宿でもちょっとだけ問題があった。
空き部屋の都合から四人部屋を二つで男女に分けるか、四人部屋一つで済ますかの選択があった。
お金にも余裕があるし四人部屋二つで男女分けて使おうと思ったのだけど宿屋の店主がいい顔をしなかった。
この店主も当然女性なのだが男性が一人で四人部屋を悠々と使うことに眉をひそめられたのである。
たった一泊するのにもそんな顔をされて、仕方なく四人部屋を三人で使うことになった。
「別にいいじゃん……」
二部屋借りてもらった方が宿の利益になるというのにそれを上回って男性が一人で部屋を使うことが嫌だなんていうほどの非常に頑なな女性社会。
トゥジュームのことはその手前の国の時点で聞いていたが、話に聞いていた以上に徹底している感じがある。
リュードとしては肩身が狭く感じるのだけどそうしたことに抵抗がないなら住みやすい国だとは言われていた。
女性が男性を守る国なので魔物が討伐できない非力な男性でも構わず、偉そうな男性に辟易した女性はこの国に移ってきたりもする。
ここまで徹底しているので治安も良くて、唯一の価値観の元に団結して相互協力も盛んで結びつきも強い。
ヒモになりたい男性も女性が稼いでくるし周りが助けてくれるので多少顔が良ければ何もせずに暮らせてしまうなんてうそぶくやつもいた。
だからといって男性の権利が軽んじられていたりするのでもないので価値観に合えば悪くない国である。
確かに道は綺麗だし荒れて暴れるようなものも見かけはしなかった。
統制が取られていて安定している国ではある。
「さっさとこの国を抜けて行こう」
価値観はそれぞれなので否定するつもりはなくてもリュードには合わない。
女性を下ではなく、対等に扱ったとしても白い目で見られるのでたまったものではない。
食事や買い物のためにも外に出なきゃいけないと思うと憂鬱な気分になってくる。
「いい男連れてんね?」
宿の部屋で料理するわけにもいかないので外で食事を取る。
料理の注文なんかもルフォンとラストに任せてリュードは小さくなって黙っておく。
適当に選んだお店だったけれどそれなりに繁盛していて席は埋まっている。
当たり外れの多い外食だけど今回は当たりの雰囲気があるなと少し期待していた。
料理を待っていると隣のテーブルに座っていた冒険者らしき女性が声をかけてきた。
「ふーん、私の好みの顔してるね。どうだい、そんなひ弱そうな女たちじゃなくて私のところに来ないかい?」
男性が女性に声をかけるようにトゥジュームでは女性が男性に声をかける。
特に成功するとも思っていない、要するにナンパみたいなものだ。
「ありがとうございます。でも俺には彼女たちがいますので……」
「そうかい? でも気が変わったら私のところに来な。可愛がってあげるよ」
角が立たないように丁寧にお断りする。
基本的に軽いナンパなら無理矢理に続けるようなことはしない。
トゥジュームにおける男性の良し悪しの基準は顔が大きな割合を占める。
顔さえ良ければ養ってもいいなんて思う女性も少数派ではないのだ。
リュードは間違いなく顔がいい。
その上でトゥジュームに多くいる男性の特徴としてはナヨっとした人が多いのだけど、リュードにはナヨっとした雰囲気はない。
キリリとした、力強い印象のあるリュードは周りの視線を自然と集めていた。
何も白い目ばかりが向けられているのではなく、そうではない視線も意外と多かったのである。
「この国だとリュードもモテモテかもねー」
「この国だとってなんだ……ですか」
自分が上とか相手が上とかじゃなくて互いに尊重できるのがいい。
例えモテたとしてもこの国だとリュードの価値観とは合わなすぎる。
料理が来て食べている間も見られているような、なんとなく気まずい感じが常にあった。
「可愛い男の人連れていますね」
消耗品の補充にお店を回る。
こういう時に声をかけられて褒められるのは大体ルフォンかラストなのに今日ばかりはリュードへの褒め言葉を二人が聞かされることになる。
慣れない褒めにリュードも気恥ずかしい気分になり、可愛い子だからちょっとおまけしちゃうなんてしてくれた。
いいんだか悪いんだか分からなくなってきてしまう。
「ちゃんとしてそうだし、強そうだから心配ないと思うけど気をつけるんだよ。最近ここいらで人を攫ってる奴らがいるって噂だからね」
「人攫いですか?」
「ええ、あくまでも噂だけど顔のいい男を選んで誘拐する話があちこちから聞こえてきてるんだよ。まだここだと大丈夫だと思うけどもっと大きな都市に行くなら気をつけておいた方がいいよ」
顔の良い男性を狙った人攫いとはまたトゥジュームならではの話だとリュードたちは驚く。
「リュードも攫われちゃうかもね?」
「そうだな、そん時は守ってくれよ?」
「まっかせなさい!」
まさか攫われることなんてない。
攫いに来たってリュードたちを倒して攫える程の人が来たら人攫いなんてやらずとも稼げるだろう。
リュードの軽い冗談にラストが胸を張って答える。
「ありがとうございます」
「……これ、あの子たちには秘密だよ」
お店のおばちゃんはリュードにこっそりとお菓子を渡してウインクした。
確かに顔がいいとそれなりにこの国ではチヤホヤされそうな気配はあった。
ーーーーー
