことを知らなかったし、トゥジュームに入る前に聞いた話よりもトゥジュームの価値観は極端であった。
「ティアローザの国内を回るだけでも大冒険だったのにこんな風に旅できるなんて夢みたい! それも、友達と一緒に……」
少し顔を赤くするラスト。
ベギーオを倒した後はいつリュードとルフォンとお別れになるかということばかり考えていた。
もう二度と会うこともない。
そんなことを思っていたのに何の責任も必要性もなく、また二人と旅ができることが楽しくてしょうがない。
見るもの全てが輝いて、聞くもの全てが新鮮に聞こえる。
最初の出会いがアレだったのでリュードがラストに丁寧な態度を取ることがなく、今こうして敬語を使われるというのも中々面白いと思っていた。
「へへ……なんだろう、疲れちゃったのかな? 眠く……なってきた…………」
「ラスト?」
「リュー……ちゃん」
「ルフォン! 二人ともどうした……」
眠そうに目をこするラスト。
知らぬ間に疲労が溜まっていたのかと思ったが料理をしていたルフォンが倒れるように意識を手放して寝てしまった。
眠くても料理の最中に寝ることなんてあり得ない。
リュードは慌てて立ちあがろうとしたが体に力が入らない。
グラリと視界が大きく揺れてリュードも何か異常事態が起きていることを悟った。
まぶたが重くなっていき、頭がぼんやりとし始める。
思考が鈍って霧がかったように感じられる。
「これは……毒か?」
相手を殺すタイプの毒ではない。
睡眠薬に近い、相手を無力化する毒だと気づいた。
一体いつから、どこから、誰が。
毒に強いリュードでさえ効いてきているのだからルフォンやラストに耐えられるはずもない。
いつの間にかラストも目を閉じて寝息を立てていて、起きているのはリュードだけであった。
もしかしたら気づかない間に長時間毒にさらされていたのかもしれない。
剣を杖のようについて力の入らない体を支えて耐える。
おぼつかない足取りでテントの方に向かう。
耐え抜けば荷物の中に解毒薬がある。
この睡眠薬のようなものに効くかは分からないけれど何もしないよりはマシだ。
「あれー? まだ起きていますよ」
「本当だな。こりゃ気合があって高く売れそうだ」
「どうする?」
「殴って気絶させろ。どうにか耐えてるだけだから衝撃与えりゃ眠んだろ」
「了解」
すごく遠くでうっすらと話しているように声が聞こえた。
変な感じに歪んで聞こえるのでなんと言っているのかリュードには分からない。
しかし実際はそれほど遠くでなく近くにいた。
視界もぼやけて歪み、自分が前に進んでいるのかも分からなくなってきた。
「ごめんねー」
何かをされた。
頭を殴られたのだけどただひどく衝撃を受けたことだけしか頭は理解してくれず、衝撃によって必死に手放すまいとしていた意識が遠のいていった。
「ふーん、金目のもの持ってそうだね」
毒を撒き、リュードを殴りつけたのは数人の女性たちだむた。
リュードたちの荷物を見てニヤリと笑う彼女たちは噂の人攫いであった。
「あ、姉御! こいつ、無茶苦茶重いです!」
「ああ? しゃあねえな……みんなで運ぶぞ! まずは男の方が優先だ」
リュードは相当鍛えているのでそうは見えずともかなり重量感がある。
女性一人や二人では持ち上げられもせず、その場にいた全員でリュードを持ち上げる。
人攫いにとってリュードは商品。
丁寧に傷つかないように運んでいった。
リュードたちにバレないように荷物を乗せる馬車は遠くに置いてあったことを人攫いたちは疎ましく思った。
「んっ……」
リュードが運ばれていってからさほど時間もたたず、ルフォンが目を覚ました。
「あっつい……」
毒に耐性の低いはずのルフォンがこれほどまでに早く目を覚ましたのには理由があった。
なんだか胸元が熱い。
ルフォンがスッと胸に手を入れて取り出したのはネックレスである。
リュードが誕生日にくれたものでルフォンはいつもこのネックレスを身につけていた。
ネックレスが熱いほどに熱を持っている。
このネックレスにはリュードが解毒の魔法をかけていた。
無効化出来るほどの強力な作用は及ぼせないが解毒の効果は確実に発揮されていた。
ルフォンの体内に入り込んだ毒をネックレスが解毒してくれていたのである。
ぼんやりとネックレスを見つめている間にもその効果は発揮され続け、頭がはっきりとしてくる。
