何もできないと思われていたラストが大人の試練を乗り越えて周りも実力があるのではないかと思いはじめた。
ラストに傾きはじめた目障りな中立派に、ベギーオは手をかけた。
誰もいきなり暗殺されるだなんて思ってもいないので簡単だった。
あとはダンジョンに放り込んでしまえば死体の処理とダンジョン強化が同時にできる。
これを好機とばかりにベギーオは周辺を自分の都合の良い人で固めるために整理していった
不可解な失踪を遂げた人が何人も出たが、国は愚かなことにその捜索をベギーオに依頼してしまった。
「上手くいった。上手くいく、はずだった……」
ただベギーオはやりすぎたのだ。
ダンジョンは与えられる死体を受けて強化され、魔物の数を増やし、そして爆発してしまった。
ダンジョンブレイクが起きることはベギーオにとって青天の霹靂であった。
「あとちょっとだったのに……何もかも上手くいかない……。全部。全部ラスト、お前のせいだ!」
「いたっ……」
怒りで手に力が入り、レストの首に剣が触れる。
浅く首が切れて血が流れてレストが顔をしかめる。
「やめて!」
「ラスト……私はいいから」
「よくないよ!」
「美しい姉妹愛だな!」
ベギーオが手を上げると隠れていた男たちが一斉にリュードたちを取り囲む。
当然ながらベキーオは自分たちだけでなんとかしようなんて思っていなかった。
かなりキツいはずの大人の試練を乗り越えてきたラストや仲間にはそれなりの力があることは確実なのでベギーオも雇った仲間を潜ませていた。
「ほらよ」
ナイフを取り出すとラストの前に投げ落とす。
「自分で、自分を刺すんだ」
「なっ、そんなこと!」
ベキーオはとんでもないことをラストに要求した。
「うるさい!」
「キャア!」
歪んだ笑みを浮かべたベギーオにレストが抗議して頬を叩かれる。
女性に対しても容赦のない一撃。
それを見てバロワの体がピクリと揺れ顔をしかめたのをリュードは見た。
「待って! 分かった……分かったからお姉ちゃんに手を出さないで!」
ベギーオの狙いはラスト。
レストが殴られたりする必要はない。
「リューちゃん、どうするの」
ルフォンが小声でリュードに尋ねる。
どうすべきなのかリュードも迷っていた。
なんとかしたいのだけれどレストが人質に取られてしまっているし、ベギーオの部下に囲まれているので動けない。
これまでの態度を見ればベギーオはレストに手を下すことにもためらいはない。
なんのきっかけもなく行動を起こすことができない。
「おにいちゃん!」
「えっ?」
「こっちこっち」
この場にふさわしくない幼い声が聞こえてリュードは驚いた。
なんとかリアクションしないように耐えてよく声を聞いてみるとどこかで聞いたことがある声でリュードをおにいちゃんと呼んだ。
ベギーオたちにはバレないように周りを見渡して、リュードはそれに気づいた。
リュードたちの近くにある岩の影の中で黒い影の中に二つの金色の瞳が浮いていた。
「僕だよ、ルオランだよ」
それはモノランの姉の子供であるルオランであった。
山に登りはじめた時は朝だったけれど、休みなく登り続けてここに来るまでにおよそ半日かかった。
もう辺りも薄暗くなってきてしまっているので黒いルオランは影と同化していて誰も気づいていなかった。
「何してるの?」
ヒソヒソと話しかけてくるルオラン。
ルフォンにも聞こえているようで耳をピクピクと動かしている。
けれどもリュードに話しかけていることも分かっているので聞こえないふりをして周りの警戒を続けている。
「何って色々とピンチなんだ」
「モノお姉ちゃん呼んでこようか?」
「……そうだな、お願いするよ。出来るだけ派手に登場するように言ってくれ」
「分かった!」
小柄なルオランは影から影へと素早く移動する。
視線は向けられないので視界の端で見ていたがあっという間に闇に紛れて消えていって分からなくなってしまった。
周りを囲むベギーオの手下たちもルオランに気づかなかった。
「……待ってくれ!」
震える手でナイフを取ったラストは今まさに胸に自らナイフを突き立てようとしていた。
「なんだ貴様、邪魔をするな!」
「ラストが死んだらお前はどうなる」
「なんだと?」
「ラストが死んだとしてもあんたは助からないだろう。むしろラストを殺害して逃げたとなれば一生追いかけられるはずだ」
「それがどうした! ダンジョンブレイクを起こしてしまった時点でもうこの国での俺は終わりだ。全てを失ったのだ!
