「あそことあそこ……あれとあそこかな」

 丘と呼ぶべきか小山とでも呼ぶべきか。
 地面の起伏も激しくなり、地面の盛り上がったところも結構高さがある。

 ここまで来ると丘というよりかは小さくても山と呼ぶべきな気がしている。
 とりあえず階段を探すためには上から見る方がいい。
 
 山の上からグルリと周りを見渡して階段が見えなきゃ草が生い茂って地面を隠しているところに目星をつけておく。
 直接見えないのならまた草の中に隠すように階段がある可能性があるからだ。

 先ほどの舌で引きずられたことがトラウマなのかツィツィナはカエルを見るたびビクついている。
 草の中に階段を見つけた時はツィツィナもほっと胸を撫で下ろしていた。

「聞いていた通りだけど不思議なもんだよな」

 そして地下八階に降りてきた。
 またも石の扉があって、二回目の中ボス戦となった。

 相手も魔物はデカいトカゲとデカいカエルだった。
 カエルはツィツィナがいたら卒倒していたかもしれないほどの大きさがあった。

 たがしかし、リュードたちの相手ではなかった。
 今回も中ボスをさっさと倒すことに成功した。

 デカいだけで特殊な能力などもないので全く問題がなかったのである。

「一度休憩しようか」

 扉が開いたのでツィツィナを呼び込んだ。
 ここまで階段があればすぐに降りてきたのだけどここは一度立ち止まって休むことにした。
 
 階段を降りてフィールドに出てしまうと敵は弱くても数はそれなりにいるので気は休まらない。
 ボス部屋はボスを倒せばしばらく魔物が出てこないので休むのにもちょうどいい。

 ダンジョンの中はどのフィールドも基本的に明るかった。
 どの階層も大体昼間の時間帯ぐらいに設定されているのか日は見えなくても昼間の明るさがあった。

 つまり外の時間と中の時間はリンクしていないということになる。
 常に明るいフィールドに居続けると時間の感覚もなくなる。

 ダンジョンに入ったのは朝早くだった。
 かなり早いペースでダンジョンを攻略していて、今の時間はおそらく昼をかなり過ぎてしまっているのではないかとリュードは思っていた。

 もっと前に休むべきだったが、初めてのダンジョンにリュードも知らず知らずのうちに感覚を狂わされていた。
 気づけばお腹も空いている。

 もっとヘタをすると夕方ぐらいにもなっている可能性すらもあった。
 ここは冷静になって食事でも取りながら休むのがいいだろうと思った。
 
 リュードは腰に付けたカバンの中から昼食を取り出してラストに渡す。

「ツィツィナは?」

「あっ、えっと……」

「……ほら」

「すいません……」

 またも大失態だとツィツィナは顔を赤くした。
 ダンジョンのことは事前に調べて聞いていたはずなのに、すっかりこうしたことが頭から抜け落ちていた。

 見届け人の仕事を任されるなんて初めてのことで禁止事項などを頭に入れるのにいっぱいいっぱいになっていた。
 真面目なツィツィナなら大丈夫だろうと他の人も確認することを怠ってツィツィナは昼食を持ってくることも忘れてしまっていたのである。

 リュードが多めに持ってきた昼食をツィツィナに渡す。
 賄賂に当たってしまうので断るべきだけどもうすでに足を引っ張っているのに空腹でさらに足手まといになっては笑い話にもできない。

 ご飯を多めに作って持たせてくれたルフォンに感謝である。
 旅の中でコンロも使えないので彩鮮やかとはいかないけれど焚き火料理もルフォンは相当な腕前である。
 
 簡易的な料理ではあるものの、パンと干し肉をかじっているよりは遥かに美味いものをルフォンは持たせてくれていた。
 周りの目がなきゃもっとちゃんとお弁当を作ってくれていたんだろうけど、今ある最大限で作ってくれたものでもご馳走であった。

「それにしてもサキュルラスト様、お強いのですね!」

 兵士であるツィツィナは食べるも早い。
 ルフォンの料理の美味しさもあってあっという間に食べきり、少し手持ち無沙汰になる。

 か弱いラストをよくよく護衛するように!
 王様がわざわざ直で来て下していった命令。
 
 ガチガチになっていたツィツィナは王様の顔やなんかは覚えておらず、この命令だけをしっかり覚えていた。
 兵士たちの間ではラストの評価は割れていた。
 
 ツィツィナたちのような若い兵士たちにはラストは能力が低く、王様の寵愛で大領主になったなんて噂もあるぐらいだった。
 大きく嫌われているわけじゃないけど血筋だけでいい地位をもらえたことに対して嫌っている人もいた。
 
 ツィツィナは羨ましいとは思うけど嫉妬するまでは思わなかった。
 頭も良くて書類仕事を任されることもあるので大領主になんかなるとたくさんの書類仕事がありそうなことが予想できて、身震いする気分であったからだ。

 逆に年配の兵士たちの間ではラストの評価は様々であった。
 ラストに対して否定的な派閥に所属する兵士はラストのことをこき下ろす。
 
 とことんまで気に入らないようできっとラストが咳をしただけでも文句を言うだろう。
 ラストに対して好意的な派閥は、少ないのであまり見かけないのだがそうした人はあまり何かを言わない。
 
 否定派に食ってかかることもなく、良い点を吹聴して回ることもない。
 ラストが目立つことを嫌っているのを知っているからそうした好意的な派閥の人は何も言わないでいたのである。

 そして中立的な人で昔のラストを知っている人はラストには才能があるという。
 実際昔ラストは才能の塊と評してもいいぐらいの子供であり、中立的な立場でちゃんとラストを評価すると闘えないと考える方がおかしいのである。