「俺はお前のことが昔から大嫌いなんだよ! 俺も昔は天才と呼ばれていた。王になるべく血の滲む努力をしてきた。
なのに! なんで! 先祖返りというだけで! お前が可愛がられて、俺と比較されて、俺の方が劣る扱いを受けなきゃならないんだよ!」
昔からとは言ってもラストが生まれてすぐの頃はベギーオも妹に殺意を向ける人物ではなかった。
守るべき妹だとそんな風に思っていた時期もある。
長兄だからではなく本当にベギーオも才能があって努力もするし、勉学にも勤勉で周りも未来の王様だともてはやした。
ベギーオ自身もそのことを強く意識して過ごしていた。
しかし喜ばしかったはずの妹の誕生で全てが狂い始めた。
生まれ持って背中に小さな翼を生やしたラストは先祖返りだった。
魔力があって身体的な能力に優れていた。
その上才能があって賢く、可愛らしくもあったのでヴァンにも可愛がられた。
先祖返りとして生まれただけの幼子が注目を集め、すぐに政治的なことも動き出した。
ラストは特別だとみんなが言った。
ベギーオに取り入ることに失敗した人やベギーオに気に入られなかった人はラストを王様にと担ぎ出そうとした。
先祖返りで才能があるなら自然な流れなのだけどベギーオからするとこれまで安泰に思えた王様への道がひどく揺らいで、自分の地位を脅かされることになった。
ベギーオを未来の王だと担いでいた人たちも態度が変わった。
より擦り寄ってくるか、冷たく手のひらを返すか両極端になった。
まだ将来が分からない以上は完全に突き放されることもなかったが、周りはベギーオに対してイエスマンしか居なくなった。
怒られることも咎められることもない。
けれどベギーオ本人にも手が出せないところで王位争いは加熱する。
これまで優しくて立派な王様になりなさいと言ってくれていた母親までもが変わり始めた。
「全て……お前のせいなんだ!」
優しかった母親は目が普通ではなくなり、ベギーオの肩を強く掴んで絶対王になれと何回も言った。
王にならなければならない。
いつしかベギーオの心はガチガチにがんじがらめにされてしまっていた。
「そんなこと……」
一方でラストはのほほんと暮らしていた。
末娘だったラストは特に可愛がられ、王位争いにも特に興味がなかった。
ヴィッツなどはそんな大人の醜い争いからラストのことを守ってくれていたし、レストも優しくラストのことを見守っていた。
ラストだってツラい環境にはあった。
でも周りのみんなのおかげで真っ直ぐに育つことができた。
けれどもベギーオはそんな中で歪んでしまったのだ。
王にならなければいけない思い込みが膨らみ、ラストを敵視するようになった。
敵意はやがて恨みになり、そして恨みは殺意に変わった。
ダンジョンブレイクが起きてしまって大きな失敗をしてしまった。
全てを失うような失敗をしてベギーオは考えた。
これは全部ラストのせいだ。
アイツがいなければ、アイツさえ劣れば、死ねば、生まれなければ。
黒い考えが胸の中に渦巻き、ダンジョンブレイクの失敗も全てラストの責任であるとベギーオは思い込んだ。
あるいは誰かがそんなことをベギーオに吹き込んだのかもしれない。
自分のことは棚に上げて、こんなことになった原因はラストであり、たとえこの先に何があろうともラストだけは許せないとねじ曲がった考えに支配されていた。
「待ってくれよ兄さん、こんなことをやるだなんて聞いてないよ!」
プジャンは状況をいまいち理解できていなかった。
この状況を作り出したのはベギーオであり、元々計画されていたものでもない。
プジャン自身もラストたちと同様にいきなり手紙を受けて呼び出されたのであって、ベギーオが人質をとってラストと対峙するつもりなことは知らなかった。
自分の領内でのことでもあるし慌てて駆けつけただけなのである。
「うるさい、この無能が! 誰がお膳立てをしてお前を大領主にしてやったと思っている! お前が俺のいう通りにここでラストを消していればこんなことにならずに済んだんだよ!」
「兄さんの言う通りにしただろ! でも奴らは死ななかった! ペラフィランなんて魔物はいなかったんだよ!」
ベギーオの策は途中までは上手くいっていた。
モノランがリュードたちを襲うことになった悲惨な出来事をやったのはプジャンであったのだが、そうするように仕向けたのはベギーオであった。
全ては計算の上での作戦だった。
ラストがペラフィランに殺されて、困り果てたプジャンのところにベギーオが助けを出す。
最終的にはラストを殺したペラフィランをベギーオが倒すことで実力の証明にもなるし、妹の仇を討ったといういかにもないエピソードまで得られる。
そんなことを考えていたのである。
ただその計算にリュードは存在してなかった。
たまたま雷の神様の加護を受けていたリュードがいたことであと一歩のところで計画は破綻してしまった。
ただプジャンはペラフィランなんておらず暗殺者たちはペラフィランがいなかったのでしょうがなくラストを暗殺しようとして失敗したと思っている。
ラストにはプジャンが狡猾な男にみえていた。
しかしプジャンはその実、能力の高い男ではなかった。
なのに嫉妬深く虚栄心が高くて自分に合わない地位を欲する野心家だった。
そこにベギーオは目をつけた。
実に操りやすかった。
目の前に餌をぶら下げればなんでもやるし、それを自分の手柄だと勘違いして1人で気持ち良くなっていたので楽だった。