だから、だからラストだけは許さない……それには俺にはあの方がいる……捕まりさえしなければまた返り咲くことだって…………」
ベキーオの怒りに満ちた瞳がほんの一瞬虚ろになってリュードはそれが気になった。
「……ダンジョンブレイクの件ならまだ理由だって付けられるだろう」
ベギーオの見せた変化を疑問に思うが今はそこに触れている暇はない。
「何が言いたい?」
「ダンジョンブレイクは放っておかれても起きるものだけど稀に突発的に発生することもあるんだ。ダンジョンのことは誰にも分からない。
管理されていてもダンジョンブレイクが起こる可能性はあるんだから、なにもダンジョンブレイクをあんたが起こしてしまったと責任を取ることはないじゃないか!」
かつてダンジョンブレイクが突発的に起きてしまって街が滅んでしまった例がある。
今回については何が原因かは判明していないし、突発的なら原因も判明はしない。
一概にベギーオがダンジョンブレイクを起こしたとは言い切れないと言い訳することはできる。
「はははっ、面白いことを言うな貴様。お前のようなものが側にいたら違っていたかもしれないな。だがもう遅いのだ!
たとえそのような理由づけができたとしても今となってはただの後付けになってしまう。俺にはラストを殺すしか残された道はないのだ」
なんでそんな道しか残されていないのだ。
怒りはベギーオの目を曇らせ、破滅の道しか見えなくさせている。
ラストに傾きはじめた目障りな中立派に、ベギーオは手をかけた。
誰もいきなり暗殺されるだなんて思ってもいないので簡単だった。
あとはダンジョンに放り込んでしまえば死体の処理とダンジョン強化が同時にできる。
これを好機とばかりにベギーオは周辺を自分の都合の良い人で固めるために整理していった
不可解な失踪を遂げた人が何人も出たが、国は愚かなことにその捜索をベギーオに依頼してしまった。
「上手くいった。上手くいく、はずだった……」
ただベギーオはやりすぎたのだ。
ダンジョンは与えられる死体を受けて強化され、魔物の数を増やし、そして爆発してしまった。
ダンジョンブレイクが起きることはベギーオにとって青天の霹靂であった。
「あとちょっとだったのに……何もかも上手くいかない……。全部。全部ラスト、お前のせいだ!」
「いたっ……」
怒りで手に力が入り、レストの首に剣が触れる。
浅く首が切れて血が流れてレストが顔をしかめる。
「やめて!」
「ラスト……私はいいから」
「よくないよ!」
「美しい姉妹愛だな!」
ベギーオが手を上げると隠れていた男たちが一斉にリュードたちを取り囲む。
当然ながらベキーオは自分たちだけでなんとかしようなんて思っていなかった。
かなりキツいはずの大人の試練を乗り越えてきたラストや仲間にはそれなりの力があることは確実なのでベギーオも雇った仲間を潜ませていた。
「ほらよ」
ナイフを取り出すとラストの前に投げ落とす。
「自分で、自分を刺すんだ」
「なっ、そんなこと!」
ベキーオはとんでもないことをラストに要求した。
「うるさい!」
「キャア!」
歪んだ笑みを浮かべたベギーオにレストが抗議して頬を叩かれる。
女性に対しても容赦のない一撃。
それを見てバロワの体がピクリと揺れ顔をしかめたのをリュードは見た。
「待って! 分かった……分かったからお姉ちゃんに手を出さないで!」
ベギーオの狙いはラスト。
レストが殴られたりする必要はない。
「リューちゃん、どうするの」
ルフォンが小声でリュードに尋ねる。
どうすべきなのかリュードも迷っていた。
