「お願いってなんだ?」
ベギーオはもういない。
反ラスト派の筆頭のベギーオがいなくなったのだからラストを脅かすような存在はいなくなったといってもよかった。
まだラストをよく思わない人はいるけれど王様の寵愛厚く、いまだに唯一健在な大領主でもあるラストは王位に一番近く表立って敵対する人などいない。
少なくともしばらくラストは平穏に暮らせることだろう。
それなのにラストがこんな顔をするなんてリュードは理由が想像できない。
少し頬を赤らめモジモジとしてラストは非常に言いにくそうにしている。
リュードは根気強くラストが話題を切り出してくれることを待った。
「その……リュードの血を分けて欲しいの!」
静かな部屋の中にラストの声が一度だけこだました。
「は……俺の血?」
「う、うん」
ラストが恥ずかしそうに頷く。
「私たち血人族って他の種族の血を飲まなきゃいけないんだ」
「ああ、それは知っているよ」
旅の途中でヴィッツが赤いクスリのようなものを飲んでいるところをリュードは目撃してしまった。
目があってマズイものを見てしまったかもしれないと気まずそうにするリュードにヴィッツはなんてことなく説明してくれた。
赤いクスリは血を濃縮して固めた錠剤で血人族が生きていく上で必要なものであると言っていた。
時々町に赤い液体みたいなマークの書かれたお店があることが気になっていた。
それは血のお店と言われていて他種族の献血を受け付けていたり血の錠剤を売っている場所であったのだ。
金に困ったりした他種族の血を買い取ったりして血を集めて錠剤に加工して血人族に販売していた。
前世であった献血みたいなものだなとリュードは思った。
「私も大人になったから血を飲むことになるんだけどさ、初めて血を飲むなら……リュードの血がいいなって」
要するに大人になって初めての飲酒みたいなものだとリュードは理解した。
健康体で魔力も高いリュードの血は血人族にとって良い血になる。
初めての血が適当なものとはいかない。
どうせならリュードの血がいいなとラストはお願いしにきたのである。
自分の血が血人族にとって美味いものなのかはリュードに判別は出来ないけど、これまでラストは頑張ってきたのだ、血ぐらいあげてもバチは当たらないだろうと考えた。
「俺は構わないぞ」
「本当!? ありがとう、リュード!」
不安そうな顔をしていたラストがパッと笑顔になる。
リュードは前世の記憶があるので献血的なものに抵抗が少なかったが、この世界でいきなり血をくださいなんで言えば良い顔はされないので不安だったのだ。
「けどどう血を取るんだ?」
まさかナイフでどこか切って絞り出してくださいというならちょっとお断りすることも頭をよぎる。
首筋にラストが牙を突き立てるぐらいなら我慢してやろうとは思う。
「昔は首から直飲みだったみたいだけど、今はそんなやり方はしないよ」
ラストが思わずリュードの首を見る。
顔を近づけて首に牙を突き立てることを想像してしまって顔が赤くなる。
頭だけ出して首にかじりつくのは難しいので自然と抱き合うような形が頭の中に浮かんでしまったのだ。
ちょっとだけ直飲みも悪くないかもと思う自分があることにラストは恥ずかしくなる。
「い、今は血を採ってから飲むから大丈夫だよ。リュードがいいなら今から取りたいんだけどいいかな?」
「それならまあ……今でもいいけど」
「ありがとう!」
ラストは嬉しそうに笑う。
大人になったのだし何かお祝いでもしてあげたかったから血が欲しいというならお祝い代わりになっていいかもしれない。
ラストは部屋の前に待機していたヴィッツを呼んだ。
小さい黒い皮のカバンを持っていたヴィッツはその中から採血道具を取り出した。
「針は大丈夫ですか?」
「……むしろ安心したよ」
どんな風に採血するか気になっていたけどヴィッツの持っている道具はリュードのいた前の世界のものに比較的近いものであった。
ナイフで切ってジワジワ絞り出すようなことにならなくて安心した。
血人族は血を摂らなきゃいけないために血液を凝縮させて錠剤する技術もそうだし、他にもちょっと特殊な技術も持っていた。
採血方法も針と管を使ったものであった。