空き部屋の都合から四人部屋を二つで男女に分けるか、四人部屋一つで済ますかの選択があった。
お金にも余裕があるし四人部屋二つで男女分けて使おうと思ったのだけど宿屋の店主がいい顔をしなかった。
この店主も当然女性なのだが男性が一人で四人部屋を悠々と使うことに眉をひそめられたのである。
たった一泊するのにもそんな顔をされて、仕方なく四人部屋を三人で使うことになった。
「別にいいじゃん……」
二部屋借りてもらった方が宿の利益になるというのにそれを上回って男性が一人で部屋を使うことが嫌だなんていうほどの非常に頑なな女性社会。
トゥジュームのことはその手前の国の時点で聞いていたが、話に聞いていた以上に徹底している感じがある。
リュードとしては肩身が狭く感じるのだけどそうしたことに抵抗がないなら住みやすい国だとは言われていた。
女性が男性を守る国なので魔物が討伐できない非力な男性でも構わず、偉そうな男性に辟易した女性はこの国に移ってきたりもする。
ここまで徹底しているので治安も良くて、唯一の価値観の元に団結して相互協力も盛んで結びつきも強い。
ヒモになりたい男性も女性が稼いでくるし周りが助けてくれるので多少顔が良ければ何もせずに暮らせてしまうなんてうそぶくやつもいた。
だからといって男性の権利が軽んじられていたりするのでもないので価値観に合えば悪くない国である。
確かに道は綺麗だし荒れて暴れるようなものも見かけはしなかった。
統制が取られていて安定している国ではある。
「さっさとこの国を抜けて行こう」
価値観はそれぞれなので否定するつもりはなくてもリュードには合わない。
女性を下ではなく、対等に扱ったとしても白い目で見られるのでたまったものではない。
食事や買い物のためにも外に出なきゃいけないと思うと憂鬱な気分になってくる。
「いい男連れてんね?」
宿の部屋で料理するわけにもいかないので外で食事を取る。
料理の注文なんかもルフォンとラストに任せてリュードは小さくなって黙っておく。
適当に選んだお店だったけれどそれなりに繁盛していて席は埋まっている。
当たり外れの多い外食だけど今回は当たりの雰囲気があるなと少し期待していた。
料理を待っていると隣のテーブルに座っていた冒険者らしき女性が声をかけてきた。
「ふーん、私の好みの顔してるね。どうだい、そんなひ弱そうな女たちじゃなくて私のところに来ないかい?」
男性が女性に声をかけるようにトゥジュームでは女性が男性に声をかける。
特に成功するとも思っていない、要するにナンパみたいなものだ。
「ありがとうございます。でも俺には彼女たちがいますので……」
「そうかい? でも気が変わったら私のところに来な。可愛がってあげるよ」
角が立たないように丁寧にお断りする。
基本的に軽いナンパなら無理矢理に続けるようなことはしない。
トゥジュームにおける男性の良し悪しの基準は顔が大きな割合を占める。
顔さえ良ければ養ってもいいなんて思う女性も少数派ではないのだ。
リュードは間違いなく顔がいい。
その上でトゥジュームに多くいる男性の特徴としてはナヨっとした人が多いのだけど、リュードにはナヨっとした雰囲気はない。
キリリとした、力強い印象のあるリュードは周りの視線を自然と集めていた。
何も白い目ばかりが向けられているのではなく、そうではない視線も意外と多かったのである。
「この国だとリュードもモテモテかもねー」
「この国だとってなんだ……ですか」
自分が上とか相手が上とかじゃなくて互いに尊重できるのがいい。
例えモテたとしてもこの国だとリュードの価値観とは合わなすぎる。
料理が来て食べている間も見られているような、なんとなく気まずい感じが常にあった。
「可愛い男の人連れていますね」
消耗品の補充にお店を回る。
こういう時に声をかけられて褒められるのは大体ルフォンかラストなのに今日ばかりはリュードへの褒め言葉を二人が聞かされることになる。
慣れない褒めにリュードも気恥ずかしい気分になり、可愛い子だからちょっとおまけしちゃうなんてしてくれた。
いいんだか悪いんだか分からなくなってきてしまう。
「ちゃんとしてそうだし、強そうだから心配ないと思うけど気をつけるんだよ。最近ここいらで人を攫ってる奴らがいるって噂だからね」
「人攫いですか?」
「ええ、あくまでも噂だけど顔のいい男を選んで誘拐する話があちこちから聞こえてきてるんだよ。まだここだと大丈夫だと思うけどもっと大きな都市に行くなら気をつけておいた方がいいよ」
顔の良い男性を狙った人攫いとはまたトゥジュームならではの話だとリュードたちは驚く。
「リュードも攫われちゃうかもね?」
「そうだな、そん時は守ってくれよ?」
「まっかせなさい!」
まさか攫われることなんてない。
攫いに来たってリュードたちを倒して攫える程の人が来たら人攫いなんてやらずとも稼げるだろう。
リュードの軽い冗談にラストが胸を張って答える。
「ありがとうございます」
「……これ、あの子たちには秘密だよ」
お店のおばちゃんはリュードにこっそりとお菓子を渡してウインクした。
確かに顔がいいとそれなりにこの国ではチヤホヤされそうな気配はあった。
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