なんとかしたいのだけれどレストが人質に取られてしまっているし、ベギーオの部下に囲まれているので動けない。
これまでの態度を見ればベギーオはレストに手を下すことにもためらいはない。
なんのきっかけもなく行動を起こすことができない。
「おにいちゃん!」
「えっ?」
「こっちこっち」
この場にふさわしくない幼い声が聞こえてリュードは驚いた。
なんとかリアクションしないように耐えてよく声を聞いてみるとどこかで聞いたことがある声でリュードをおにいちゃんと呼んだ。
ベギーオたちにはバレないように周りを見渡して、リュードはそれに気づいた。
リュードたちの近くにある岩の影の中で黒い影の中に二つの金色の瞳が浮いていた。
「僕だよ、ルオランだよ」
それはモノランの姉の子供であるルオランであった。
山に登りはじめた時は朝だったけれど、休みなく登り続けてここに来るまでにおよそ半日かかった。
もう辺りも薄暗くなってきてしまっているので黒いルオランは影と同化していて誰も気づいていなかった。
「何してるの?」
ヒソヒソと話しかけてくるルオラン。
ルフォンにも聞こえているようで耳をピクピクと動かしている。
けれどもリュードに話しかけていることも分かっているので聞こえないふりをして周りの警戒を続けている。
「何って色々とピンチなんだ」
「モノお姉ちゃん呼んでこようか?」
「……そうだな、お願いするよ。出来るだけ派手に登場するように言ってくれ」
「分かった!」
小柄なルオランは影から影へと素早く移動する。
視線は向けられないので視界の端で見ていたがあっという間に闇に紛れて消えていって分からなくなってしまった。
周りを囲むベギーオの手下たちもルオランに気づかなかった。
「……待ってくれ!」
震える手でナイフを取ったラストは今まさに胸に自らナイフを突き立てようとしていた。
「なんだ貴様、邪魔をするな!」
「ラストが死んだらお前はどうなる」
「なんだと?」
「ラストが死んだとしてもあんたは助からないだろう。むしろラストを殺害して逃げたとなれば一生追いかけられるはずだ」
「それがどうした! ダンジョンブレイクを起こしてしまった時点でもうこの国での俺は終わりだ。全てを失ったのだ!
だから、だからラストだけは許さない……それには俺にはあの方がいる……捕まりさえしなければまた返り咲くことだって…………」
ベキーオの怒りに満ちた瞳がほんの一瞬虚ろになってリュードはそれが気になった。
「……ダンジョンブレイクの件ならまだ理由だって付けられるだろう」
ベギーオの見せた変化を疑問に思うが今はそこに触れている暇はない。
「何が言いたい?」
「ダンジョンブレイクは放っておかれても起きるものだけど稀に突発的に発生することもあるんだ。ダンジョンのことは誰にも分からない。
管理されていてもダンジョンブレイクが起こる可能性はあるんだから、なにもダンジョンブレイクをあんたが起こしてしまったと責任を取ることはないじゃないか!」
かつてダンジョンブレイクが突発的に起きてしまって街が滅んでしまった例がある。
今回については何が原因かは判明していないし、突発的なら原因も判明はしない。
一概にベギーオがダンジョンブレイクを起こしたとは言い切れないと言い訳することはできる。
「はははっ、面白いことを言うな貴様。お前のようなものが側にいたら違っていたかもしれないな。だがもう遅いのだ!
たとえそのような理由づけができたとしても今となってはただの後付けになってしまう。俺にはラストを殺すしか残された道はないのだ」
なんでそんな道しか残されていないのだ。
怒りはベギーオの目を曇らせ、破滅の道しか見えなくさせている。