なのに! なんで! 先祖返りというだけで! お前が可愛がられて、俺と比較されて、俺の方が劣る扱いを受けなきゃならないんだよ!」
昔からとは言ってもラストが生まれてすぐの頃はベギーオも妹に殺意を向ける人物ではなかった。
守るべき妹だとそんな風に思っていた時期もある。
長兄だからではなく本当にベギーオも才能があって努力もするし、勉学にも勤勉で周りも未来の王様だともてはやした。
ベギーオ自身もそのことを強く意識して過ごしていた。
しかし喜ばしかったはずの妹の誕生で全てが狂い始めた。
生まれ持って背中に小さな翼を生やしたラストは先祖返りだった。
魔力があって身体的な能力に優れていた。
その上才能があって賢く、可愛らしくもあったのでヴァンにも可愛がられた。
先祖返りとして生まれただけの幼子が注目を集め、すぐに政治的なことも動き出した。
ラストは特別だとみんなが言った。
ベギーオに取り入ることに失敗した人やベギーオに気に入られなかった人はラストを王様にと担ぎ出そうとした。
先祖返りで才能があるなら自然な流れなのだけどベギーオからするとこれまで安泰に思えた王様への道がひどく揺らいで、自分の地位を脅かされることになった。
ベギーオを未来の王だと担いでいた人たちも態度が変わった。
より擦り寄ってくるか、冷たく手のひらを返すか両極端になった。
まだ将来が分からない以上は完全に突き放されることもなかったが、周りはベギーオに対してイエスマンしか居なくなった。
怒られることも咎められることもない。
けれどベギーオ本人にも手が出せないところで王位争いは加熱する。
これまで優しくて立派な王様になりなさいと言ってくれていた母親までもが変わり始めた。
「全て……お前のせいなんだ!」
優しかった母親は目が普通ではなくなり、ベギーオの肩を強く掴んで絶対王になれと何回も言った。
王にならなければならない。
いつしかベギーオの心はガチガチにがんじがらめにされてしまっていた。
「そんなこと……」
一方でラストはのほほんと暮らしていた。
末娘だったラストは特に可愛がられ、王位争いにも特に興味がなかった。
ヴィッツなどはそんな大人の醜い争いからラストのことを守ってくれていたし、レストも優しくラストのことを見守っていた。
ラストだってツラい環境にはあった。
でも周りのみんなのおかげで真っ直ぐに育つことができた。
けれどもベギーオはそんな中で歪んでしまったのだ。
王にならなければいけない思い込みが膨らみ、ラストを敵視するようになった。
敵意はやがて恨みになり、そして恨みは殺意に変わった。
ダンジョンブレイクが起きてしまって大きな失敗をしてしまった。
全てを失うような失敗をしてベギーオは考えた。
これは全部ラストのせいだ。
アイツがいなければ、アイツさえ劣れば、死ねば、生まれなければ。
黒い考えが胸の中に渦巻き、ダンジョンブレイクの失敗も全てラストの責任であるとベギーオは思い込んだ。
あるいは誰かがそんなことをベギーオに吹き込んだのかもしれない。
自分のことは棚に上げて、こんなことになった原因はラストであり、たとえこの先に何があろうともラストだけは許せないとねじ曲がった考えに支配されていた。
「待ってくれよ兄さん、こんなことをやるだなんて聞いてないよ!」
プジャンは状況をいまいち理解できていなかった。
この状況を作り出したのはベギーオであり、元々計画されていたものでもない。
プジャン自身もラストたちと同様にいきなり手紙を受けて呼び出されたのであって、ベギーオが人質をとってラストと対峙するつもりなことは知らなかった。
自分の領内でのことでもあるし慌てて駆けつけただけなのである。
「うるさい、この無能が! 誰がお膳立てをしてお前を大領主にしてやったと思っている! お前が俺のいう通りにここでラストを消していればこんなことにならずに済んだんだよ!」
「兄さんの言う通りにしただろ! でも奴らは死ななかった! ペラフィランなんて魔物はいなかったんだよ!」
ベギーオの策は途中までは上手くいっていた。
モノランがリュードたちを襲うことになった悲惨な出来事をやったのはプジャンであったのだが、そうするように仕向けたのはベギーオであった。
全ては計算の上での作戦だった。
ラストがペラフィランに殺されて、困り果てたプジャンのところにベギーオが助けを出す。
最終的にはラストを殺したペラフィランをベギーオが倒すことで実力の証明にもなるし、妹の仇を討ったといういかにもないエピソードまで得られる。
そんなことを考えていたのである。
ただその計算にリュードは存在してなかった。
たまたま雷の神様の加護を受けていたリュードがいたことであと一歩のところで計画は破綻してしまった。
ただプジャンはペラフィランなんておらず暗殺者たちはペラフィランがいなかったのでしょうがなくラストを暗殺しようとして失敗したと思っている。
ラストにはプジャンが狡猾な男にみえていた。
しかしプジャンはその実、能力の高い男ではなかった。
なのに嫉妬深く虚栄心が高くて自分に合わない地位を欲する野心家だった。
そこにベギーオは目をつけた。
実に操りやすかった。
目の前に餌をぶら下げればなんでもやるし、それを自分の手柄だと勘違いして1人で気持ち良くなっていたので楽だった。