あまりこの世界では見るものじゃないがリュードとしては見知ったものなので不安の少ないものだった。
ただ血を採るのは医者でなくヴィッツとなる。
なんでもできるヴィッツなので出来るとは思うけど資格者じゃない人に針を刺されるのは緊張する。
「ではいきますよ」
ブスリと針がリュードの腕に刺される。
採血方法は進んでいる血人族だけど医療が魔法に依存しているこの世界の医療技術はだいぶ遅れている。
ヴィッツがリュードに刺した針は前の世界に比べて太く、痛みが強かった。
「ほわぁ……」
瓶の中に溜まっていく血を眺めて、ラストがうっとりとした表情を浮かべる。
普通の女の子に見えても魔人族なのだ。
真人族にはない変態性がラストにもあった。
綺麗な赤い血をラストは美しいと思っている。
ただ血が溜まっていく様子に恍惚とするのはリュードから見ても若干変態っぽい。
生の血を飲むことは血人族にとって憧れである。
お酒を飲んだことがない子供がお酒に憧れてしまうような、ちょっとした熱を帯びたような視線を自分の血に向けられてリュードは恥ずかしい気持ちになった。
いつまで取り続けるのか聞けないまま血は取られ続け、そこそこ大きな瓶が一杯になるまでリュードは血を取られた。
「リュードありがとう!」
「お、おう……」
嬉しそうに血の入った瓶を抱えるラストを見ては文句も言えない。
かなりの量の血を採られたので貧血気味でぐったりするリュードを残して、ラストは軽やかな足取りで部屋を出て行った。
「ありがとうございました。こちらを」
「これは?」
「増血剤です。多めに血をいただきましたので」
ヴィッツはリュードに赤い錠剤を渡した。
血人族が飲んでいる血液の錠剤にも似ているけれど血を増やしてくれるもののようだった。
ヴィッツもペコリと頭を下げて部屋を出ていく。
こんなに大量に血を取られるのが普通なら二回目はないなと思いながら回復に努めようと増血剤を飲んでリュードは眠りについたのだった。
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ベギーオはもういない。
反ラスト派の筆頭のベギーオがいなくなったのだからラストを脅かすような存在はいなくなったといってもよかった。
まだラストをよく思わない人はいるけれど王様の寵愛厚く、いまだに唯一健在な大領主でもあるラストは王位に一番近く表立って敵対する人などいない。
少なくともしばらくラストは平穏に暮らせることだろう。
それなのにラストがこんな顔をするなんてリュードは理由が想像できない。
少し頬を赤らめモジモジとしてラストは非常に言いにくそうにしている。
リュードは根気強くラストが話題を切り出してくれることを待った。
「その……リュードの血を分けて欲しいの!」
静かな部屋の中にラストの声が一度だけこだました。
「は……俺の血?」
「う、うん」
ラストが恥ずかしそうに頷く。
「私たち血人族って他の種族の血を飲まなきゃいけないんだ」
「ああ、それは知っているよ」
旅の途中でヴィッツが赤いクスリのようなものを飲んでいるところをリュードは目撃してしまった。
目があってマズイものを見てしまったかもしれないと気まずそうにするリュードにヴィッツはなんてことなく説明してくれた。
赤いクスリは血を濃縮して固めた錠剤で血人族が生きていく上で必要なものであると言っていた。
時々町に赤い液体みたいなマークの書かれたお店があることが気になっていた。
それは血のお店と言われていて他種族の献血を受け付けていたり血の錠剤を売っている場所であったのだ。
金に困ったりした他種族の血を買い取ったりして血を集めて錠剤に加工して血人族に販売していた。
前世であった献血みたいなものだなとリュードは思った。
「私も大人になったから血を飲むことになるんだけどさ、初めて血を飲むなら……リュードの血がいいなって」
要するに大人になって初めての飲酒みたいなものだとリュードは理解した。
健康体で魔力も高いリュードの血は血人族にとって良い血になる。
初めての血が適当なものとはいかない。
どうせならリュードの血がいいなとラストはお願いしにきたのである。