「リュー、ちゃん? ……リューちゃん!」
リュードがいない。
ラストはとうとう地べたに横になって眠っているが、リュードの姿がどこにもない。
「リューちゃーん!」
この眠くなった原因と戦いにいったのかと思ったが、テントの側にリュードの剣が落ちていた。
剣も持たずに戦いに行くはずもなく、こんな風に地面に剣を捨て置くこともしない。
「げっ、なんか起きちゃってますよ!」
「チッ……しょうがないな。目的は果たしたし、ずらかるぞ」
「ええっ! なんか色々ありそうですよ!」
「この毒だって無限に使えるもんじゃねえんだ。こんなすぐに起き上がるやつ強いに決まってんだろ。とっとと逃げる。これが長く生き残るために必要なことだよ」
「もったいないなぁ……」
ルフォンが大声でリュードを探すものだから人攫いたちに気づかれてしまった。
人攫いたちは遠くからリュードを探しているルフォンの姿を見てさっさと撤退してしまう。
リュードがいなくなった。
匂いで探そうにも料理の途中で倒れてしまったために鍋の焦げついた臭いが広がっていて鼻も効かない。
ラストだってそのままにしておくわけにはいかない。
ルフォンは青い顔をして、一人どうしたらいいか必死に考えていた。
「ホント?」
「ああ、筋がいいよ」
「ふふん、とーぜんよー!」
そう言いつつもラストは嬉しそうにニコニコと笑う。
やはりセンスがあり、それを活かせるだけの身体能力もあるとリュードは思った。
リュードがラストに剣を教えてからラストは目に見えて上達していった。
小さい頃、まだ周りから本気で牽制される前に基本的なことは学んでいたので少し教えてやると剣にもすぐに慣れた。
リュードやルフォンと組み手する形で戦い、早くも実戦でも使えるだろうレベルにも到達していた。
飲み込みが早くて師匠であるリュードも大満足である。
「外だと気兼ねなくていいな」
町を出発して人の目がなくなったのでようやくいつも通りに接することができる。
こうして普通に話している方が一歩下がって丁寧にするよりも遥かに楽である。
リュードとラストが修行をしている間にルフォンは取り出したコンロで料理を作っていた。
家に備え付けるサイズのコンロを持ち歩いて外で使うなんて人は他にはいない。
ラストもビックリしていたけどリュードとルフォンなら有り得るか、と微妙な納得の仕方をしていた。
ティアローザでは監視の目がある可能性が排除しきれずにほとんど使えなかったのでルフォンもコンロをようやく使えてルンルン気分である。
外でも温かくて美味い飯が食べられるので旅もあんまり苦にならない。
「それじゃあ今日はこれぐらいにしようか」
「はーい! おーわり! 私さ、知らなかった。こんな国があるなんてさ。世界って広いんだね」
「いや、俺も知らなかったよ」
ラストは剣を収めると焚き火の近くの地面に座って休む。
トゥジュームに関しては知らずともラストが世間知らずだったと言い切ることはできない。
国によって様々な文化があるわけであるし一つ一つの国全てについて知っている方がおかしい。
ただトゥジュームは特殊すぎる。
リュードやルフォンだってトゥジュームのことを知らなかったし、トゥジュームに入る前に聞いた話よりもトゥジュームの価値観は極端であった。
「ティアローザの国内を回るだけでも大冒険だったのにこんな風に旅できるなんて夢みたい! それも、友達と一緒に……」
少し顔を赤くするラスト。
ベギーオを倒した後はいつリュードとルフォンとお別れになるかということばかり考えていた。
もう二度と会うこともない。
そんなことを思っていたのに何の責任も必要性もなく、また二人と旅ができることが楽しくてしょうがない。
見るもの全てが輝いて、聞くもの全てが新鮮に聞こえる。
最初の出会いがアレだったのでリュードがラストに丁寧な態度を取ることがなく、今こうして敬語を使われるというのも中々面白いと思っていた。
「へへ……なんだろう、疲れちゃったのかな? 眠く……なってきた…………」
「ラスト?」
「リュー……ちゃん」
「ルフォン! 二人ともどうした……」
眠そうに目をこするラスト。
知らぬ間に疲労が溜まっていたのかと思ったが料理をしていたルフォンが倒れるように意識を手放して寝てしまった。
眠くても料理の最中に寝ることなんてあり得ない。
リュードは慌てて立ちあがろうとしたが体に力が入らない。
グラリと視界が大きく揺れてリュードも何か異常事態が起きていることを悟った。
まぶたが重くなっていき、頭がぼんやりとし始める。
思考が鈍って霧がかったように感じられる。
「これは……毒か?」
相手を殺すタイプの毒ではない。
睡眠薬に近い、相手を無力化する毒だと気づいた。
一体いつから、どこから、誰が。
毒に強いリュードでさえ効いてきているのだからルフォンやラストに耐えられるはずもない。
いつの間にかラストも目を閉じて寝息を立てていて、起きているのはリュードだけであった。
もしかしたら気づかない間に長時間毒にさらされていたのかもしれない。
剣を杖のようについて力の入らない体を支えて耐える。
おぼつかない足取りでテントの方に向かう。
耐え抜けば荷物の中に解毒薬がある。
この睡眠薬のようなものに効くかは分からないけれど何もしないよりはマシだ。
「あれー? まだ起きていますよ」
「本当だな。こりゃ気合があって高く売れそうだ」
「どうする?」
「殴って気絶させろ。どうにか耐えてるだけだから衝撃与えりゃ眠んだろ」
「了解」
すごく遠くでうっすらと話しているように声が聞こえた。
変な感じに歪んで聞こえるのでなんと言っているのかリュードには分からない。
しかし実際はそれほど遠くでなく近くにいた。
視界もぼやけて歪み、自分が前に進んでいるのかも分からなくなってきた。
「ごめんねー」
何かをされた。
頭を殴られたのだけどただひどく衝撃を受けたことだけしか頭は理解してくれず、衝撃によって必死に手放すまいとしていた意識が遠のいていった。
「ふーん、金目のもの持ってそうだね」
毒を撒き、リュードを殴りつけたのは数人の女性たちだむた。
リュードたちの荷物を見てニヤリと笑う彼女たちは噂の人攫いであった。
「あ、姉御! こいつ、無茶苦茶重いです!」
「ああ? しゃあねえな……みんなで運ぶぞ! まずは男の方が優先だ」
リュードは相当鍛えているのでそうは見えずともかなり重量感がある。
女性一人や二人では持ち上げられもせず、その場にいた全員でリュードを持ち上げる。
人攫いにとってリュードは商品。
丁寧に傷つかないように運んでいった。
リュードたちにバレないように荷物を乗せる馬車は遠くに置いてあったことを人攫いたちは疎ましく思った。
「んっ……」
リュードが運ばれていってからさほど時間もたたず、ルフォンが目を覚ました。
「あっつい……」
毒に耐性の低いはずのルフォンがこれほどまでに早く目を覚ましたのには理由があった。
なんだか胸元が熱い。
ルフォンがスッと胸に手を入れて取り出したのはネックレスである。
リュードが誕生日にくれたものでルフォンはいつもこのネックレスを身につけていた。
ネックレスが熱いほどに熱を持っている。
このネックレスにはリュードが解毒の魔法をかけていた。
無効化出来るほどの強力な作用は及ぼせないが解毒の効果は確実に発揮されていた。
ルフォンの体内に入り込んだ毒をネックレスが解毒してくれていたのである。
ぼんやりとネックレスを見つめている間にもその効果は発揮され続け、頭がはっきりとしてくる。
「リュー、ちゃん? ……リューちゃん!」
リュードがいない。
ラストはとうとう地べたに横になって眠っているが、リュードの姿がどこにもない。
「リューちゃーん!」
この眠くなった原因と戦いにいったのかと思ったが、テントの側にリュードの剣が落ちていた。
剣も持たずに戦いに行くはずもなく、こんな風に地面に剣を捨て置くこともしない。
「げっ、なんか起きちゃってますよ!」
「チッ……しょうがないな。目的は果たしたし、ずらかるぞ」
「ええっ! なんか色々ありそうですよ!」
「この毒だって無限に使えるもんじゃねえんだ。こんなすぐに起き上がるやつ強いに決まってんだろ。とっとと逃げる。これが長く生き残るために必要なことだよ」
「もったいないなぁ……」
ルフォンが大声でリュードを探すものだから人攫いたちに気づかれてしまった。
人攫いたちは遠くからリュードを探しているルフォンの姿を見てさっさと撤退してしまう。
リュードがいなくなった。
匂いで探そうにも料理の途中で倒れてしまったために鍋の焦げついた臭いが広がっていて鼻も効かない。
ラストだってそのままにしておくわけにはいかない。
ルフォンは青い顔をして、一人どうしたらいいか必死に考えていた。