自分の血が血人族にとって美味いものなのかはリュードに判別は出来ないけど、これまでラストは頑張ってきたのだ、血ぐらいあげてもバチは当たらないだろうと考えた。
「俺は構わないぞ」
「本当!? ありがとう、リュード!」
不安そうな顔をしていたラストがパッと笑顔になる。
リュードは前世の記憶があるので献血的なものに抵抗が少なかったが、この世界でいきなり血をくださいなんで言えば良い顔はされないので不安だったのだ。
「けどどう血を取るんだ?」
まさかナイフでどこか切って絞り出してくださいというならちょっとお断りすることも頭をよぎる。
首筋にラストが牙を突き立てるぐらいなら我慢してやろうとは思う。
「昔は首から直飲みだったみたいだけど、今はそんなやり方はしないよ」
ラストが思わずリュードの首を見る。
顔を近づけて首に牙を突き立てることを想像してしまって顔が赤くなる。
頭だけ出して首にかじりつくのは難しいので自然と抱き合うような形が頭の中に浮かんでしまったのだ。
ちょっとだけ直飲みも悪くないかもと思う自分があることにラストは恥ずかしくなる。
「い、今は血を採ってから飲むから大丈夫だよ。リュードがいいなら今から取りたいんだけどいいかな?」
「それならまあ……今でもいいけど」
「ありがとう!」
ラストは嬉しそうに笑う。
大人になったのだし何かお祝いでもしてあげたかったから血が欲しいというならお祝い代わりになっていいかもしれない。
ラストは部屋の前に待機していたヴィッツを呼んだ。
小さい黒い皮のカバンを持っていたヴィッツはその中から採血道具を取り出した。
「針は大丈夫ですか?」
「……むしろ安心したよ」
どんな風に採血するか気になっていたけどヴィッツの持っている道具はリュードのいた前の世界のものに比較的近いものであった。
ナイフで切ってジワジワ絞り出すようなことにならなくて安心した。
血人族は血を摂らなきゃいけないために血液を凝縮させて錠剤する技術もそうだし、他にもちょっと特殊な技術も持っていた。
採血方法も針と管を使ったものであった。
あまりこの世界では見るものじゃないがリュードとしては見知ったものなので不安の少ないものだった。
ただ血を採るのは医者でなくヴィッツとなる。
なんでもできるヴィッツなので出来るとは思うけど資格者じゃない人に針を刺されるのは緊張する。
「ではいきますよ」
ブスリと針がリュードの腕に刺される。
採血方法は進んでいる血人族だけど医療が魔法に依存しているこの世界の医療技術はだいぶ遅れている。
ヴィッツがリュードに刺した針は前の世界に比べて太く、痛みが強かった。
「ほわぁ……」
瓶の中に溜まっていく血を眺めて、ラストがうっとりとした表情を浮かべる。
普通の女の子に見えても魔人族なのだ。
真人族にはない変態性がラストにもあった。
綺麗な赤い血をラストは美しいと思っている。
ただ血が溜まっていく様子に恍惚とするのはリュードから見ても若干変態っぽい。
生の血を飲むことは血人族にとって憧れである。
お酒を飲んだことがない子供がお酒に憧れてしまうような、ちょっとした熱を帯びたような視線を自分の血に向けられてリュードは恥ずかしい気持ちになった。
いつまで取り続けるのか聞けないまま血は取られ続け、そこそこ大きな瓶が一杯になるまでリュードは血を取られた。
「リュードありがとう!」
「お、おう……」
嬉しそうに血の入った瓶を抱えるラストを見ては文句も言えない。
かなりの量の血を採られたので貧血気味でぐったりするリュードを残して、ラストは軽やかな足取りで部屋を出て行った。
「ありがとうございました。こちらを」
「これは?」
「増血剤です。多めに血をいただきましたので」
ヴィッツはリュードに赤い錠剤を渡した。
血人族が飲んでいる血液の錠剤にも似ているけれど血を増やしてくれるもののようだった。
ヴィッツもペコリと頭を下げて部屋を出ていく。
こんなに大量に血を取られるのが普通なら二回目はないなと思いながら回復に努めようと増血剤を飲んでリュードは眠りについたのだった。
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